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3章
秘密の逢瀬2
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「確かに僕の使命は国のために尽くすことだから、基本的に僕に治癒魔法は必要ないのだが……」
寝起きのせいか少し掠れた声でゆっくりとキリヤは話す。
「キリヤは『光の魔法使い』ですもんね」
「あぁ。そうだ」
ユノが言うと、キリヤは頷いた。
キリヤは生まれながらにして『光の魔法使い』だと言われている。
そして、そのことをユノが知っているのは何ら特別なことではなく、国中が知るところだ。
だから、他に代わりのない『光の魔法使い』としての使命を果たすことにキリヤは全力を注げばいい。
治癒魔法は確かにとても大切なものだが、国には沢山の治癒魔法を使える者がいるのだ。
『光の魔法使い』がどれほどシュトレイン王国にとって大切なものかというと、それはユノの生まれ故郷であるクルリ村が戦場になってしまいユノが父母を失った戦いが大いに関係している。
隣国であるギルラディアは数十年前、黒魔法を使うドレイクが革命を起こし王国から共和国となった。
そして欲深いドレイクはギルラディア共和国の宰相になると、隣国であるシュトレイン王国にまで支配の手を伸ばそうと侵略を試みた。
これが先の戦いであるギルラディア大戦だ。
先代のシュトレイン十四世の時代、ギルラディアの侵入を許さなかったのだが、その勝因は黒魔法使いを封印できる『光の魔法使い』がいたことが大きいと言われている。
その『光の魔法使い』というのがキリヤの父親でもある現国王シュトレイン十五世の弟であるトーマであった。
シュトレイン王国は代々二番目に生まれる王子は、王である父親と世継ぎである兄を守るために『光の魔法使い』として産まれる。
だから、キリヤは若くして軍を指揮する立場でもあった。
そんなキリヤが秘密を打ち明けるようにユノに小さな声で言った。
「ところが、特性検査では僕はトーマ叔父上のように『戦士』ではなく、『治癒者』と出たんだ」
「え……?!」
初等教育を十三歳で卒業すると、魔法力や学力の高いものは高等教育に進学することができる。
その際、魔法使いや魔女達は皆特性検査を受け、それを参考に将来の職業を決め、高等教育機関で選ぶ授業を選択する。
生まれつき『光の魔法使い』なのだから、キリヤの特性は『戦士』であるに違いないとユノも思い込んでいた。
いや、ユノだけではなく多数の国民もそう思っているだろう。
「そう。だから僕は治癒者だから生まれつき治癒魔法はある程度使える……だがフライングレースのとき、君に治癒魔法を使ったときのことを覚えているだろう?」
「はい……」
フライングレースの後、背中に負った傷をキリヤに直してもらったときのことを忘れるはずがない。
学校の医務室や治癒院、サランに治癒魔法をしてもらうときには、神経を麻痺させる『パラリシス』を使用しての治癒になる。
しかし、正式に治癒魔法を習ったことのないキリヤの治癒魔法は『パラリシス』を使えずユノの神経に触れてしまいながらの治療であった。
「痛い思いをさせてしまい、申し訳なかった」
「いえ……っ」
ユノはどちらかというと、痛かったことよりも、傷が治ってきた辺りの薄皮越しに神経に触れるような、痺れるような感覚に襲われたとき、なんだかとても甘えるような声を出してしまったことが思い出されて耳が熱くなった。
「僕の特性が『治癒者』のせいもあるのかもしれないが、君の傷が治っていくのを見て、治癒魔法というのはやはり素晴らしいものだと強く思ったんだ。きちんと学んで、『パラリシス』を使用した治癒魔法や、君のように薬草の知識も得たいと思った。それで、履修届の提出期限ギリギリに治癒学の授業を取ることを決めたが、民からは余計なことをしている時間と受け取られてしまいかねないが」
「そんなことないと思います!」
キリヤの真剣だがどこか迷っているような口ぶりに、ユノは思わず大きな声を上げた。
寝起きのせいか少し掠れた声でゆっくりとキリヤは話す。
「キリヤは『光の魔法使い』ですもんね」
「あぁ。そうだ」
ユノが言うと、キリヤは頷いた。
キリヤは生まれながらにして『光の魔法使い』だと言われている。
そして、そのことをユノが知っているのは何ら特別なことではなく、国中が知るところだ。
だから、他に代わりのない『光の魔法使い』としての使命を果たすことにキリヤは全力を注げばいい。
治癒魔法は確かにとても大切なものだが、国には沢山の治癒魔法を使える者がいるのだ。
『光の魔法使い』がどれほどシュトレイン王国にとって大切なものかというと、それはユノの生まれ故郷であるクルリ村が戦場になってしまいユノが父母を失った戦いが大いに関係している。
隣国であるギルラディアは数十年前、黒魔法を使うドレイクが革命を起こし王国から共和国となった。
そして欲深いドレイクはギルラディア共和国の宰相になると、隣国であるシュトレイン王国にまで支配の手を伸ばそうと侵略を試みた。
これが先の戦いであるギルラディア大戦だ。
先代のシュトレイン十四世の時代、ギルラディアの侵入を許さなかったのだが、その勝因は黒魔法使いを封印できる『光の魔法使い』がいたことが大きいと言われている。
その『光の魔法使い』というのがキリヤの父親でもある現国王シュトレイン十五世の弟であるトーマであった。
シュトレイン王国は代々二番目に生まれる王子は、王である父親と世継ぎである兄を守るために『光の魔法使い』として産まれる。
だから、キリヤは若くして軍を指揮する立場でもあった。
そんなキリヤが秘密を打ち明けるようにユノに小さな声で言った。
「ところが、特性検査では僕はトーマ叔父上のように『戦士』ではなく、『治癒者』と出たんだ」
「え……?!」
初等教育を十三歳で卒業すると、魔法力や学力の高いものは高等教育に進学することができる。
その際、魔法使いや魔女達は皆特性検査を受け、それを参考に将来の職業を決め、高等教育機関で選ぶ授業を選択する。
生まれつき『光の魔法使い』なのだから、キリヤの特性は『戦士』であるに違いないとユノも思い込んでいた。
いや、ユノだけではなく多数の国民もそう思っているだろう。
「そう。だから僕は治癒者だから生まれつき治癒魔法はある程度使える……だがフライングレースのとき、君に治癒魔法を使ったときのことを覚えているだろう?」
「はい……」
フライングレースの後、背中に負った傷をキリヤに直してもらったときのことを忘れるはずがない。
学校の医務室や治癒院、サランに治癒魔法をしてもらうときには、神経を麻痺させる『パラリシス』を使用しての治癒になる。
しかし、正式に治癒魔法を習ったことのないキリヤの治癒魔法は『パラリシス』を使えずユノの神経に触れてしまいながらの治療であった。
「痛い思いをさせてしまい、申し訳なかった」
「いえ……っ」
ユノはどちらかというと、痛かったことよりも、傷が治ってきた辺りの薄皮越しに神経に触れるような、痺れるような感覚に襲われたとき、なんだかとても甘えるような声を出してしまったことが思い出されて耳が熱くなった。
「僕の特性が『治癒者』のせいもあるのかもしれないが、君の傷が治っていくのを見て、治癒魔法というのはやはり素晴らしいものだと強く思ったんだ。きちんと学んで、『パラリシス』を使用した治癒魔法や、君のように薬草の知識も得たいと思った。それで、履修届の提出期限ギリギリに治癒学の授業を取ることを決めたが、民からは余計なことをしている時間と受け取られてしまいかねないが」
「そんなことないと思います!」
キリヤの真剣だがどこか迷っているような口ぶりに、ユノは思わず大きな声を上げた。
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