平凡な俺が魔法学校で冷たい王子様と秘密の恋を始めました

ゆなな

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1章

仮面舞踏会3

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「大丈夫か? 行かせてしまったが、風紀に突き出した方が良いなら今からでもそうするが?」
彼は他の人にユノの顔を見られないように気をつけながら、わずかに胸からユノを離し、顔を覗き込むようにして言った。
思わず彼を見上げると、仮面をしていても彼が整っていることが想像に難くなかった。
「いえ……そこまでしなくていいです」
「そうか」
短く応えた彼が指先を軽く振ると、床に落ちていたユノの仮面がふわりと浮き上がった。
「余計な噂の的になるから、顔は見られない方がいい」
気づけばこの騒ぎに注目している目が幾つもあるようだった。
彼はユノの顔が見られないように自分の体で隠しながら、拾い上げた仮面をそっとユノの顔に当て、頭の後ろで柔らかなリボンを結ってくれた。
ユノが彼に礼を言おうと思ったそのとき。
「いたぁ!」
大きな声がした方を向くと、人ごみの中からサランが現れた。
サランはユノのそばに駆け寄ってきた。
「よかった。もしかして危ない目にあった?」
「うん。ちょっと絡まれた。でもこの人が助けてくれて……あ、行っちゃった!」
心配そうなサランを安心させるように言って、彼を振り返るともうすでにここから立ち去っており、少し離れたところに彼の背が見えた。
「ごめん、サラン。彼にお礼言ってくる! 俺のことは気にせず先にみんなと食事楽しんで」
ユノはそう言うと、後ろ姿でさえも美しい彼に向かって走った。
後ろから彼を見ると髪色は青味がかったブロンドだが、恐らくこの彼も今日は髪色を変えているのだろう。あまり学園では見かけない色であるため、正体はまるで分からない。
だけど、困っているユノを迷わず助けてくれた優しい人なのはわかった。
顔もわからないし、ここでお礼を言わなかったらずっと言える機会はないかもしれない。
そう思って彼の元に駆けた。
「待ってくださいっ」
ユノは彼に追いつくと、腕に手を掛けて言った。
「あのっ……俺、ちゃんとお礼も言ってなくて」
彼はゆっくりとユノの方を振り返った。
ユノは深呼吸をして、走ったために乱れた呼吸を直してから心を込めて言った。
「助けてくださって、ありがとうございました」
仮面越しではあったが、ちゃんと彼の目をまっすぐ見て言えた。
「わざわざ言いに来たのか? 別によかったのに」
「俺、すごく助かったので、お礼くらい言わせてください」
おそらくハイクラスであろう彼に助けられたことは、やはりハイクラスの中にもいろんな人がいるというユノの考えが当たっているようで嬉しくもあった。
残念ながら差別する人もいるが、そうでない人もやはりいるのだ。
ユノがそう考えた、そのときだった。
「あっ!」
オーケストラが新たなメロディを奏で始めユノは思わず声を上げてしまった。
「『スノーフレーク』だ……」
流れた曲の名前を思わず口走ると、彼は驚いたようにユノを見た。
「前奏だけでよく分かったな。この曲を前奏ですぐ分かる人は中々いない」
「作曲したグレリーがすごく好きなんです」
「僕もだ。彼の作るメロディは透き通るように美しい」
彼が精悍な頬を緩めたのがわかった。
「そう!本当に彼のメロディは透明感がすごくて、ずっと聞いていたくなります……あ、でも俺戻らなきゃ」
話が楽しくなってきて忘れてしまいそうになったが、サランの元に戻らなくては。
「じゃあ、俺戻りますね」
そう言ってユノがその場を去ろうと踵を返すと。
「あ……」
必死に彼を追いかけてきたから気づかなかったが、後ろを向くと人の多さで自分がどこから来たのかも分からなくなっていた。
サランの元に無事に戻れるだろうか。
一歩だけ進んだあと、再び人混みに踏み出すのを躊躇っていると。
「もしかして、友人とまた逸れたのか?」
彼の声が背中に掛かった。
「そうかもしれません……あなたにお礼を言うと伝えてから離れたので心配はしてないと思いますが」
自分のそそっかしさを恥ずかしく思いながらユノが振り返ると、彼は笑っているようだった。
「残念なことだが、その髪色で今日一人でここにいるのはまた絡まれる恐れがある……おいで」
彼の横に来るよう手招きをされた。
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