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3章

告白

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この目を見続けてはいけない。
そう思って慌てて視線を下に向けた。
どうしても思い出す。
あの夜のことを。
仮面舞踏会の夜はなかったことにしたいから、今までそのことについて触れることはなかったんじゃないのか。
知らないふりをした方が、気づかないふりをした方がいい。
あの夜はなかったことにした方がいい。
暗黙の了解だと思っていた。
それなのに、なぜあの夜を辿るようなことをするのか。
こんなに脈打っては彼に聞こえてしまう。
思わず逃げるように体を離す。
「お願いだ……今日は逃げないで……」
彼のいつもより低く掠れた声。
「……ぁ……っ」
離そうとした体は、逆にさらに強く引き寄せられる。
耳奥に流された言葉が柔らかい風になってユノの耳を揺らしたせいで、甘い声が漏れて背中が震えてしまった。
「あの時も思ったが、耳が弱いんだな」
そう言ってキリヤはユノの耳にそっと唇を押し当てた。
「ひ……ぁ……あ……あの時って……っ」
キリヤの唇は酷く熱くて、触れたところから真っ赤になってしまっているだろうことがわかった。
それからキリヤはあの夜のようにユノの耳の裏のひどく皮膚の薄いところも、触れた。
「君は気づいているんだろう、とっくに」
どくん。
キリヤの言葉に、全身が心臓になったかのようにさらに激しく脈打った。
「……っ」
「仮面舞踏会で君にキスをしたのは、僕だよ」
薄く書かれているものを上からしっかりとなぞるように、はっきりと彼は言った。
「なかったことにした方がいいのかと思った……でも、やっぱりなかったことにはどうしてもできない……なかったことにしたくない」
彼の真剣な声に思わず顔を上げる。
青い瞳は強く、熱くユノを見ていた。
視線を絡めとられると、少しも外すことができない。
とても大切なものに触れるように、彼の大きな掌がユノの頬に触れる。
端正な顔が近づいてきて、ユノの唇に彼の吐息がかかった。
甘い吐息がかかった後に何が起こるか、知っているユノは身を固くした。
すると、キリヤはそんなユノの反応を感じたのか、ぴたりと動きを止めた。
「この前は我慢できなくて、悪かった……」
そう言って、キリヤはすうっと息を吸った。
緊張しているように見えた。
「ユノ、僕は君のことが好きだ」
言われた瞬間ユノの頭は真っ白になった。
国の王子で、美しいシュリと恋人だとか、貴族の魔女と婚約するだとか噂される彼がユノを好き?
突然のことに理解が追い付かない。
考えることは得意なはずなのに、頭が全然回らない。
「す……好きって……友達として、ですよね?」
回らない頭の中で、至った考えを口にする。
「いや。違う。友達じゃない。これは恋愛感情だよ。僕の恋人になって欲しいと思っている」
「は……?」
パニックを起こしながらも何とか考えたものをすぐに否定され、間抜けな声が漏れてしまった。
「ユノの気持ちを聞かせてほしい」
そう言った彼の声は掠れていた。
「お……俺の気持ち……? キリヤと友達になれて嬉しい、と思ったけど……恋人とか……そういうのは考えたこともなかった……」
ただ、彼に触られるとどうにかなりそうなほど心臓が激しく脈打って胸の奥が締め付けられそうになる。
わかるのは、それだけ。
「じゃあ答えは今すぐじゃなくて構わない。考えてみてくれないか」
すぐ近くで熱く見つめられる。視線だけで溶けてしまいそうだった。
「……んっ」
彼の親指がそっとユノの唇を撫でた。
「君から返事をもらうまでここに唇で触れるのは我慢する。何もしないから、ダンスの練習を続けるのは構わないか?」
許しを乞うような彼の申し出にユノは頷いた。
「よかった……君が僕じゃなくて別の誰かと練習するなんて耐えられそうにない」
そう言ってキリヤは眩しいくらい美しく笑った。
ダンスの練習はキリヤの侍従が迎えに来るまで続いた。
    
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