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3章
図書館3
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キリヤはユノが頷いたのを見ると、落ち着いたようで羽根ペンを取りスラスラとユノのノートを写していった。
ユノもその様子を見て自分の課題に取り組んだ。
図書館のあちらこちらに人はいるのだが、ユノが見つけた穴場スポットだけあって、ここだけ切り離されでもしたかのようにとても静かである。
あまり借りる人がいない『妖精の言語』についての本が並ぶ書架の影に隠れているここは、さながら個室のようであった。
裏庭からは差し込む光も穏やかなもので、時折キリヤから他の薬草も写して構わないかと問う声以外は話すこともなく、各々のやることに打ち込んだ。
時を経つのも忘れてユノが課題に打ち込んでいると、不意にそっと肩を叩かれた。
「そろそろ僕は生徒会室に行くが、ユノはどうする?」
キリヤの声にユノは、はっと顔を上げた。
どのくらい時間が経っていたのだろうか。
慌ててポケットの懐中時計を取り出すと、半時ほど過ぎたところであった。
「あ……俺もイヴァンと交流会の招待状作りの作業を約束しているんでした」
「今日は……水曜か。なら大丈夫だな。一緒に行こう」
キリヤは言うと、羽根ペンやらノートやらを華麗にローブの内ポケットに納めた。
ハイクラスのローブは、ユノのように収納バッグを持たずともすっきりと物を収納できる高価なものだ。
ユノのようにバッグを持ち歩かなくてもよくて、とてもスマートだ。
ユノも隣でバタバタとノートや教科書をバッグに納めていった。
「そういえば、ここでオーディオブックで音楽を聴くこともできると言っていたな。音漏れ防止の魔法を掛ければ聴いても構わないなら、君の好きなユリィの曲でも聴きながら作業すればよかった」
先に片付けが済んだキリヤはふと裏庭が見える大きな窓に視線を遣りながら言った。
「……っお……音楽流せば良かったですね」
キリヤの言葉にユノはびくり、と体を震わせた。
ユノがそんな話をした人は一人しかいない。
窓に視線を遣ったままのキリヤはユノの異変に気付かないようだった。
「また治癒学の授業でわからないことがあったら、教えてくれるか? そのときには音楽を流しながらやろう」
返事をしなくては、と思ってキリヤを見上げると、窓を見ていたはずのキリヤは、いつの間にかユノを見ていて青い瞳と視線がばちりとあった。
青い色がとろりと溶けてしまいそうなその視線。
それを何と表現していいのか分からず、ただただ胸が強く打った。
苦しさに思わず胸のあたりのローブをぎゅっと掴む。
「ユノ? だめ、なのか……?」
するとキリヤは溶けそうだった青い瞳を、不安気に揺らした。
その変化さえもあんまり美しくて、じっと見てはいけない、と心のどこかが言っているのに、目を離すことができない、
「だめ……じゃない……です」
何とか返答した声は喉に引っかかってみっともなく掠れた。
「そうか、よかった」
そのときだった。
キリヤがふわりと嬉しそうに笑ったのだった。
「……っ」
ユノは息を呑んだ。
ドキドキと心臓が強く脈打って口から出そうだった。
血が頬に昇って自分の顔が真っ赤になっているのがわかった。
サラン以外に教えたことのない場所を躊躇わず彼には教えたくなってしまったのは何故なのか。
「ユノ……?」
不思議に思ったのか、キリヤの指先がユノの頬に伸びた。
彼の、指が、触れる。
そして、彼の指がユノの頬に触れたとき、思わずぎゅっと目を閉じて体をびくり、と揺らしてしまった。
「あ……っすまない……っ」
ユノの反応に驚いたのか、キリヤは指をすぐにユノの頬から離した。
「せ……生徒会室っ……に、あの……その……」
「そ……そうだな。そろそろ行かないと遅くなる」
