かきまぜないで

ゆなな

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1章

5話

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 翌朝目を覚ましてから、高弥はしばらくぼんやり周囲を見回した。自分が何故此処にいるのか、何故自分が何も纏わず眠っていたのかという疑問が浮かぶが、やや思案すると自分の身に何が起こったのか記憶が甦り、高弥はベッドの上で頭を抱えた。
 シーツやマットレスを相当汚した筈だ。職場の仮眠室でこれはやばい、とシーツに手を遣ると仮眠室に備えてあるバスタオルが敷かれていた。バスタオルだけ洗えば何とかなりそうだと分かりほっとはするが、あの男がどれだけ手練れなのか身をもって知らされ苦々しい。
 兎に角シャワーを浴びたい。そう思って立ち上がったときだった。だが下肢に力が入らず、膝がかくり、と崩れ思わず壁に手をついた。同時に、つ………と、脚の奥から生温かい液体が流れ出した。
「え………?」
 驚き思わず手を遣ってみると、高弥の指先に白い液体が絡み付いた。 
「……っくそ……っ」
 高弥は苦々しく口の中で言うと、何とか仮眠室に一つずつ備えてあるシャワールームに向かった。
「っ……ふ………く…ぅ」
 後孔を自分でそっと拡げると、こぷり、と音を立てて体液が溢れて出てくる。 
「あのやろ……どんだけ出しやがったんだよ……っ」
 忌々しい昨夜の強烈な快楽の記憶。最後は何回出されたのかもわからないくらい、めちゃくちゃにされた。理性は混濁してしまったのに、自分があられもない痴態を曝し、何を口走ってしまったか、脳内にフラッシュバックされる。
いっそのこと、刻まれた快楽の記憶ごと覚えてなかったら良かったのに。
 高弥にとっては羞恥に塗れた、忌まわしい記憶。


 何回かナカに出されて、ぐずぐずに理性が溶けかけたころ。
『高弥ぁ、どこに出して欲しい? 外に出すか? 』
 男のいやらしい声が耳奥に流され、男が腰を引くと、 陰茎がずるりと抜けかかる。
『あっ……やだ…… っ』
 そのとき思わず、男の腰に脚を絡めて引き寄せるような仕草をしてしまった。
『どこに出して欲しいのか、ちゃんと言えよ』
 意地悪な声に促されて
『ナカっ……ナカに、出して……っ抜いちゃやだぁ』
 とんでもないことを口にしてねだるような声色の高弥に。
『かわいーなぁ? 高弥。ナカもういっぱい出されてぐっちゃぐちゃだけど……』
 ちゃんと、全部飲めよ?
 そう言った男におびただしい量の精液を注がれて、あまりの快感に涙を溢しながら達したのだ。

「まじで最っ悪……」
 口内で苦々しく毒づく。 散々アルファの男に抱かれたせいで、 発情期の症状が治まってるのがせめてもの救いだ。
 おびただしい量の精液を掻き出していると否が応にも記憶が蘇る。
「あぁ~!  もう! 」
 一人で頭を抱えながら何とかシャワーを浴び終ると、靄が掛かったようだった頭も少しすっきりしてきた。 下着は着られそうにないが、何とか服は着られそうな状態だったので、ほっとする。
  病院の仮眠室に事後の痕跡を残さないよう後始末してから時計を見ると朝の回診が終わった頃の時刻を指し示していた。
 今日は高弥は非番だが、確か沢村は今日は早番での勤務だったはずだ。恐らく此処で起きてそのまま勤務に向かったんだろう。
「うー、出来ればずっと顔合わせたくねぇけど……」  
 そんなことは言ってられない。
 高弥はアルファを誘おうとして抑制剤を服用していなかったわけではなく、自分には発情期なんて来ないと思い込んでいたから抑制剤を服用してなかったのだ。
 仮眠室を整えて、医局に向かう。
 いつもロッカールームで着替えてから仕事をしているので、昨日と同じ服であることは誰にもバレてないと思うが、 出来ればあまり人には会いたくない心境だった。
 医局に向かうにはナースステーションのすぐそばを通らなければならない。
「おはようございます。あれ?高弥先生今日お休みじゃなかった?」
 高弥の姿を見付けた看護師に早速声を掛けられた。
「あ、うん。医局に忘れ物。それと……沢村先生に用事があるんだけど、いる?」
「沢村先生さっき回診終えて、今は医局でオペ前カンファレンスの準備してるんじゃないかな」 
 教えてくれた看護師に礼を言って、当初の予定どおりそのまま医局に向かった。


 憂鬱な気分のまま、 医局の扉を開ける。
 医局の扉ってこんなに重かっただろうか。
「へぇ。普通に歩けてんじゃん。オメガでもオトコノコだもんなぁ」
 中に入ると面白そうに嗤う沢村と目が合った。
 幸いにも、隣室にある秘書室を除けば医局には誰もいなかった。
「からかってねぇよ。結構思いっきり抱いたから起き上がれねぇかと思った」
 不服そうな高弥の顔を見た沢村は医局のチェア背もたれに寄りかかったまま悠然と嗤う。
 長さをもて余すように組まれた脚が忌々しくて高弥は舌打ちの一つもしたい気分だ。
「一つ誤解を正しておきたいんですけど、アルファを誘うつもりで抑制剤を飲まなかったわけじゃありません」
 高弥のセリフにへぇ、と言うように沢村は片眉を上げた。
「ふーん、じゃどういうつもりだったわけ?」
「発情期、今まで来たことなかったんです」
「はぁ?お前25だろ?んなわけ……」
「来なかったものは来なかったんです。昔大きな病気したのでそのせいだと思います」
「……あー、お前小児脳腫瘍だったもんなぁ」
 沢村が思い当たったように呟く。病のことを沢村にも同僚にも詳しく話したことはなかった。研修医としてやってきたときに書類を目にすることでもあったのだろうか。
 高弥が考えを巡らそうとすると
「じゃあ、病気が原因で来なかった発情期が、昨日初めて来たってことか?」
 沢村に問いかけられる。
「信じ難いかもしれないですけど、そうなんです。 担当医が言うには検査で器官には異常はないそうですが、オメガのホルモンが殆ど出ていないとのことでした。少し前に受けた検査でもそう言われたので、どうして昨日いきなり発情期が来たのかはわかりません」
 高弥の言葉に
「……腫瘍がホルモンを分泌させる間脳の視床下部を圧迫……それか、手術時に視床下部に損傷……いや、だったら急にホルモン分泌されたのも辻褄合わないし、手術時に損傷も永瀬さんが執刀医で考えづらい。と、するとやっぱ腫瘍が長らく圧迫していた線が怪しいな……」
何やらブツブツと呟き出した沢村。
「沢村先生?」
 訝しんだ高弥が声を掛けると
「……あぁ……わかった。昨日抑制剤を飲んでいなかったのは、わざとじゃねぇってことだろ」
「はい。なので、昨日のことは事故だと思って忘れていただけると助かります」
「忘れる……?」
 男は悠然と立ち上がったと思うと、高弥との間を詰めた。
 あっという間に医局の壁に押し付けられる。
「ちょっ……何っ……」
「お前、すげぇ、何回もイってめちゃくちゃヨさそうだったけど、忘れられんの?」
 そう言って長い指がするり、と尻のラインを撫で上げた。
「ひっ……」
 思わず総毛立てた猫みたいな反応を返すと沢村はさもおかしそうに嗤った。
「セクハラです……っき……昨日は俺もオメガなのにちゃんと対策してなかったのがいけなかったですが、今後はセクハラで院長に訴えますからねっ」
 逞しい胸に腕を張ると、わかった、わかったと沢村が腕の力を緩めた隙に抜け出す。
「俺今日休みなんで病院で抑制剤ちゃんと貰ってきますからっ……そしたらもうあんなことないと思いますので本当に忘れて下さいっ……」
 そう言い残すと高弥は脱兎のごとく医局を飛び出した。
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