26 / 123
2章
螺旋階段
しおりを挟む
「か……からかわれたのかな……っ」
呟きながら、ユノは急いで生徒会室のあるシュトレイン塔の螺旋階段を降りた。
恐らく、あの脚では速く降りることは出来ないはずだ。
そう思ってできる限り速く階段を降りる。
彼の掛けてくれた治癒魔法のお陰でユノの怪我の具合はすっかり良かった。だがそれと引き換えに彼の魔力はほとんど無くなっているはずだし、ユノの見立てが正しければきっと彼は速くは歩けない。
それなら彼はまだ近くにいるはずだ。
「会長!」
その凛とした背中を視界に捉えるとユノは叫んだ。
すると、ゆっくりとした動きで振り返った青い瞳と視線がぶつかる。
ユノは転がるようにキリヤのところまで駆け下りた。
「なんだ?」
疲労の色が浮かんでいてもなお美しいプラチナブロンドを搔き上げた。
「あの……脚……」
ユノがそれだけ言うと、キリヤはぎくり、と体を強張らせた。
「……別に何ともないが?」
「俺にもう少し魔力が残っていたら治癒魔法を無理矢理でも使うんですが、今使ったら怪我を治し切ることもなく倒れてしまいそうなので」
何ともないといつもの冷やかな表情のままキリヤは言ったが、ユノは怯むことなく言った。
キリヤはユノを助けるために引き上げの魔法を使ってくれた。
だが、引き上げの魔法はある程度ユノに近づかなければ使えないため、『悪魔の木』の森にキリヤも少し潜っていた。
その際に、体のどこか。恐らく脚を傷付けてしまっている。
「何を……」
「これ、『悪魔の木』の毒を解毒してくれる『月時雨草』という薬草と、切り傷によく効く薬草を数種類配合して作った貼り薬です。もし誰かに治癒魔法を使ってもらえるか医務室に行くならいいのですが、そのつもりがないなら使ってください」
そう言って、ユノは自らの収納バッグから手製の貼り薬を数枚取り出してキリヤに差し出した。
「だから、何ともないって……」
「じゃあ、捨ててもらって構わないので取り敢えず受け取ってください。治癒魔法みたいにすぐに治るわけじゃないですが、元気なときの俺の魔力も込めているので一晩で回復します。多分王宮の治癒者が取り扱っている貼り薬の効果と変わらないはずです」
ユノは言い切ると、強引にキリヤの制服のローブのポケットに貼り薬を押し込んだ。
ついでに多少だが魔力を回復の補助をしてくれる水薬を詰めた小瓶も。
「おい……っ」
「今日は助けていただき本当にありがとうございました。お互い今夜はできるだけ体を休めましょうね」
キリヤは声を荒らげたが、ユノはアイテムを押し付けるだけ押し付けると笑顔で頭を下げ、その場から逃げるように残りの階段を駆け下りた。
呟きながら、ユノは急いで生徒会室のあるシュトレイン塔の螺旋階段を降りた。
恐らく、あの脚では速く降りることは出来ないはずだ。
そう思ってできる限り速く階段を降りる。
彼の掛けてくれた治癒魔法のお陰でユノの怪我の具合はすっかり良かった。だがそれと引き換えに彼の魔力はほとんど無くなっているはずだし、ユノの見立てが正しければきっと彼は速くは歩けない。
それなら彼はまだ近くにいるはずだ。
「会長!」
その凛とした背中を視界に捉えるとユノは叫んだ。
すると、ゆっくりとした動きで振り返った青い瞳と視線がぶつかる。
ユノは転がるようにキリヤのところまで駆け下りた。
「なんだ?」
疲労の色が浮かんでいてもなお美しいプラチナブロンドを搔き上げた。
「あの……脚……」
ユノがそれだけ言うと、キリヤはぎくり、と体を強張らせた。
「……別に何ともないが?」
「俺にもう少し魔力が残っていたら治癒魔法を無理矢理でも使うんですが、今使ったら怪我を治し切ることもなく倒れてしまいそうなので」
何ともないといつもの冷やかな表情のままキリヤは言ったが、ユノは怯むことなく言った。
キリヤはユノを助けるために引き上げの魔法を使ってくれた。
だが、引き上げの魔法はある程度ユノに近づかなければ使えないため、『悪魔の木』の森にキリヤも少し潜っていた。
その際に、体のどこか。恐らく脚を傷付けてしまっている。
「何を……」
「これ、『悪魔の木』の毒を解毒してくれる『月時雨草』という薬草と、切り傷によく効く薬草を数種類配合して作った貼り薬です。もし誰かに治癒魔法を使ってもらえるか医務室に行くならいいのですが、そのつもりがないなら使ってください」
そう言って、ユノは自らの収納バッグから手製の貼り薬を数枚取り出してキリヤに差し出した。
「だから、何ともないって……」
「じゃあ、捨ててもらって構わないので取り敢えず受け取ってください。治癒魔法みたいにすぐに治るわけじゃないですが、元気なときの俺の魔力も込めているので一晩で回復します。多分王宮の治癒者が取り扱っている貼り薬の効果と変わらないはずです」
ユノは言い切ると、強引にキリヤの制服のローブのポケットに貼り薬を押し込んだ。
ついでに多少だが魔力を回復の補助をしてくれる水薬を詰めた小瓶も。
「おい……っ」
「今日は助けていただき本当にありがとうございました。お互い今夜はできるだけ体を休めましょうね」
キリヤは声を荒らげたが、ユノはアイテムを押し付けるだけ押し付けると笑顔で頭を下げ、その場から逃げるように残りの階段を駆け下りた。
279
お気に入りに追加
4,316
あなたにおすすめの小説

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない
Ayari(橋本彩里)
BL
王都東支部の冒険者ギルド職員として働いているノアは、本部ギルドの嫌がらせに腹を立て飲みすぎ、酔った勢いで見知らぬ男性と夜をともにしてしまう。
かなり戸惑ったが、一夜限りだし相手もそう望んでいるだろうと挨拶もせずその場を後にした。
後日、一夜の相手が有名な高ランク冒険者パーティの一人、美貌の魔剣士ブラムウェルだと知る。
群れることを嫌い他者を寄せ付けないと噂されるブラムウェルだがノアには態度が違って……
冷淡冒険者(ノア限定で世話焼き甘えた)とマイペースギルド職員、周囲の思惑や過去が交差する。
表紙は友人絵師kouma.作です♪
【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者
みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】
リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。
ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。
そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。
「君とは対等な友人だと思っていた」
素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。
【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】
* * *
2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

からかわれていると思ってたら本気だった?!
雨宮里玖
BL
御曹司カリスマ冷静沈着クール美形高校生×貧乏で平凡な高校生
《あらすじ》
ヒカルに告白をされ、まさか俺なんかを好きになるはずないだろと疑いながらも付き合うことにした。
ある日、「あいつ間に受けてやんの」「身の程知らずだな」とヒカルが友人と話しているところを聞いてしまい、やっぱりからかわれていただけだったと知り、ショックを受ける弦。騙された怒りをヒカルにぶつけて、ヒカルに別れを告げる——。
葛葉ヒカル(18)高校三年生。財閥次男。完璧。カリスマ。
弦(18)高校三年生。父子家庭。貧乏。
葛葉一真(20)財閥長男。爽やかイケメン。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる