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3章
4話
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永瀬は高弥に言ったとおり、早急に新しい勤務先との調整を取り計らったため、 翌朝ユキと永瀬の家で高弥が目覚めたときには先方との面談が決まっていた。
検診で妊娠の経過は順調と言われてはいたが、まだ安定期と呼ばれる時期ではなかったので、高弥が遥々北陸まで移動することをユキはかなり渋っていたが、先々のことがきちんと決まった方が精神的には落ち着くことができるという永瀬の説得の元、早期の面談が実現することになったのだ。
ユキに引き留められて数日永瀬とユキの家で過ごしたが、面談の前日は北陸へ行く準備もあったため高弥はアパートに戻った。
そしてその夜、沢村とは別離を決意したのだから会わない方がいいのだとか、それでもやっぱり一目会いたいとか、一人でごちゃごちゃと考えていたのが馬鹿らしくなるくらい、あっさりと沢村は高弥の前に姿を現した。
「んだよ、もう寝てんのか」
明日に出発を控え、早めにベッドに入った高弥の布団の中に沢村が潜り込んできたのは夜半過ぎだった。
学会が行われていたボストンから帰国するにはまだ数日あったはずだ。
予定より早い帰国に高弥はひどく動揺して、思わず眠ったふりをしてしまった。
珍しいスーツ姿のまま沢村がベッドに入ってくると、ふわりと女ものの香水が香ってきた。よく纏ってくることの多いその香り。
婚約者と会ってから、此処へ来たのだろうか。
(ほんと、最っ悪……)
こんな思いも、いつものことなのに。
早く帰って来てくれて嬉しいと思ってしまう素直な恋心と、もうこんなこともこれで最後だと思うと引き裂かれそうな切なさと。それに混じった甘ったるい香水。全部が高弥の中でぐしゃぐしゃにかきまぜられて。
するり、と沢村のてのひらがTシャツから潜って直接高弥の肌に触れた。
まさかこのまま、と思わず身構えた高弥だったが、 横向きに寝ていた高弥の腹の辺りの肌を撫でて、うなじに何度もくちびるを押し付けていた沢村から、
「くそ……眠ぃ……」
とやや疲れたような声がしたかと思うと、その後静かな寝息が聞こえてきた。
完全に寝入ってしまったようなので沢村の腕の中から高弥はそっと抜け出して、スーツのジャケットを何とか脱がしてそれからもう一度布団に潜った。完全な遮光のカーテンではないので、街灯の灯りが仄かに入り込み、2週間ぶりの沢村の貌を映し出す。
「すげー、隈出来てる……」
思わず沢村の目の下を指で辿る。
「ボストンで忙しかったのかな……時差もあるし。まさか、遊び倒して疲れたわけじゃないよな……」
この人なら有り得ないことではないなと思わずくすり、と笑ってから、高弥は瞳に焼き付けるようにじっと沢村の寝顔を見つめた。
やっぱり、どうしようもなく好きだと思った。傍で子供を産むことができたら、どんなに幸せかと思うけれど。
(大丈夫。この子が一緒だから、 一人じゃないし)
高弥は自身の腹に手を当てて思った。
(少しでも沢村先生に似てる子だったらいいなぁ。あ、でも全部似ちゃったらあんなの俺の手に負えない)
そう思ったら何だかおかしくて、 笑えてきた。
沢村のシャツにおでこを押し当てて散々笑って、そして、笑ってるのに涙が溢れた。
「さよなら……」
音にならない声で高弥は静かに沢村に伝えた。
検診で妊娠の経過は順調と言われてはいたが、まだ安定期と呼ばれる時期ではなかったので、高弥が遥々北陸まで移動することをユキはかなり渋っていたが、先々のことがきちんと決まった方が精神的には落ち着くことができるという永瀬の説得の元、早期の面談が実現することになったのだ。
ユキに引き留められて数日永瀬とユキの家で過ごしたが、面談の前日は北陸へ行く準備もあったため高弥はアパートに戻った。
そしてその夜、沢村とは別離を決意したのだから会わない方がいいのだとか、それでもやっぱり一目会いたいとか、一人でごちゃごちゃと考えていたのが馬鹿らしくなるくらい、あっさりと沢村は高弥の前に姿を現した。
「んだよ、もう寝てんのか」
明日に出発を控え、早めにベッドに入った高弥の布団の中に沢村が潜り込んできたのは夜半過ぎだった。
学会が行われていたボストンから帰国するにはまだ数日あったはずだ。
予定より早い帰国に高弥はひどく動揺して、思わず眠ったふりをしてしまった。
珍しいスーツ姿のまま沢村がベッドに入ってくると、ふわりと女ものの香水が香ってきた。よく纏ってくることの多いその香り。
婚約者と会ってから、此処へ来たのだろうか。
(ほんと、最っ悪……)
こんな思いも、いつものことなのに。
早く帰って来てくれて嬉しいと思ってしまう素直な恋心と、もうこんなこともこれで最後だと思うと引き裂かれそうな切なさと。それに混じった甘ったるい香水。全部が高弥の中でぐしゃぐしゃにかきまぜられて。
するり、と沢村のてのひらがTシャツから潜って直接高弥の肌に触れた。
まさかこのまま、と思わず身構えた高弥だったが、 横向きに寝ていた高弥の腹の辺りの肌を撫でて、うなじに何度もくちびるを押し付けていた沢村から、
「くそ……眠ぃ……」
とやや疲れたような声がしたかと思うと、その後静かな寝息が聞こえてきた。
完全に寝入ってしまったようなので沢村の腕の中から高弥はそっと抜け出して、スーツのジャケットを何とか脱がしてそれからもう一度布団に潜った。完全な遮光のカーテンではないので、街灯の灯りが仄かに入り込み、2週間ぶりの沢村の貌を映し出す。
「すげー、隈出来てる……」
思わず沢村の目の下を指で辿る。
「ボストンで忙しかったのかな……時差もあるし。まさか、遊び倒して疲れたわけじゃないよな……」
この人なら有り得ないことではないなと思わずくすり、と笑ってから、高弥は瞳に焼き付けるようにじっと沢村の寝顔を見つめた。
やっぱり、どうしようもなく好きだと思った。傍で子供を産むことができたら、どんなに幸せかと思うけれど。
(大丈夫。この子が一緒だから、 一人じゃないし)
高弥は自身の腹に手を当てて思った。
(少しでも沢村先生に似てる子だったらいいなぁ。あ、でも全部似ちゃったらあんなの俺の手に負えない)
そう思ったら何だかおかしくて、 笑えてきた。
沢村のシャツにおでこを押し当てて散々笑って、そして、笑ってるのに涙が溢れた。
「さよなら……」
音にならない声で高弥は静かに沢村に伝えた。
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