かきまぜないで

ゆなな

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番外編SS

BLUE HEAVEN5

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「そうだ、沢村くん。高弥くんの手術の日が決まったんだ」

 そう綾川に言われた日からあっと言う間に日にちは過ぎた。
 執刀医は沢村もよく知る有名な脳外科医永瀬が担当すると言う。恐らく手術は無事に終わる。
 永瀬が執刀するなら安心だと周囲は言うが、やはり手術は怖いのだろう。手術日が決まってからは高弥は何処と無く緊張しているように見えた。
 それを陽介は解してやることもできず、もどかしい日々が続く中、とうとう手術を明日に控える日がやってきた。
 明日の手術のために今日は勉強を控えようかと陽介が提案すると
「ううん。いつもどおりがいい」
と高弥は静かに首を振ったので、いつもどおり勉強をして過ごした。
 そうして、面会時間が終了するアナウンスが病棟に流れたときだった。

「ヨウくん、今日は帰っちゃうの……一緒に寝てよ……」
 陽介のパーカーの袖をそっと摘まんで引っ張られる。
「高弥?」
「どした? いっつもそんなこと言わねぇじゃん」
 陽介が驚いて問うと
「ヨウくん、今日は帰らないで……一緒に寝てよ……父さんも母さんも来てくれないし、明日の手術怖い」
 涙混じりの震えた声が返ってきた。
 陽介は時間が空けば病室に通うようになっていたが、その間高弥の家族と合うことは一度もなかった。
 陽介が高弥の顔をそっと覗き込むと
「な……なーんてね。うそ、うそ。執刀医は永瀬先生だし、怖いことなんかあるわけないじゃん。恵まれてるよね。じゃあ、ヨウくん。またね。手術終わったらヨウくんの顔もよく見えるようになるだろうから楽しみ」
ぱっ、と袖を離して高弥はぶんぶんと顔の前で手を振る。
 高弥が浮かべた笑顔はいたずらっぽくて、
「ヨウくん、騙された?」
と陽気に笑ってみせた。
 そんな高弥の顔を陽介はじっと見た後。
「わかった。小児科消灯の時間は看護師がバタバタ来るから一旦は出るけど、完全に静かになった10時頃こっそり忍び込んで来てやる。だから泣くな」
と返事する。
「ヨウくん、ごめん。変な冗談だったね。気にしないで大丈夫だから」
 高弥が言うと
「俺が今日の夜暇だから来たいだけ。付き合ってくれねぇの?」
 陽介が笑って首を傾げると、耳のピアスが揺れて小さな音色が零れた。
「沢村くん、面会時間終わってますよー」
 高弥が返事をする前に、病室の中を覗いた看護師に声を掛けられた。
「あー、もう帰ります」
 陽介が答えると、看護師はすぐに行ってしまった。
「じゃあ、また後で、な」
 高弥の耳に囁くと、ちいさな背中がびくりと震えた。
 胸の奥底から湧いてくるこの愛しい気持ちの処理の仕方がわからず、陽介は身を翻して病室を後にした。
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