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4章
誰と踊るの6
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四人でアンドレアのビスコンティ家の馬車で学園の大広間がある本館に向かった。
戴冠式の日以来の美しい赤毛の馬が引くビスコンティ家の馬車。
晩餐会の会場である大広間のロビーに着くと、生徒会役員ではないサランはスタンダードクラスの生徒が多くいる席に着くと言い、あっさりと大広間の後方の出入り口の方に行ってしまった。
「そういえばアンドレアは誰とパートナーを組んでいるの?」
生徒会役員はパートナーを伴って晩餐会に参加する。
ユノをパートナーとして晩餐会に参加するイヴァンがアンドレアに尋ねた。
「いや。俺は今日誰も誘っていない」
平然と答えるアンドレア。
「誘ってないって……晩餐会には出るつもりなんだろう?」
イヴァンが驚いたように目を丸める。
「お前たちと三人で出席すればいいだろ?」
「……本当にアンドレアは破天荒なんだから」
はぁとイヴァンは溜息を吐いたが、ユノはそれも何だか面白そうで笑った。
「ユノがそれでも良さそうだから、いいよ。とりあえず三人で行こう。でも大広間に入るときは僕がユノをエスコートするから、アンドレア、君はうまく合わせてね」
「はいはい。ただ飯を食うだけなのに何人で行こうがどうだっていいじゃねぇか。面倒くせぇ」
そう言いながらも、大広間に入るときになると、ユノをエスコートするイヴァンがユノの腰に軽く手を添えると、イヴァンの反対側の隣でユノを守る様にアンドレアがすっと立った。
そして大広間に足を踏み入れた途端、美しいイヴァンと精悍なアンドレアが伴っているのがユノのような平民であったせいか、視線が一斉に自分に集中した気がした。
「気にすんな。堂々と歩け。お前も今日はそれなりに見える」
多くの視線にユノの体に緊張が走ったことを察したアンドレアがそう言った。
「キリヤとのダンスのレッスンのお陰かな。歩き方も優雅だし、大丈夫。堂々と歩いて」
イヴァンもそっと囁いてくれた。
そしてキリヤの名を聞いた途端、強張っていた体が優しく溶けた。
「ふふ。体は正直だね」
イヴァンが揶揄うので、軽く彼の腕を叩いた。
「俺、イヴァンのそういうとこ嫌なんだけど」
アンドレアが苦々しく言うのがおかしくてユノ思わず笑顔になった。
今宵の大広間は天井が星空になるように魔法が掛けられていて、夢のように美しかった。
席に着くまでの間、二人はまるでユノを守る騎士のようにユノをエスコートしてくれた。
そして三人が注目の的の中、席に着くと間もなく晩餐会は始まった。
イヴァンの選んだメニューはどれも素晴らしくて、夢中になって彼に感想を伝えながら食事をしていたその時だった。
「ありがとう、キリヤ。ほんと僕の好みよくわかってくれるよね」
大きな声が聞こえた方を見ると、キリヤがシュリに飲み物を渡しているところだった。
今宵のシュリは美しさに更に磨きが掛かっているようだった。
彼の髪は高い位置で結われ、よく見える耳にはキリヤの瞳のような真っ青なピアスが煌めいていた。
カフスなどにも青い宝石を使用しているようだった。
遠くからはユノが持っているあの青い魔法石ととても似ていると思った途端、胸が締め付けられるように苦しくなった。
キリヤのカフスも翡翠で作られているようで、シュリのグリーンの瞳を模しているようだった。
ユノの目には二人はとても仲が良さそうに見えた。
キリヤはユノに好きだと告げてくれた。
だが、彼と自分の間には果てしないほどの隔たりがあるとは、戴冠式を見ることによって心底実感させられた。
一緒にいるときの彼と、王族としての彼。
同じように見えないのに、同じ人。
好きだと言いながら、他にパートナーがいる。
自分には到底理解できない感覚があるのかもしれない。
そう思いながら離れた席に座る彼を見た。
プラチナ色の髪は煌めく会場の中でも、なお輝きを放っていて、誰よりも美しく威厳があった。
あんな美しい存在を自分だけのものにしたいだなんて、そんな願いを持つだけでひどい罰が下りそうだ。
彼が誰かと親密な様子を見せたからと言ってこんな気持ちになるのは、思い上がりもいいところなのに。
ユノはこれまで縁のなかった嫉妬という感情がこれほど苦しいものとは知らなかった。
「おい、大丈夫か?」
隣に座っていたアンドレアが心配そうにユノを覗き込んだ。
「口に合わないものでもあった?」
続いてイヴァンもユノを覗き込んだ。
「大丈夫です。ちょっと考え事しちゃって」
二人を心配させないようにユノは微笑んで言った。
戴冠式の日以来の美しい赤毛の馬が引くビスコンティ家の馬車。
晩餐会の会場である大広間のロビーに着くと、生徒会役員ではないサランはスタンダードクラスの生徒が多くいる席に着くと言い、あっさりと大広間の後方の出入り口の方に行ってしまった。
「そういえばアンドレアは誰とパートナーを組んでいるの?」
生徒会役員はパートナーを伴って晩餐会に参加する。
ユノをパートナーとして晩餐会に参加するイヴァンがアンドレアに尋ねた。
「いや。俺は今日誰も誘っていない」
平然と答えるアンドレア。
「誘ってないって……晩餐会には出るつもりなんだろう?」
イヴァンが驚いたように目を丸める。
「お前たちと三人で出席すればいいだろ?」
「……本当にアンドレアは破天荒なんだから」
はぁとイヴァンは溜息を吐いたが、ユノはそれも何だか面白そうで笑った。
「ユノがそれでも良さそうだから、いいよ。とりあえず三人で行こう。でも大広間に入るときは僕がユノをエスコートするから、アンドレア、君はうまく合わせてね」
「はいはい。ただ飯を食うだけなのに何人で行こうがどうだっていいじゃねぇか。面倒くせぇ」
そう言いながらも、大広間に入るときになると、ユノをエスコートするイヴァンがユノの腰に軽く手を添えると、イヴァンの反対側の隣でユノを守る様にアンドレアがすっと立った。
そして大広間に足を踏み入れた途端、美しいイヴァンと精悍なアンドレアが伴っているのがユノのような平民であったせいか、視線が一斉に自分に集中した気がした。
「気にすんな。堂々と歩け。お前も今日はそれなりに見える」
多くの視線にユノの体に緊張が走ったことを察したアンドレアがそう言った。
「キリヤとのダンスのレッスンのお陰かな。歩き方も優雅だし、大丈夫。堂々と歩いて」
イヴァンもそっと囁いてくれた。
そしてキリヤの名を聞いた途端、強張っていた体が優しく溶けた。
「ふふ。体は正直だね」
イヴァンが揶揄うので、軽く彼の腕を叩いた。
「俺、イヴァンのそういうとこ嫌なんだけど」
アンドレアが苦々しく言うのがおかしくてユノ思わず笑顔になった。
今宵の大広間は天井が星空になるように魔法が掛けられていて、夢のように美しかった。
席に着くまでの間、二人はまるでユノを守る騎士のようにユノをエスコートしてくれた。
そして三人が注目の的の中、席に着くと間もなく晩餐会は始まった。
イヴァンの選んだメニューはどれも素晴らしくて、夢中になって彼に感想を伝えながら食事をしていたその時だった。
「ありがとう、キリヤ。ほんと僕の好みよくわかってくれるよね」
大きな声が聞こえた方を見ると、キリヤがシュリに飲み物を渡しているところだった。
今宵のシュリは美しさに更に磨きが掛かっているようだった。
彼の髪は高い位置で結われ、よく見える耳にはキリヤの瞳のような真っ青なピアスが煌めいていた。
カフスなどにも青い宝石を使用しているようだった。
遠くからはユノが持っているあの青い魔法石ととても似ていると思った途端、胸が締め付けられるように苦しくなった。
キリヤのカフスも翡翠で作られているようで、シュリのグリーンの瞳を模しているようだった。
ユノの目には二人はとても仲が良さそうに見えた。
キリヤはユノに好きだと告げてくれた。
だが、彼と自分の間には果てしないほどの隔たりがあるとは、戴冠式を見ることによって心底実感させられた。
一緒にいるときの彼と、王族としての彼。
同じように見えないのに、同じ人。
好きだと言いながら、他にパートナーがいる。
自分には到底理解できない感覚があるのかもしれない。
そう思いながら離れた席に座る彼を見た。
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あんな美しい存在を自分だけのものにしたいだなんて、そんな願いを持つだけでひどい罰が下りそうだ。
彼が誰かと親密な様子を見せたからと言ってこんな気持ちになるのは、思い上がりもいいところなのに。
ユノはこれまで縁のなかった嫉妬という感情がこれほど苦しいものとは知らなかった。
「おい、大丈夫か?」
隣に座っていたアンドレアが心配そうにユノを覗き込んだ。
「口に合わないものでもあった?」
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「大丈夫です。ちょっと考え事しちゃって」
二人を心配させないようにユノは微笑んで言った。
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