平凡な俺が魔法学校で冷たい王子様と秘密の恋を始めました

ゆなな

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3章

隣の席2

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何とか大教室に大きな声を轟かせずにすんだユノは、驚きで見開いた目のまま彼を見つめ続けた。
「なんだ? 隣に座ったらまずいのか?」
そんなユノをちらりと横目で見て、ユノの隣に教科書を置いた男が言った。
「い……いえ……そんなことはないですけど……」
「そうか。それならよかった」
そう言うとユノの隣に座った男は、ユノの記憶にあるムスクの香りの持ち主その人だった。
香りの持ち主キリヤは、教科書と筆記用具を机に並べた。
このスタンダードクラスの生徒ばかりの教室にハイクラスの、それもキリヤがいることは、驚くべき状況なのでそこかしこから視線が飛んできていた。そして何よりユノ越しにサランが目を剥いて見ていたが、キリヤは気に留めることもなく、教科書を開いた。
「それでは『治癒学発展』の授業を始めます。この授業は昨年度『治癒学基礎』の授業を受講している、もしくは『治癒学基礎』をきちんと理解しているという前提で進めていきます。もし昨年度受講しておらず授業内容に不安な者は、昨年度受講している者からレポートやノートを見せてもらうように。それから……」
カザニコフ教授はそこまで言うと、厳しい目付きでぐるりと教室を見渡した。
「私の授業は本日座っている席に一年間座ってもらう。席の場所で出欠の確認をするため、許可なく席の移動をすると欠席の扱いとなるので気をつけるように。また二人組のペアで取り組んでもらう課題も多いので三人掛けの席ですが、三人で座っているところは、一人で座っている人のところに移動してください」
カザニコフ教授が教壇の上で言って広い教室を見渡した。
「ちょっと……後から来た人が移動してくださいよ」
サランが身を乗り出して、ユノ越しにキリヤに言った。
「僕は昨年度の『治癒学基礎』受講していないから、ユノに色々と教えてもらいたいんだ。君が他の席に移ったらどうだ?」
「なっ……後から来たくせにそんなのって……」
飄々とキリヤが言って退けると、サランは大きな声を上げた。
「一番後ろの席の諸君。騒がしいな」
カザニコフ教授の声がぴしゃりと飛んだ。
「申し訳ありません。私が昨年度『治癒学基礎』を受講していないため、ユノ・マキノ君にノートを見せてもらうよう頼んでいたのです。しかしこの席は三人で使用せず、二人で使用しなければならないとのことなので、こちらの者が移動できる空席を探しておりました」
こちらの者、とサランを指し示したキリヤのはっきりと通る声が大教室に響き渡った。
「おお。キリヤ・シュトレイン君ではないか。王族の君が私の授業に興味を持ってくれたとは光栄だよ。確かにユノ・マキノ君のノートを見せてもらうなら、チェ・サラン君が移動するのが良さそうだな。君たちのいる三列前に空席があるから、チェ・サラン君、君はそこに移動しなさい」
「っ……!」
教授の提案にユノは思わずサランの顔を見ると、まるで『不服です』とでかでかと書いてあるような表情を浮かべていた。
「他に席を移動する者はいるかね?……いないようなら、授業を始めるから、チェ・サラン君、すぐに移動するように。他の諸君は教科書の第一章を開いて待っていてくれたまえ」
サランの移動待ちのような状況になってしまい、移動するより他はないと諦めたのかサランは大きな溜め息と共にバサバサと教科書や筆記用具を纏めて三列前に移動した。
せめてもの抵抗、と言わんばかりに大きな音を立ててサランは長ベンチに座ったが、広い教室なので教授まで音は届いてもいないようだった。
「では授業を始める」 
代わりにカザニコフ教授の声が教室に響き、授業は始まった。
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