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4章
誰と踊るの5
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こんなエレガントな燕尾服、果たして自分に似合うのだろうか。
当初サランが用意してくれたもう少しカジュアルな服でよかったのではないか。
不安と恥ずかしさから天幕をそっと開けた。
「……っユノ……っ」
ユノの姿を見た途端、サランが両手で口を抑えた。
「あ……やっぱり似合ってない……よね……」
サランの反応を見てユノが言うと、イヴァンがそれを否定するように優雅に顔の前で手を振った。
「違うよ。逆だよ。ね。サラン?」
先日、一緒にいなくなったユノを探すというハプニングがあって顔見知りになっていたイヴァンとサラン。
イヴァンが覗き込むと、サランはこくこく、と首を激しく縦に振って頷いた。
「うわぁ……ぴったり過ぎて贈り主怖っ。でもすごく似合ってるよ! ユノ! 絶対それで晩餐会参加した方がいい」
「ええ……?」
ユノが戸惑いの声を漏らす。
「サランの言うとおりだよ。すごく似合っている。それに僕も今夜はこのとおりモストフォーマルで参加するから、そのテールコートならバランスもいいと思うよ」
「確かに。僕の貸す服じゃイヴァンの隣だと少し浮いちゃうかも」
畳みかける様に二人に言われてもユノにはまだ迷いがあった。
「贈り主にはユノが笑ってありがとう、と言えば大丈夫だよ。さぁ、もう時間があまりない。準備の途中だったんだろう?」
「そうだね。服は着替えたからいいとして、髪の毛のセットはしなくちゃ。さぁ、ユノここに座って」
サランの傍にある椅子を指し示されて、二人の勢いに押された形でユノが座ると部屋の扉が再び開いた。
「平民は部屋に鍵も掛けねぇのかよ」
そう言って扉を開けた屈強な男はずかずかと部屋に入ってきた。
彼も晩餐会にもちろん参加するのだろう。とても美しく装っていた。
「ちょっと! 勝手に入ってこないでよ! 鍵はイヴァンを入れてあげた後締め忘れただけだから!」
サランは部屋に入ってきた男が美しく装っていようがいまいが関係ないらしく、男に向かって声を荒げた。
「なんだ、イヴァンも来ていたのか」
男はサランの荒げた声などものともしない様子でイヴァンに向かって肩を竦めた。
「僕はユノにプレゼントを届ける様に言付かってね」
「あぁ。そのテールコートな。確かに平民には手の届かなそうな一流品だがユノにはすごく似合っている」
相変わらずの口調であったが、アンドレアはユノの装いを眺めると、その赤い瞳を細めて称賛の言葉を呟いた。
「あ……ありがとう、アンドレア」
アンドレアの素直な賛辞がくすぐったくて、ユノは頬が熱くなるのを感じた。
「ね。アンドレアはお世辞なんか言いそうにないでしょう? これで参加するのが正解だよ、ユノ。ところでアンドレアは何の用事でこの部屋に来たんだい?」
イヴァンがアンドレアに尋ねた。
「どうせ平民は学園まで歩いて行くか箒で行くかだろうと思って、馬車で迎えに来てやった」
そう言ってアンドレアはユノのベッドにどっかり座った。
「あ―!! ちょっと! ユノのベッドに座らないでもらえます?!」
ユノの髪を纏めながらサランがアンドレアを怒る。
「うるせぇな。狭い上にソファもねぇんだから仕方ないだろうが。っとに、貧乏くせぇ部屋だな」
アンドレアは赤い瞳をサランの方に動かして、鼻で笑って言った。
「なっ……あんたこそ部屋の主に許可を取ることもなく図々しく座ったりして、上流階級出身のくせに随分お行儀が悪いじゃん」
「なんだと?! てめぇ誰に向かって」
サランが言い返すと、アンドレアは激昂した。
「サランっ! アンドレアっ! メープルのクッキー食べる?」
今にも掴み合いそうな二人の間に入ってユノは慌てて言った。
「食べるっ」
「……食う」
「ぶ……っ」
二人の声がハモったところでイヴァンが吹き出すように笑った。
当初サランが用意してくれたもう少しカジュアルな服でよかったのではないか。
不安と恥ずかしさから天幕をそっと開けた。
「……っユノ……っ」
ユノの姿を見た途端、サランが両手で口を抑えた。
「あ……やっぱり似合ってない……よね……」
サランの反応を見てユノが言うと、イヴァンがそれを否定するように優雅に顔の前で手を振った。
「違うよ。逆だよ。ね。サラン?」
先日、一緒にいなくなったユノを探すというハプニングがあって顔見知りになっていたイヴァンとサラン。
イヴァンが覗き込むと、サランはこくこく、と首を激しく縦に振って頷いた。
「うわぁ……ぴったり過ぎて贈り主怖っ。でもすごく似合ってるよ! ユノ! 絶対それで晩餐会参加した方がいい」
「ええ……?」
ユノが戸惑いの声を漏らす。
「サランの言うとおりだよ。すごく似合っている。それに僕も今夜はこのとおりモストフォーマルで参加するから、そのテールコートならバランスもいいと思うよ」
「確かに。僕の貸す服じゃイヴァンの隣だと少し浮いちゃうかも」
畳みかける様に二人に言われてもユノにはまだ迷いがあった。
「贈り主にはユノが笑ってありがとう、と言えば大丈夫だよ。さぁ、もう時間があまりない。準備の途中だったんだろう?」
「そうだね。服は着替えたからいいとして、髪の毛のセットはしなくちゃ。さぁ、ユノここに座って」
サランの傍にある椅子を指し示されて、二人の勢いに押された形でユノが座ると部屋の扉が再び開いた。
「平民は部屋に鍵も掛けねぇのかよ」
そう言って扉を開けた屈強な男はずかずかと部屋に入ってきた。
彼も晩餐会にもちろん参加するのだろう。とても美しく装っていた。
「ちょっと! 勝手に入ってこないでよ! 鍵はイヴァンを入れてあげた後締め忘れただけだから!」
サランは部屋に入ってきた男が美しく装っていようがいまいが関係ないらしく、男に向かって声を荒げた。
「なんだ、イヴァンも来ていたのか」
男はサランの荒げた声などものともしない様子でイヴァンに向かって肩を竦めた。
「僕はユノにプレゼントを届ける様に言付かってね」
「あぁ。そのテールコートな。確かに平民には手の届かなそうな一流品だがユノにはすごく似合っている」
相変わらずの口調であったが、アンドレアはユノの装いを眺めると、その赤い瞳を細めて称賛の言葉を呟いた。
「あ……ありがとう、アンドレア」
アンドレアの素直な賛辞がくすぐったくて、ユノは頬が熱くなるのを感じた。
「ね。アンドレアはお世辞なんか言いそうにないでしょう? これで参加するのが正解だよ、ユノ。ところでアンドレアは何の用事でこの部屋に来たんだい?」
イヴァンがアンドレアに尋ねた。
「どうせ平民は学園まで歩いて行くか箒で行くかだろうと思って、馬車で迎えに来てやった」
そう言ってアンドレアはユノのベッドにどっかり座った。
「あ―!! ちょっと! ユノのベッドに座らないでもらえます?!」
ユノの髪を纏めながらサランがアンドレアを怒る。
「うるせぇな。狭い上にソファもねぇんだから仕方ないだろうが。っとに、貧乏くせぇ部屋だな」
アンドレアは赤い瞳をサランの方に動かして、鼻で笑って言った。
「なっ……あんたこそ部屋の主に許可を取ることもなく図々しく座ったりして、上流階級出身のくせに随分お行儀が悪いじゃん」
「なんだと?! てめぇ誰に向かって」
サランが言い返すと、アンドレアは激昂した。
「サランっ! アンドレアっ! メープルのクッキー食べる?」
今にも掴み合いそうな二人の間に入ってユノは慌てて言った。
「食べるっ」
「……食う」
「ぶ……っ」
二人の声がハモったところでイヴァンが吹き出すように笑った。
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