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番外編SS
BLUE HEAVEN8
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「おい、高弥なにして……んだよ!高弥っどこから持ってきたそれ!」
とある休日。朝食の後、いつもだったら二人でリビングでテレビを見ながらだらだらしているような時間。
沢村の人生には凡そ縁の無かったノンカフェインのお茶を二人分淹れてリビングのソファに座っていたが、片付けものをしたらすぐ戻ると言って寝室に戻った高弥が中々戻って来ない。痺れをきらして寝室を覗くと小さな古いアルバムを膝に置いて固まっている高弥を見つけた。
「……沢村先生、このダンボールいつまでも片付けないなら俺が開けますよって言いました……」
言い返しながらもいつまでも沢村が片付けなかったダンボールから出てきたアルバムに挟まれた写真から高弥は目を離せないようだった。
「つーか、コレいつの間に撮ってたんですか……」
写真の中には一生懸命問題を解く中学生の高弥。目線はノートに落ちているものばかり。見えづらいのかノートやテキストとの距離が近いが真剣そのものの表情をした高弥の写真が何枚も続いた。
「あ-……何か気付いたら携帯で撮ってた? みたいな?」
沢村は恥ずかしいものが見つかってしまって視線をウロウロとさ迷わせてしまう。
「これは……俺が寝てから撮ったんですか?」
勉強している高弥の写真に混ざって、涙のせいで目元が赤くしたまま眠る高弥の写真。暗くて分かりづらいが、窓から射し込む月の明かりのお陰か、表情は見て取れた。
「あーもー……そうだよ。お前が俺の前なんかでスヤスヤ安心しきって寝るのがいけないんだろーが……つーか、床の上でいつまでも座ってたら冷えんだろ。それ見るなら見るで暖かいトコで見ろ」
そう言うと沢村は床にペタリと座っていた高弥をお姫様のように抱き上げる。
「沢村先生っ……俺もうお腹出てきてるからっ」
最近ようやくつわりが少し治まってきたと思ったら同時にふっくらしてきたお腹。だから、体重も重くなっていると主張する高弥。
「つわりで痩せた分もまだ戻ってねぇくらいだろ。前よりもまだ軽い」
そう言って高弥の抗議も聞かず抱き上げたままリビングに戻り、ソファに高弥を抱いたまま沢村は座った。
柔らかなソファの上で沢村の胸に寄りかかりながら高弥はアルバムを開いて先ほどの写真をもう一度眺める。
「こんとき、朝起きたら大変でしたよね」
眠ってる高弥の写真を見てぽつりと高弥が溢すと沢村は笑った。
「朝起きたらお前にちゅーして、そしたら病室から抜け出そうと思ってたんだけどよ、起きらんなくて寝坊したんだよなー。朝の光の中で永瀬さんに『お前ここで何やってんだ』って起こされたとき、マジ死んだなと思ったわ」
あのときは人生最大のピンチだったが、今思い出したら笑えて仕方ないと高弥の柔らかな髪に鼻先を埋めながら言う沢村は言葉のとおり笑いが止まらない。
「ホントですよ。俺も沢村先生温かくてぐっすり寝ちゃいましたけど、あんな状況で寝過ごす人います?」
高弥が笑いながら生意気なことを言うので軽く鼻先に噛み付いてやると、更にけらけらと楽しそうに高弥は笑った。
「何で寝過ごしたか教えてやるよ……」
沢村がベッドの中を意識するような声をわざと出すと、腕の中の躯はひくん、と震えた。
柔らかい耳朶に口をつけるほどの距離で。
「可愛いお前の寝顔見て、3回抜いて寝たから、さすがにぐっすりだったんだよ」
長い時を経て打ち明けられた真実に思わず高弥は眉をひそめる。
「ま……マジで?」
「マジ。あ、4回だったかも」
ニヤニヤと笑いながら打ち明けた沢村に高弥は耳を塞ぐような仕種をして頭を振った。
「……あー聞きたくなかったー……ヨウくん天使だからそんなことしないもん……ヨウくんは沢村先生とは違うもん……」
『ヨウくん』は俺にとって天使だったんだといつも言い募る高弥がくちびるを尖らせる。
「はぁ? あんときの俺も今の俺と大して変わらねぇつーの。お前がもうちょっと大きかったら間違いなくヤってたね。天使なわけあるか」
「違うもん。綺麗なプラチナ色の短い髪の天使だからヨウくんはそんなことしません。躯だってこんなにゴツくなかったし、背もこんなにでかくなかったし……沢村先生みたいに意地悪じゃなくていつも優しくて」
