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4章

城下町のフェスティバル

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「前国王様の戴冠式なんて三十年も前だったもんね。何十年に一度の戴冠式だもん、そりゃ豪華だよねぇ」
正門に続く石畳のメインストリートには、屋台が並んでいて国民はどれでも無料で好きなだけ食べられるようになっていたり、花や風船がもらえたりするようで、多くの人で賑わっていた。
飾り立てられ華やかなお祝いムードで満ちている通りでアンドレアは馬車から降ろしてくれた。
「どうせ下らねぇもんを買い食いしたいんだろ」
なんて憎まれ口を叩いていたけれど、お勧めのレモネードやチーズグラタンの店を教えてくれた時の口調からアンドレアもフェスティバルを回りたいのが本音なのかもしれない。
サランもそれを感じ取ったのか、その点に関しては何も言わなかった。
そのまま王宮に向かい、王宮の騎士団として戴冠式に出席するアンドレアと別れて、ユノとサランは二人でフェスティバルを楽しんだ。
晴れ渡った青空までも王の戴冠式を祝福しているみたいだった。
「それにしても、この状態の王都に馬車で入れるなんて、さすがビスコンティ家だよな」
馬車の中では喧々諤々言い合っていたが、アンドレアが行ってしまうと素直に感嘆の声を漏らすサラン。
「箒で飛んで行こうと思っていたから楽できたね」
王都の観光名所でもある王宮の正門に続く石畳の道は、いつもならば馬車が多く通る道でもあるが、今日は人が多いため一般の馬車は入れなくなっていた。
その通りを歩きながら二人は話していた。
ユノのクルリ村のように、辺境の地からは難しいが、王都近郊の都市の者は全て集まったのではないかと思えるほどの人の多さだった。
「さすが戴冠式はすごい人の出だね」
王都出身のサランでさえ驚くほどの人の多さから、戴冠式の後から正式に始まるシュトレイン十五世の世に対する期待の大きさが伺える。
アンドレアお勧めの生のレモンが皮ごとたっぷり入っている冷たいレモネードはお洒落なカフェのものだった。今日は店先に出店を出していて、気軽に買って飲みながらメインストリートを歩けるようになっていた。
「あいつホント嫌な奴だったけど、貴族だけあって美味しいもの知ってるな」
サランはアンドレアに文句を言いながらも美味しそうにカップに口を付けていた。
混雑はしていたが至る所にベンチが設置されていたので、チーズグラタンやステーキ肉をひと口大に切ったものを串に刺した焼肉も店先で購入して楽しんだ。
「ユノ、お菓子たっくさん買ったね」
「村のお菓子って言ったらメープルを使ったものだけだからさ。それも美味しいけど、やっぱりチョコレートとか村じゃ手に入らないから人気なんだよね」
買ったものを大切そうに収納バッグに仕舞ったユノ。
「村の幼馴染達と本当に仲良しだよねぇ」
「兄弟みたいに育ったからね」
この華やかな王都の様子を故郷にいる幼馴染達にも見せてあげたい。
ユノが王都でいろんなことをしっかり学び、故郷を復興させてくれると信じてくれている幼馴染達の顔が脳裏に浮かぶ。
ユノはこのように街に遊びに出ることは滅多になく、珍しいことである。
しかし、そうでなくとも故郷の幼馴染達はユノが勉強ばかりではなく王都の生活を楽しんだって喜んでくれる。そんな奴らだ。
分かっているけれど、初等科を卒業してから村のために働き、高等教育を受けることを諦めた彼らの顔を思い出すと楽しむことが悪いことのように思えてしまう。
「ユーノ」
隣で焼肉の串に噛り付いていたサランが、真剣な色を浮かべた瞳でユノのことを見つめていた。
「勉強しないで、こんなところで自分だけ遊んでいていいのかな?ってまた思っちゃったんでしょう?」
木陰のベンチに心地よい風が吹いた。
「俺はみんなに進学させてもらってここにいるから……」
初等科を出たら村のために働くというのが当たり前のところで、幼馴染達はユノに知識を身につけさせることは故郷の発展に繋がると大人たちを説得してくれたのだ。
「ここまで脇目もふらずユノはよく頑張ったよ。僕にはとてもできないよ。七年生の学力なんてとっくに超えていると思うしこの国を代表するような魔法使いだ。だから息抜きしても大丈夫だし、たまに息抜きした方が勉強の効率も上がったりすると思うよ」
いつも真剣にユノのことを考えてくれる友人は明るい太陽のもと真摯に伝えてくれた。
「サラン……ありがとう」
「それにさ、王都のことを色々見て回るっていうのも、ユノの村の復興のためには役立つとも思うんだ。社会科見学っていうのかな。生徒会に入ったのも最初は心配だったけど、勉強以外のことも沢山知れて、きっとユノの役に立つと思うんだ。だから今日は楽しもう」
確かにサランの言うとおりだった。
今年は仮面舞踏会に行ってみたり、生徒会の仕事で忙しかったりで昨年より勉強する時間は取れないが、その分勉強するときは深く集中できている気がするし、視野も少し広くなったかもしれない。
「うん。そうだね」
ユノは優しい友人の言葉に微笑んだ。
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