上手く言葉が紡げなくなってしまったユノの言葉に、キリヤも動揺した声を乗せて図書館の奥まった二人だけのスペースから出た。
ユノもその様子を見て自分の課題に取り組んだ。
図書館のあちらこちらに人はいるのだが、ユノが見つけた穴場スポットだけあって、ここだけ切り離されでもしたかのようにとても静かである。
あまり借りる人がいない『妖精の言語』についての本が並ぶ書架の影に隠れているここは、さながら個室のようであった。
裏庭からは差し込む光も穏やかなもので、時折キリヤから他の薬草も写して構わないかと問う声以外は話すこともなく、各々のやることに打ち込んだ。
時を経つのも忘れてユノが課題に打ち込んでいると、不意にそっと肩を叩かれた。
「そろそろ僕は生徒会室に行くが、ユノはどうする?」
キリヤの声にユノは、はっと顔を上げた。
どのくらい時間が経っていたのだろうか。
慌ててポケットの懐中時計を取り出すと、半時ほど過ぎたところであった。
「あ……俺もイヴァンと交流会の招待状作りの作業を約束しているんでした」
「今日は……水曜か。なら大丈夫だな。一緒に行こう」
キリヤは言うと、羽根ペンやらノートやらを華麗にローブの内ポケットに納めた。
ハイクラスのローブは、ユノのように収納バッグを持たずともすっきりと物を収納できる高価なものだ。
ユノのようにバッグを持ち歩かなくてもよくて、とてもスマートだ。
ユノも隣でバタバタとノートや教科書をバッグに納めていった。
「そういえば、ここでオーディオブックで音楽を聴くこともできると言っていたな。音漏れ防止の魔法を掛ければ聴いても構わないなら、君の好きなユリィの曲でも聴きながら作業すればよかった」
先に片付けが済んだキリヤはふと裏庭が見える大きな窓に視線を遣りながら言った。
「……っお……音楽流せば良かったですね」
キリヤの言葉にユノはびくり、と体を震わせた。
ユノがそんな話をした人は一人しかいない。
窓に視線を遣ったままのキリヤはユノの異変に気付かないようだった。
「また治癒学の授業でわからないことがあったら、教えてくれるか? そのときには音楽を流しながらやろう」
返事をしなくては、と思ってキリヤを見上げると、窓を見ていたはずのキリヤは、いつの間にかユノを見ていて青い瞳と視線がばちりとあった。
青い色がとろりと溶けてしまいそうなその視線。
それを何と表現していいのか分からず、ただただ胸が強く打った。
苦しさに思わず胸のあたりのローブをぎゅっと掴む。
「ユノ? だめ、なのか……?」
するとキリヤは溶けそうだった青い瞳を、不安気に揺らした。
その変化さえもあんまり美しくて、じっと見てはいけない、と心のどこかが言っているのに、目を離すことができない、
「だめ……じゃない……です」
何とか返答した声は喉に引っかかってみっともなく掠れた。
「そうか、よかった」
そのときだった。
キリヤがふわりと嬉しそうに笑ったのだった。
「……っ」
ユノは息を呑んだ。
ドキドキと心臓が強く脈打って口から出そうだった。
血が頬に昇って自分の顔が真っ赤になっているのがわかった。
サラン以外に教えたことのない場所を躊躇わず彼には教えたくなってしまったのは何故なのか。
「ユノ……?」
不思議に思ったのか、キリヤの指先がユノの頬に伸びた。
彼の、指が、触れる。
そして、彼の指がユノの頬に触れたとき、思わずぎゅっと目を閉じて体をびくり、と揺らしてしまった。
「あ……っすまない……っ」
ユノの反応に驚いたのか、キリヤは指をすぐにユノの頬から離した。
「せ……生徒会室っ……に、あの……その……」
「そ……そうだな。そろそろ行かないと遅くなる」
上手く言葉が紡げなくなってしまったユノの言葉に、キリヤも動揺した声を乗せて図書館の奥まった二人だけのスペースから出た。
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