37 / 123
3章
シュリのいない生徒会室4
しおりを挟む
扉の向こうに消えていくプラチナブロンドを、つい目が追ってしまう。
しばらく彼が出て行った扉をじっと見つめていると、そのユノの様子をイヴァンが見ていることに気がついた。
ユノは小さく咳払いをしてから口を開いた。
「キリヤ、忙しそうだね。日が暮れてからも用があるなんて」
授業の課題、授業の予復習。生徒会の仕事もユノよりずっと多いし、さらに王家としての仕事もあるらしい。
ユノが言うと、イヴァンは片眉を上げた。
「戴冠式が近いからね。最近帰りはいつも真夜中なんだよ。で、門限に間に合いそうにないときは、僕が寮に届出を出してあげているんだ」
他の生徒会役員の前では然程仲がよくなさそうだったキリヤとイヴァンだが、今日は何だか二人の間に流れる空気がいつもと違った気がする。
「もしかして、イヴァンとキリヤも『秘密の友達』なんですか?」
「『秘密の友達』……? ぷっ……くくくっ」
その言葉を聞いてイヴァンは可笑しそうに笑った。
「……何か変なこと言いました?」
「いや、変なことなんて言ってないよ。そうだね。僕達『は』『秘密の友達』みたいなものかな」
「やっぱり、そうなんですね。王族は何でも注目の的になってしまうから、友達付き合いも苦労するんですね」
イヴァンが『は』と強調したことは特に気にせずにユノは頷いた。
キリヤの置かれる難しい立場が少しだけわかったような気がした。
だが、イヴァンとキリヤも『秘密の友達』と聞き、胸が少しだけ痛い。
彼の秘密の友達は願わくば自分だけがよかった、なんて狭量な考えだ。
ユノはそんな思いを振り切るように軽く頭を降ってから、話題を戴冠式に戻した。
「あ……そう言えば昨年キリヤのお父上のシュトレイン十五世が即位されましたが、まだ戴冠式は行われていなかったですね。もうそろそろなんですか?」
ユノが思いついたように言うと、イヴァンは意外な質問を受けたというように首を傾げた。
「戴冠式はもうすぐだよ。学園でも街でもその噂でもちきりじゃないか。その日は城下町もお祭り騒ぎになるから皆楽しみにしてるんじゃないの?」
「城下町のカーニバルとかはあんまり詳しくなくて」
ユノの答えを聞くと納得したようで、イヴァンはくすくすと笑った。
「ふふ。色んなことにユノは詳しいのに、イベントは詳しくないんだね」
イヴァンは紫色の瞳を細めて、とても優しい顔になった。
「戴冠式は僕も式典に出席しないといけないから、一緒に行けないんだけどさ、ユノの交流会のダンスのパートナーはもう決まっている?」
「ダンスのパートナー? 俺は踊る予定はないので、特に誰ともパートナーになるつもりはありませんよ」
ユノが答えると、イヴァンは、やっぱり、と笑った。
「やっぱりイベントには本当に詳しくないね。交流会のダンスに一般生徒は参加自由だけど、生徒会のメンバーは参加必須なんだよ」
「ええ?! そうなんですか?! でも俺魔女学校に知り合いなんていないんですけど」
ユノが驚きの声を上げると、イヴァンはまた笑った。
「相手は魔女じゃなくても大丈夫だよ。魔法使い同士でも全然大丈夫。まだユノが誰ともペアになっていないなら、僕とペアにならない?」
「え……?」
「毎年パートナーを探すのに苦戦するんだよ。パートナーに、なんて選んでしまうと、その後婚約者にでもなったと勘違いする子が多くてね」
ユノの驚いた顔を見たイヴァンが言った。
なるほど、紫色の宝石のように美しいイヴァンにダンスのパートナーとして誘われたら、舞い上がって勘違いしてしまう子も多そうだ。
「そうなんですね。俺もパートナー探す手間が省けて助かりますが、ダンス踊れないですよ」
この前の仮面舞踏会で踊ったのが初めてだし、そもそもあれは音楽に合わせて体を揺らしていただけで正式なダンスとは言えないものだ。
「心配なら図書館に映像も見られる基本のダンスのオーディオブックがあったと思うから、それを見ておいてよ」
「わかりました。練習しておきます。でも上手に練習できなかったらそのときは他の人を選んでくださいね」
「ふふ。ユノならきっと大丈夫だよ」
イヴァンは美しいアメジストを細めて微笑んだ。
しばらく彼が出て行った扉をじっと見つめていると、そのユノの様子をイヴァンが見ていることに気がついた。
ユノは小さく咳払いをしてから口を開いた。
「キリヤ、忙しそうだね。日が暮れてからも用があるなんて」
授業の課題、授業の予復習。生徒会の仕事もユノよりずっと多いし、さらに王家としての仕事もあるらしい。
ユノが言うと、イヴァンは片眉を上げた。
「戴冠式が近いからね。最近帰りはいつも真夜中なんだよ。で、門限に間に合いそうにないときは、僕が寮に届出を出してあげているんだ」
他の生徒会役員の前では然程仲がよくなさそうだったキリヤとイヴァンだが、今日は何だか二人の間に流れる空気がいつもと違った気がする。
「もしかして、イヴァンとキリヤも『秘密の友達』なんですか?」
「『秘密の友達』……? ぷっ……くくくっ」
その言葉を聞いてイヴァンは可笑しそうに笑った。
「……何か変なこと言いました?」
「いや、変なことなんて言ってないよ。そうだね。僕達『は』『秘密の友達』みたいなものかな」
「やっぱり、そうなんですね。王族は何でも注目の的になってしまうから、友達付き合いも苦労するんですね」
イヴァンが『は』と強調したことは特に気にせずにユノは頷いた。
キリヤの置かれる難しい立場が少しだけわかったような気がした。
