かきまぜないで

ゆなな

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番外編SS

昼下がりの×××

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1章と2章の間。まだ二人がくっつく前のお話になります。

 開けっ放しの窓からは、ミーンミーンと夏休み定番の蝉の声が流れ込むばかりで、涼しい風が入ってくることはない。
「あー、くそ。あっちぃ……なんなんだよ……」
 そこに先程高弥の部屋に訪れたばかりの男の声が混じる。
「クーラー壊れちゃったんだから仕方ないじゃないですか。新しいの頼んだんですけど来るの来週なんです」
 話しながらも汗がたらりと高弥の頬を伝う。沢村は今この部屋に来たばかりだが、高弥は朝からずっとこの部屋にいるのだ。
「来週って……今週も始まったばっかじゃねぇか……つか、一年で一番暑い時期の一日で一番暑い時間にクーラーつかないとかってマジありえねぇんだけど」
 そう言って、沢村はキッチンに行くと慣れた様子で冷凍室を開ける。
「ちょっと、勝手に俺のアイス食わないで下さいよ!」
 高弥が大事に取って置いたソーダのアイスバーを咥えてキッチンから出てきた沢村。
「るせぇな。こんぐらいいーだろ……あー、あっちぃ」
 高弥のベッドの上にひっくり返って、沢村はアイスを咥える。
「暑さに耐えられなくなったら食べようと思ってた大事な俺の生命線なんですよ……! ちゃんと後で買って返しておいて下さいね!」
「はいはい。買っとく、買っとく」
「……言い方。絶対買いませんよね?! っていうか、そんなに暑いなら帰ったらいいじゃないですか。沢村先生んちはエアコンあるんでしょ」
「ったりめーだろ。リビングにも寝室にも付いてるからどっちか壊れてもこんなことにならねーよ」
「だから、帰ればいいじゃないですか」
 もう、ただでさえ暑いのに、勝手に押しかけてきて、アイスを取られた上に文句を言われるなんて、ホント理不尽だ。
「あーじゃ、お前も来る?」
「絶対行きません……っうわ」
 沢村の部屋で、もし彼の女達と遭遇するなんてことになったら冗談じゃない。そんな地獄絵図に巻き込まれたくない。そう思って言ったところで、ぐいっと腕を引かれて沢村の上に倒れ込んだ。
「お前がそろそろはつじょーきだと思って来てやったのに、随分な態度じゃね?」
 今回の発情期は少しいつもの周期より早まったみたいだった。それを気付かれたと知り、高弥はぎくり、と身を硬くした。
「あ、なんでバレたんかなーって思った?」
 ケラケラと笑う沢村。発情期はオメガの高弥にとっては生活を左右する重大なものであるんだから、こんなに気楽に笑われるとムッとしてしまう。
「別に俺の発情期何とかしてくれって頼んでないです。帰ってください。もー外で着た服のままベッドに寝転ばれるのも俺は嫌なんです」
「キャンキャンキャンキャンうっせぇなぁ。あ……ほら。やっぱめっちゃ甘い匂いしてる……お前」
 悪態を吐きながらも鼻先を耳の裏に押し当てながら言う。
「……っ薬を飲めばなんとかなりますから……ってか、匂い嗅ぐなぁっ」
「またまたぁ。薬で具合悪くなっちゃうんだろ? 俺とヤってスッキリした方が気持ちいーし、発情期の症状も消えるし、いいことしかねぇじゃん」
「……っ沢村先生とするの、全然よくない」
 高弥は唇を尖らせて、ふい、と首を横に向けて言う。
 そう、全然よくない。
 自分ばかりがこのロクでもない男が好きでどうしようもない現実が突き付けられる。
「んぐっ……ぅ」
 突然口の中に冷たい甘味が広がる。
 口にアイスバーを突っ込まれたのだ。
「ほんと、お前可愛くねぇことばっか言う」
 面白くなさそうな顔をした沢村は、高弥の口からアイスバーを突っ込んで意地悪く口内をかきまぜた後、抜いて残りを食べてしまう。
「んんっ」
 そしてアイスが抜かれた冷たい唇に、沢村の唇が噛みつくように重なる。
 冷たくて、甘くて、冷たくて……夏の暑さと発情期のせいで火照った体にはキモチイイ。
 沢村の冷たくてソーダ味の甘い舌を絡められて、頭の中がとろりと溶け出す。
 ぽいっとアイスの棒をベッド横のゴミ箱に放った沢村に気がついたが、ベトベトした棒を洗わないで捨てないでって文句は沢村の口の中で溶けて消えた。
「お前のくちんなか、マジであっちぃ……」
 ちゅうっと唇を吸ったあと、唇が触れ合いそうな距離で沢村が言う。
「ひ……っ」
 ずるっ、と穿いていたハーフパンツは下着ごと脱がされて、それもぽいっとベッドの外に投げられる。
「すげぇ、匂い……」
「や……っ匂い嗅ぐなって……っ」
 汗だくの体の匂いを嗅がれたくなくて、身をよじるのに、沢村は鼻先を首筋に潜らせて匂いを嗅いでくる。
「体もこんなに熱くて、お前我慢できるわけ?」
 意地悪な声が耳に流れ込む。大きな掌が体を撫で回す。
「……っそれは、エアコン壊れてるからっ……」
「まぁ、確かに汗なんだか発情期だから濡れてんのかわかんねぇくらい、ぐっしょぐしょ」
「ひゃ……っ」
 笑いの混じった声で、蒸れた脚の間を弄られる。
 まだ発情期は完全に始まったわけではないのに、もう膨らんだペニスからはたらたらと先走りの液は垂れてるし、後ろの孔からも愛液がとろとろと溢れている。そこに沢山の汗も加わって、もう何が何だかわからないくらい濡れている。
「あ……っ……」
 ちゅぷ、と沢村の長い指が濡れて火照る孔に挿し込まれた、
「すげぇ、あちぃ……指溶けそ……」
 くちくち、と濡れた孔の温度を確かめるように指が動いて、高弥の腰も揺れる。
 喉の奥でその様を嗤うような声を漏らした沢村を高弥は睨みつけようと、その顔を見て固まった。
「ぁ…………」
 人を馬鹿にしたような顔をしているのかと思ったら、沢村も顔を火照らせ、額に汗を光らせていた。
 アイスを食べて、少しは涼しくなったんじゃないの? なんでそんなに汗かいてるの。
 熱気が立ち込める室内。
 沢村が空いていた窓を閉めた。
「んんっ……窓閉めたら……っ部屋やばい……っ」
 体内に長く器用な沢村の指を感じながら高弥が言う。
「……っばーか。ぜんっぜん風入ってこねぇから、空けてても閉じてても一緒だろ。つーかお前、声外に漏れても平気なわけ? ふーん。そういう趣味?」 
「違っ……あっ……」
 くっ、と曲げられた沢村の指は、オペのとき寸分も狂わないのと同じように、間違うことなく高弥の感じるところに触れる。
「おー……あっつくて、とろとろ。もう俺の入りそーだな……」
 口調は変わらないが、声がいつもより少し低くて濡れてるみたいな沢村の声。
 その声の後ろに聞こえる蝉の鳴き声は、窓を隔てたせいか先程より遠くに聞こえる。
 閉ざされた部屋は湿度を増し、二人の香りが濃厚に匂い立つ。
「……っぅ」
 あまりに濃厚な香りに高弥のくらくら目眩がして、正常な思考が徐々に奪われてゆく。
 体中を汗が伝っておかしくなりそうなほど暑いのに、湯気が出てるんじゃないかと思ってしまうほど熱い目の前の沢村の体にしがみつきたくなってしまう。
 汗で湿った腕で、汗で湿った沢村の首筋に腕を回してしがみつくと、彼が喉の奥で低く唸った音がした。
「……くそ……っ力抜け……っ」
 挿れるぞ、と湿度を纏った低い声が耳の中に流される。
 混ざる吐息も熱い。
 彼の吐息で耳も溶けてしまいそうだった。
「あぅ……っ」
 そして更に狂おしいほど熱い沢村のペニスが入ってくる。
 先の一番膨れているところは、発情期じゃないときは受け入れるとき少しだけ苦しいけれど、今日は早く奥まで埋めてほしくて焦れったくて、高弥は無意識に沢村の腰に脚を絡めて誘うような仕種をしてしまう。
「……っち……どうなっても知らねぇからな……っ」
 吐き捨てるように言ったくせに、何かを耐えてるように眉を寄せる沢村の顔。
 何だかんだで優しいなんて、ほんとずるい。 
「……っどうなっても……いぃ……から……はやく、ほし……ぃっうぁっ……」
 意地っ張りの唇から珍しく素直な言葉が落ちて部屋の熱い空気に溶け込む。
 言うなり、脚を掴まれて、ぐっと奥に沢村が入り込む。
 奥まで入り込むと隙間なくぴったりと体が重なる。
 あまりの熱さに汗が流れるのが止まらないけれど、もうどっちの汗なのかもわからない。
「っ……んだよっ……お前ん中、めちゃめちゃ熱くて頭おかしくなりそ……っ」
 高弥の汗なのか、沢村の汗が垂れてきたのか、それとも気持ちよくて涙が溢れたのかわからないくらいびしょびしょの頬に沢村の唇が落ちて、そんなことさえも気持ちよくて涙が追加される。
「んんんっ……」
 頬に落ちた唇は、なめらかに滑って次は唇を塞いだ。
 人の口の中が熱いと言うけれど、この男の口の中だって大概だ。
 熱くてたまらない体内を、熱くてたまらないものがかきまぜる。舌で口の中もかきまぜられて、二人の汗が混ざり合うほどきつく抱きしめられる。
「ひ………っぅあっ……」
 暑くて熱くい室内なのに、熱い体をばかみたいにぴったりくっつけて、汗に塗れながら繋がって、狂ってるみたい。
 いつもは沢村を好きな気持ちを悟られないように、と意識のどこかで思っているのに、暑さのせいでおかしくなった頭では何も考えられない。
 彼の首筋には腕を、腰には脚を絡めて、まるで少しも離れたくないよう目の前の熱い体に必死に縋り付いしまう。
 遠くに聞こえる蝉の声。蒸れた室内。高弥の安物のベッドが軋む音。沢村の興奮しきった荒い吐息。カーテンを引いてもまだ明るい室内。
 全てが婬猥な室内でどこもかしこも敏感で、合わさった胸の先が擦れるのまでもたまらなく気持ちいい。
「……っ出すぞ……」
 耳の奥に濡れたような沢村の声。
 ぽたり、と彼の汗が高弥の上に落ちる。
「あぁっ……」
 高弥はオメガだが、中学生の頃大病したことが理由で妊娠はしづらい体がだと医師に言われている。
 それを知っている沢村は当然のように避妊具を着けていない。
 そのため体の奥に熱い精液がじかに注がれる。
「あーーやべ……きもちいー……」
「っあ……あ、あっ……熱ぅっ……」
 溶かされてしまいそうなくらい熱い体液でお腹の中を濡らされる。
「あっ、も、やだぁ……抜いて……ぇ……うぁっ」
 アルファ特有の長い射精に耐えられず狭いベッドの上を逃げようとするのに、ぐっと腰を押し付けられて脚を掴まれ、一番奥深くで繋がったまま少しも逃げることは許されない。
 沢村の精液が全て出される頃には、高弥の意識はすっかり遠のいていた。

*******
「うぉ!これでホーム10連勝じゃん!」
 デカい声が聞えて、高弥は目を開けた。
「……家主が寝てんだから、配慮とかできないんですかね……」
 枕に顔を埋めながら高弥は言う。
「おー、おー。やっと起きたか。お前全然起きねぇから死んだと思ったわー」
 コーラ片手にベッドの端に座り、ナイターを見ていた沢村が振り返る。
 体は拭いてもらえたのかさらりとしていて、新しいTシャツに着替えさせられている。
「……それも俺が冷やしておいたコーラじゃないですか?」
「一本くらいいーだろ。ケチケチすんな」
「一本くらいって……一本しか入ってなかったでしょ?! なけなしの一本飲むなんて鬼! 悪魔! 暑さに耐えられなかった時用の対策だったのに……ってあれ……?」
 そういえば、部屋が暑くない……?
 涼しい風がふわっと高弥の前髪を揺らした。
 風が吹いてきたところを振り返ると、高弥の腰ほどある高さの四角い機械からみたいなものから冷たい風が吹いてきて気持ちいい。
 その機械はどこかで見覚えがあった。
「これ、病院の……?」
 高弥は身を起こして機械をよく見た。
「あー、エアコン壊れた病室に修理来るまで入れてた簡易エアコンな。そういや、倉庫に置きっぱになってて今使ってねぇから借りてきてやった」
 移動式の簡易エアコンはちゃんとしたエアコンほどの冷却力はないが、この狭い部屋なら十分涼しくしてくれた。
「え……?」
「こんなクソ熱あちぃ部屋、球場行った気分で野球見ろっつーのかよ。暑くて死ぬかと思ったわ」
「いや、野球は帰って見ればいいじゃないですか」
「っせぇな。簡易エアコン持ってきてやった救世主だろうが、俺は。もっと感謝しろ。それとも……」
 沢村はコーラをテーブルに置くと、高弥のすぐそばに手を突き耳元に唇を寄せた。
 思わず後退って沢村と距離を取ろうとするが、先回りされた腕で腰を抑えられて、逃げられない。
「あちぃ部屋で汗だくでヤる方が、イイ?」
 熱くて、気持ちよかったもんな、と低い声で笑いながら、声を注ぎ込まれる。
「……っん」
 すると、沢村に体の奥に出された体液がとろりと溢れ出てきてTシャツに滲んだ。体は拭いてくれたけど、奥に出したものはそのままにされていたらしい。
「折角涼しくなったんだから、快適な環境でもう一回ヤるかぁ」
 そう言った沢村がニヤリと笑って高弥の体を再びベッドの中にゆっくりと沈めた。

おわり


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