腕の中で気持ち良さそうに抱かれてるくせに、ぶつぶつと生意気なことを呟く高弥。
「んだよ。悪かったな、優しくなくて」
膨れて見せた沢村の首筋に高弥は腕を回してぎゅっと抱きつく。
「……うそ。沢村先生も優しい……ずっと優しくしてくれたよね、俺に。ヨウくんと同じ優しさだって気付かなくてごめんね」
頬にキスをされると結局何だって許してしまう。
「……いいよ、別にもう」
変わらず柔らかくて沢村の心をいつだって掻き乱すくちびるにちゅ、とキスを落とす。
「……可哀想だからキスしてくれたんだろうなって思ってた。ヨウくんには外の世界があって俺みたいな子供相手にするわけないって思ってた。俺が治ったらもう会えないんだろうなって最初から諦めてたんだ……」
鼻先を擦り合わせてじゃれ合うようにくちびるを合わせたり離したりを繰り返しながら高弥は思い出すように言った。
「俺がヨウくんから見たらすごく子供なのわかってたし、叶わなくて当たり前だって思ってたんだ……まだ子供だったから綺麗なだけの初恋の思い出……」
なめらかな頬に指をすべらせて、今度は沢村が口を開く。
「正直に言うと、初めて会った日から惹かれてた……小さい高弥に。俺、あのときも結局好きだって言わなかったもんな。お前は言ってくれたのに」
そっと高弥の顎をくすぐって、そっとくちびるを押しあてる。
「好きだよ、高弥。愛してる…………むぐっ……おいっ」
「あっ……すいません。恥ずかしすぎて、つい」
愛を囁いてるというのに、途中で口を手で塞がれた。
その手を沢村はニヤリと笑って外させると。
「恥ずかしくても何でももうやめてやんねー、一生めちゃくちゃ言いまくってやるからお前も慣れろ……愛してるよ、高弥。お前に会わなかったらまともな医者にもなれてなかったと思う……愛してる」
何度だって言ってやる。今は恥ずかしいと言うお前がいつか愛してるという言葉に慣れても、何度でも言うよ。
耳の端まで真っ赤になってる高弥を笑ってぎゅっと抱き締めると。
「あっ!」
二人の声が同時にリビングに響いた。
「……今、動いた?」
お腹の中の小さな命がぽこりと動いたのを、初めて二人で感じた。
二人で瞳を合わせるとこれ以上ないくらいの幸福に包まれて笑い合った。
BLUE HEAVEN
End
とある休日。朝食の後、いつもだったら二人でリビングでテレビを見ながらだらだらしているような時間。
沢村の人生には凡そ縁の無かったノンカフェインのお茶を二人分淹れてリビングのソファに座っていたが、片付けものをしたらすぐ戻ると言って寝室に戻った高弥が中々戻って来ない。痺れをきらして寝室を覗くと小さな古いアルバムを膝に置いて固まっている高弥を見つけた。
「……沢村先生、このダンボールいつまでも片付けないなら俺が開けますよって言いました……」
言い返しながらもいつまでも沢村が片付けなかったダンボールから出てきたアルバムに挟まれた写真から高弥は目を離せないようだった。
「つーか、コレいつの間に撮ってたんですか……」
写真の中には一生懸命問題を解く中学生の高弥。目線はノートに落ちているものばかり。見えづらいのかノートやテキストとの距離が近いが真剣そのものの表情をした高弥の写真が何枚も続いた。
「あ-……何か気付いたら携帯で撮ってた? みたいな?」
沢村は恥ずかしいものが見つかってしまって視線をウロウロとさ迷わせてしまう。
「これは……俺が寝てから撮ったんですか?」
勉強している高弥の写真に混ざって、涙のせいで目元が赤くしたまま眠る高弥の写真。暗くて分かりづらいが、窓から射し込む月の明かりのお陰か、表情は見て取れた。
「あーもー……そうだよ。お前が俺の前なんかでスヤスヤ安心しきって寝るのがいけないんだろーが……つーか、床の上でいつまでも座ってたら冷えんだろ。それ見るなら見るで暖かいトコで見ろ」
そう言うと沢村は床にペタリと座っていた高弥をお姫様のように抱き上げる。
「沢村先生っ……俺もうお腹出てきてるからっ」
最近ようやくつわりが少し治まってきたと思ったら同時にふっくらしてきたお腹。だから、体重も重くなっていると主張する高弥。
「つわりで痩せた分もまだ戻ってねぇくらいだろ。前よりもまだ軽い」
そう言って高弥の抗議も聞かず抱き上げたままリビングに戻り、ソファに高弥を抱いたまま沢村は座った。
柔らかなソファの上で沢村の胸に寄りかかりながら高弥はアルバムを開いて先ほどの写真をもう一度眺める。
「こんとき、朝起きたら大変でしたよね」
眠ってる高弥の写真を見てぽつりと高弥が溢すと沢村は笑った。
「朝起きたらお前にちゅーして、そしたら病室から抜け出そうと思ってたんだけどよ、起きらんなくて寝坊したんだよなー。朝の光の中で永瀬さんに『お前ここで何やってんだ』って起こされたとき、マジ死んだなと思ったわ」
あのときは人生最大のピンチだったが、今思い出したら笑えて仕方ないと高弥の柔らかな髪に鼻先を埋めながら言う沢村は言葉のとおり笑いが止まらない。
「ホントですよ。俺も沢村先生温かくてぐっすり寝ちゃいましたけど、あんな状況で寝過ごす人います?」
高弥が笑いながら生意気なことを言うので軽く鼻先に噛み付いてやると、更にけらけらと楽しそうに高弥は笑った。
「何で寝過ごしたか教えてやるよ……」
沢村がベッドの中を意識するような声をわざと出すと、腕の中の躯はひくん、と震えた。
柔らかい耳朶に口をつけるほどの距離で。
「可愛いお前の寝顔見て、3回抜いて寝たから、さすがにぐっすりだったんだよ」
長い時を経て打ち明けられた真実に思わず高弥は眉をひそめる。
「ま……マジで?」
「マジ。あ、4回だったかも」
ニヤニヤと笑いながら打ち明けた沢村に高弥は耳を塞ぐような仕種をして頭を振った。
「……あー聞きたくなかったー……ヨウくん天使だからそんなことしないもん……ヨウくんは沢村先生とは違うもん……」
『ヨウくん』は俺にとって天使だったんだといつも言い募る高弥がくちびるを尖らせる。
「はぁ? あんときの俺も今の俺と大して変わらねぇつーの。お前がもうちょっと大きかったら間違いなくヤってたね。天使なわけあるか」
「違うもん。綺麗なプラチナ色の短い髪の天使だからヨウくんはそんなことしません。躯だってこんなにゴツくなかったし、背もこんなにでかくなかったし……沢村先生みたいに意地悪じゃなくていつも優しくて」
腕の中で気持ち良さそうに抱かれてるくせに、ぶつぶつと生意気なことを呟く高弥。
「んだよ。悪かったな、優しくなくて」
膨れて見せた沢村の首筋に高弥は腕を回してぎゅっと抱きつく。
「……うそ。沢村先生も優しい……ずっと優しくしてくれたよね、俺に。ヨウくんと同じ優しさだって気付かなくてごめんね」
頬にキスをされると結局何だって許してしまう。
「……いいよ、別にもう」
変わらず柔らかくて沢村の心をいつだって掻き乱すくちびるにちゅ、とキスを落とす。
「……可哀想だからキスしてくれたんだろうなって思ってた。ヨウくんには外の世界があって俺みたいな子供相手にするわけないって思ってた。俺が治ったらもう会えないんだろうなって最初から諦めてたんだ……」
鼻先を擦り合わせてじゃれ合うようにくちびるを合わせたり離したりを繰り返しながら高弥は思い出すように言った。
「俺がヨウくんから見たらすごく子供なのわかってたし、叶わなくて当たり前だって思ってたんだ……まだ子供だったから綺麗なだけの初恋の思い出……」
なめらかな頬に指をすべらせて、今度は沢村が口を開く。
「正直に言うと、初めて会った日から惹かれてた……小さい高弥に。俺、あのときも結局好きだって言わなかったもんな。お前は言ってくれたのに」
そっと高弥の顎をくすぐって、そっとくちびるを押しあてる。
「好きだよ、高弥。愛してる…………むぐっ……おいっ」
「あっ……すいません。恥ずかしすぎて、つい」
愛を囁いてるというのに、途中で口を手で塞がれた。
その手を沢村はニヤリと笑って外させると。
「恥ずかしくても何でももうやめてやんねー、一生めちゃくちゃ言いまくってやるからお前も慣れろ……愛してるよ、高弥。お前に会わなかったらまともな医者にもなれてなかったと思う……愛してる」
何度だって言ってやる。今は恥ずかしいと言うお前がいつか愛してるという言葉に慣れても、何度でも言うよ。
耳の端まで真っ赤になってる高弥を笑ってぎゅっと抱き締めると。
「あっ!」
二人の声が同時にリビングに響いた。
「……今、動いた?」
お腹の中の小さな命がぽこりと動いたのを、初めて二人で感じた。
二人で瞳を合わせるとこれ以上ないくらいの幸福に包まれて笑い合った。
BLUE HEAVEN
End
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