だが、イヴァンとキリヤも『秘密の友達』と聞き、胸が少しだけ痛い。
彼の秘密の友達は願わくば自分だけがよかった、なんて狭量な考えだ。
ユノはそんな思いを振り切るように軽く頭を降ってから、話題を戴冠式に戻した。
「あ……そう言えば昨年キリヤのお父上のシュトレイン十五世が即位されましたが、まだ戴冠式は行われていなかったですね。もうそろそろなんですか?」
ユノが思いついたように言うと、イヴァンは意外な質問を受けたというように首を傾げた。
「戴冠式はもうすぐだよ。学園でも街でもその噂でもちきりじゃないか。その日は城下町もお祭り騒ぎになるから皆楽しみにしてるんじゃないの?」
「城下町のカーニバルとかはあんまり詳しくなくて」
ユノの答えを聞くと納得したようで、イヴァンはくすくすと笑った。
「ふふ。色んなことにユノは詳しいのに、イベントは詳しくないんだね」
イヴァンは紫色の瞳を細めて、とても優しい顔になった。
「戴冠式は僕も式典に出席しないといけないから、一緒に行けないんだけどさ、ユノの交流会のダンスのパートナーはもう決まっている?」
「ダンスのパートナー? 俺は踊る予定はないので、特に誰ともパートナーになるつもりはありませんよ」
ユノが答えると、イヴァンは、やっぱり、と笑った。
「やっぱりイベントには本当に詳しくないね。交流会のダンスに一般生徒は参加自由だけど、生徒会のメンバーは参加必須なんだよ」
「ええ?! そうなんですか?! でも俺魔女学校に知り合いなんていないんですけど」
ユノが驚きの声を上げると、イヴァンはまた笑った。
「相手は魔女じゃなくても大丈夫だよ。魔法使い同士でも全然大丈夫。まだユノが誰ともペアになっていないなら、僕とペアにならない?」
「え……?」
「毎年パートナーを探すのに苦戦するんだよ。パートナーに、なんて選んでしまうと、その後婚約者にでもなったと勘違いする子が多くてね」
ユノの驚いた顔を見たイヴァンが言った。
なるほど、紫色の宝石のように美しいイヴァンにダンスのパートナーとして誘われたら、舞い上がって勘違いしてしまう子も多そうだ。
「そうなんですね。俺もパートナー探す手間が省けて助かりますが、ダンス踊れないですよ」
この前の仮面舞踏会で踊ったのが初めてだし、そもそもあれは音楽に合わせて体を揺らしていただけで正式なダンスとは言えないものだ。
「心配なら図書館に映像も見られる基本のダンスのオーディオブックがあったと思うから、それを見ておいてよ」
「わかりました。練習しておきます。でも上手に練習できなかったらそのときは他の人を選んでくださいね」
「ふふ。ユノならきっと大丈夫だよ」
イヴァンは美しいアメジストを細めて微笑んだ。
248
お気に入りに追加
4,316
あなたにおすすめの小説

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない
Ayari(橋本彩里)
BL
王都東支部の冒険者ギルド職員として働いているノアは、本部ギルドの嫌がらせに腹を立て飲みすぎ、酔った勢いで見知らぬ男性と夜をともにしてしまう。
かなり戸惑ったが、一夜限りだし相手もそう望んでいるだろうと挨拶もせずその場を後にした。
後日、一夜の相手が有名な高ランク冒険者パーティの一人、美貌の魔剣士ブラムウェルだと知る。
群れることを嫌い他者を寄せ付けないと噂されるブラムウェルだがノアには態度が違って……
冷淡冒険者(ノア限定で世話焼き甘えた)とマイペースギルド職員、周囲の思惑や過去が交差する。
表紙は友人絵師kouma.作です♪
【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者
みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】
リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。
ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。
そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。
「君とは対等な友人だと思っていた」
素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。
【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】
* * *
2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

からかわれていると思ってたら本気だった?!
雨宮里玖
BL
御曹司カリスマ冷静沈着クール美形高校生×貧乏で平凡な高校生
《あらすじ》
ヒカルに告白をされ、まさか俺なんかを好きになるはずないだろと疑いながらも付き合うことにした。
ある日、「あいつ間に受けてやんの」「身の程知らずだな」とヒカルが友人と話しているところを聞いてしまい、やっぱりからかわれていただけだったと知り、ショックを受ける弦。騙された怒りをヒカルにぶつけて、ヒカルに別れを告げる——。
葛葉ヒカル(18)高校三年生。財閥次男。完璧。カリスマ。
弦(18)高校三年生。父子家庭。貧乏。
葛葉一真(20)財閥長男。爽やかイケメン。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる