39 / 123
3章
秘密の逢瀬1
しおりを挟む
イヴァンにダンスのパートナーに誘われてからしばらく過ぎた放課後、マリア女史に頼まれた書籍を本棚に戻してしまうと、ユノはいつもの『妖精の言語』書架の裏にある自習用の机で教科書を開いていた。
今週は提出する課題が五つもある上に小テストもいくつか控えていた。
それなのに、九月に五年生になってから中々勉強に集中できる時間が取りづらくなっていた。
しかもここのところ、何人かの生徒から交流会のダンスパーティのパートナーに、と声を掛けられていた。
今日も『錬金術』の授業が行われていた階段教室から図書館に移動するときに、フライングレースに出場していた選手の一人からダンスのパートナーにならないかと声を掛けられた。
イヴァンがパートナーに、と誘ってくれなかったら断る理由を探すのにも一苦労だったことだろう。
フライングレースで目立ってしまった話題の人物と、なんて思う人が案外多いことにユノは辟易としていた。
思わず溜息が漏れそうになったが、それどころではないとユノは頭を振って気持ちを切り替えた。
色々と心乱されることが多いからこそ、集中できるときには集中しなければならなかった。
一心不乱に教科書を捲り、羽根ペンを走らせる。
招待状は無事に作り終え、発送も行ったので、イヴァンと相談して今日は生徒会に行くのは一日だけ休みにしようということになったのだ。
閉館時間までしっかり勉強しよう。
そうやってしっかり集中すると課題は大体片付いた。
「一息いれようかな」
気分転換に見ようと思っていたオーディオブック。
イヴァンに勧められたダンスの基本について学べるそれ。
「全く、イヴァンの揶揄い方は趣味が悪い」
ダンスのパートナーにユノを誘ったあと、ユノの指先に口付けて悪戯な笑みを浮かべていたイヴァンのことを思い出してユノはため息を吐きながらオーディオブックに手を伸ばした。
後回しにしてしまっていたが、ダンスの練習もしないと不味いだろう。
何しろユノは正式なダンスが全く踊れないのだから。
オーディオブックを手に取り、顔を上げると眼の前にプラチナ色が広がった。
「あ……」
治癒学の教科書を読んでいたのか、教科書の上に顔を伏せるように眠っているみたいだった。
いつそこに座ったのかも分からなかったので、ユノが動揺するとその気配でプラチナ色の髪は揺れた。
「ん……ようやく気付いたのか。随分集中していたな」
教科書から上げたキリヤの顔は美しかったが、目の下には薄っすらとした隈が残っていた。
「すみません。気が付かなくて」
実はキリヤがこうして図書館で勉強するユノの元にふらりと現れるのは初めてのことではなかった。
毎日ではなかったが、初めて図書館で一緒に過ごしてから、ユノがこの一階の隅っこにある自習エリアに居る時間を把握したらしい彼はやって来て、わずかな時間だが静かに二人で過ごす。
「僕も治癒学の勉強をしなくてはと思ってここに来たんだが、集中するユノを見ながら今日は寝てしまった」
苦笑いをするキリヤのちょっとだけ気まずそうな表情は年相応の青年らしく見えた。
まだ寝起きのとろんとした青い瞳。
動きも気怠そうで、ゆっくりと眩い髪を掻き上げた。
「疲れているんじゃないですか? 無理せず寮に帰って少し休んだ方がいいと思いますよ」
無防備な彼に心臓が跳ね上がってしまったのを隠すように言う。
「戴冠式が近いからな。その準備で昨夜もまた城から戻って来るのが遅くなってしまった。だが治癒学は今年で二年目だろう? それを今年から始めるとなると、やはり去年の知識をきちんと入れないと付いていくのが難しい」
疲れのせいか、いつもより少しのんびりとした彼の声は耳に心地いい。
「そういえば、昨年取らなかったのに、なぜ今年から治癒学を?」
こんなに隈を作るほど忙しいのに、なぜ彼は課題も授業も難しい治癒学の授業を敢えて選択したのだろうか。
今週は提出する課題が五つもある上に小テストもいくつか控えていた。
それなのに、九月に五年生になってから中々勉強に集中できる時間が取りづらくなっていた。
しかもここのところ、何人かの生徒から交流会のダンスパーティのパートナーに、と声を掛けられていた。
今日も『錬金術』の授業が行われていた階段教室から図書館に移動するときに、フライングレースに出場していた選手の一人からダンスのパートナーにならないかと声を掛けられた。
イヴァンがパートナーに、と誘ってくれなかったら断る理由を探すのにも一苦労だったことだろう。
フライングレースで目立ってしまった話題の人物と、なんて思う人が案外多いことにユノは辟易としていた。
思わず溜息が漏れそうになったが、それどころではないとユノは頭を振って気持ちを切り替えた。
色々と心乱されることが多いからこそ、集中できるときには集中しなければならなかった。
一心不乱に教科書を捲り、羽根ペンを走らせる。
招待状は無事に作り終え、発送も行ったので、イヴァンと相談して今日は生徒会に行くのは一日だけ休みにしようということになったのだ。
閉館時間までしっかり勉強しよう。
そうやってしっかり集中すると課題は大体片付いた。
「一息いれようかな」
気分転換に見ようと思っていたオーディオブック。
イヴァンに勧められたダンスの基本について学べるそれ。
「全く、イヴァンの揶揄い方は趣味が悪い」
ダンスのパートナーにユノを誘ったあと、ユノの指先に口付けて悪戯な笑みを浮かべていたイヴァンのことを思い出してユノはため息を吐きながらオーディオブックに手を伸ばした。
後回しにしてしまっていたが、ダンスの練習もしないと不味いだろう。
何しろユノは正式なダンスが全く踊れないのだから。
オーディオブックを手に取り、顔を上げると眼の前にプラチナ色が広がった。
「あ……」
治癒学の教科書を読んでいたのか、教科書の上に顔を伏せるように眠っているみたいだった。
いつそこに座ったのかも分からなかったので、ユノが動揺するとその気配でプラチナ色の髪は揺れた。
「ん……ようやく気付いたのか。随分集中していたな」
教科書から上げたキリヤの顔は美しかったが、目の下には薄っすらとした隈が残っていた。
「すみません。気が付かなくて」
実はキリヤがこうして図書館で勉強するユノの元にふらりと現れるのは初めてのことではなかった。
毎日ではなかったが、初めて図書館で一緒に過ごしてから、ユノがこの一階の隅っこにある自習エリアに居る時間を把握したらしい彼はやって来て、わずかな時間だが静かに二人で過ごす。
「僕も治癒学の勉強をしなくてはと思ってここに来たんだが、集中するユノを見ながら今日は寝てしまった」
苦笑いをするキリヤのちょっとだけ気まずそうな表情は年相応の青年らしく見えた。
まだ寝起きのとろんとした青い瞳。
動きも気怠そうで、ゆっくりと眩い髪を掻き上げた。
「疲れているんじゃないですか? 無理せず寮に帰って少し休んだ方がいいと思いますよ」
無防備な彼に心臓が跳ね上がってしまったのを隠すように言う。
「戴冠式が近いからな。その準備で昨夜もまた城から戻って来るのが遅くなってしまった。だが治癒学は今年で二年目だろう? それを今年から始めるとなると、やはり去年の知識をきちんと入れないと付いていくのが難しい」
疲れのせいか、いつもより少しのんびりとした彼の声は耳に心地いい。
「そういえば、昨年取らなかったのに、なぜ今年から治癒学を?」
こんなに隈を作るほど忙しいのに、なぜ彼は課題も授業も難しい治癒学の授業を敢えて選択したのだろうか。
237
お気に入りに追加
4,316
あなたにおすすめの小説

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない
Ayari(橋本彩里)
BL
王都東支部の冒険者ギルド職員として働いているノアは、本部ギルドの嫌がらせに腹を立て飲みすぎ、酔った勢いで見知らぬ男性と夜をともにしてしまう。
かなり戸惑ったが、一夜限りだし相手もそう望んでいるだろうと挨拶もせずその場を後にした。
後日、一夜の相手が有名な高ランク冒険者パーティの一人、美貌の魔剣士ブラムウェルだと知る。
群れることを嫌い他者を寄せ付けないと噂されるブラムウェルだがノアには態度が違って……
冷淡冒険者(ノア限定で世話焼き甘えた)とマイペースギルド職員、周囲の思惑や過去が交差する。
表紙は友人絵師kouma.作です♪
【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者
みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】
リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。
ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。
そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。
「君とは対等な友人だと思っていた」
素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。
【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】
* * *
2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

からかわれていると思ってたら本気だった?!
雨宮里玖
BL
御曹司カリスマ冷静沈着クール美形高校生×貧乏で平凡な高校生
《あらすじ》
ヒカルに告白をされ、まさか俺なんかを好きになるはずないだろと疑いながらも付き合うことにした。
ある日、「あいつ間に受けてやんの」「身の程知らずだな」とヒカルが友人と話しているところを聞いてしまい、やっぱりからかわれていただけだったと知り、ショックを受ける弦。騙された怒りをヒカルにぶつけて、ヒカルに別れを告げる——。
葛葉ヒカル(18)高校三年生。財閥次男。完璧。カリスマ。
弦(18)高校三年生。父子家庭。貧乏。
葛葉一真(20)財閥長男。爽やかイケメン。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる