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1章
3話
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「あー、疲れたー」
そう言ってロッカールームに現れたのは、いつもの沢村だった。
いつもの、軽くて適当でいい加減で。外見だけが取り柄の男。ついさっき、命を一つ救ってきたとは思えない軽いノリで部屋に入ってくる。
彼の姿を認めて何故だかギクリ、と高弥の背中は波打った。首筋のうしろ、項の辺りがむずむずするような変な感覚が走る。初めての感覚。
見たことのない、沢村の姿を見たからであろうか。
沢村は手術用のスクラブをばさり、と脱いでロッカールームにあるランドリーボックスに無造作に突っ込んだ。
「……お疲れ様です」
チラ、と沢村を見ながら高弥は小さな声を掛けた。
あらゆる人に言われたとおりで悔しいが、視線が自然と沢村に引き寄せられてしまう。
スクラブを脱いで着替える大きな手が、先程のオペで見せた美しくて何とも頼りになる動きをしていたことが高弥の脳裏に甦った。
そのときだった。
ふわり
今まで男の傍にいても感じたことのない甘い香りが漂った。
消毒液や薬品の残り香が強く香る病棟のロッカールームの空気ががらりと一変した。
だが空気を変えた男はそんなことは気にも留めない様子だ。
「そういえば、高弥さぁ、今日お前もう上がりだよな?」
「あ……はい。もう今日は終わりですけど」
突然問い掛けられたが、内心の動揺を隠して返事をする。
「今日さ、女と会う予定だったんだけど、そいつ友達連れて来るから3Pしようとか言ってきてさー。でも二人来たら最低でも2回はヤんなきゃいけねぇじゃん?でも明日も予定あっから、今日は出来れば出すの1回にしときたいんだよなー。明日会う女はまだヤったことねぇ子だからさ、今日無駄打ちはしたくないんだよな。だから一緒に来て一人相手してくんねぇ?中身は知らねぇけど見た目はイイからさ」
「……なっ」
高弥にとっては暗号の羅列のような誘いを受けて、思わず狼狽えた。こんな男を見直した己が馬鹿だったと大声で叫びたい気分だ。
言葉の意味を理解した高弥はみるみる間に顔に血が上った。
「高弥?」
返事をしない高弥に焦れて沢村が振り返る。
「何だよ、真っ赤じゃん。高弥。あ、もしかして経験ない?童貞?」
と笑って沢村が近づいてきた。
素晴らしい手術に尊敬の念を感じたこの気持ちをどうしてくれるのだ、と言い掛かりに近い憤りすら覚えたそのとき。
どくん。
沢村の香りが更に強く香った、 と思ったと同時に高弥の全身が全部心臓にでもなったかのように激しく脈打ち始めたのだ。
(な……っなに……?)
そして、
「ごめん、ごめん。でも童貞なら尚更今日連れてってやるよ。お前めちゃくちゃ若く見えるけどもう24だろ?童貞なんて大事に取っとかないで捨てた方がいいって」
そう言って、高弥の裡で起こっていることに気付かない沢村のあの長い指が、高弥の髪の毛をくしゃり、とかき混ぜた。
ぶわり。
全身の肌が粟立って、躯を汗が伝い始めた。躯の奥……腹の辺りが燃えるように熱い熱を感じた。
「……っは……ぁ」
高弥の口から漏れる吐息は火傷しそうに熱かった。
「高弥?」
高弥の様子に異変を感じ取った沢村に顔を覗き込まれる。
「おい、具合悪いのか?」
ふらつく高弥の細い肩を沢村の大きな手が掴むと、高弥の躯がびくり、と大きく痙攣した。
高弥の様子に、沢村の目が眇められた。
沢村はじっくりと高弥の様子を観察した。まるで、彼の患者にでもなったようだった。脈拍を確かめるように、高弥の首筋に沢村の大きな手が添えられると、ぞくぞくとした感覚が走り腰が無意識に震えた。
瞳の様子や顔色、全身状態を診察でもするかのように、丹念に見られて。そして男は口を開いた。
「へぇ。高弥、お前オメガだったのか──」
俺としたことが、全然気付かなかった、と沢村は可笑しそうにくくっと笑った。
その声に思わず顔を上げた。
「な……何で……っ気付い……っ」
今までバースを記入した書類を見た者以外には、高弥がオメガであることに気づいた者などいなかった。
「何でわかったって?そりゃあ、お前こんだけ甘くてエロい匂い駄々漏れさせてたらバレんだろ。つーか、今まで全然気付かなかった。全く匂わないし、 お前頭の回転いいし、顔も可愛いっつーより、綺麗だから小っこいアルファなのかと思ってたくらいだよ」
いつもは甘いと言っていいようなマスクがひどく獰猛な彩を湛え、慣れた手つきで高弥の躯をその胸元に引き寄せた。
「なっ……ちょっと!やめて下さいっ……沢村先生っ」
驚いた高弥が震える手で沢村の胸を押し遣ろうとすると更に強い力で抱き寄せられた。
「何で抑制剤飲んでないわけ?コレ発情期、だろ?」
沢村の高い鼻梁が高弥の匂いを確かめるように耳の裏辺りに押し付けられた。
「は……はつ、じょうき……?」
通常のオメガには10代半ばにはやって来るが、今まで高弥が発情期の症状で苦しんだことはなかった。中学生のときに脳腫瘍の治療をしたせいだった。腕のいい医師のお陰で通常の生活に戻れたが、高弥には年頃になっても発情期が訪れることはなかった。
担当医は悲しそうに『オメガのホルモンが殆ど出ていないので妊娠するのは難しいと思う。 精巣内の精子の数も少なくなってしまったため男性として子を成すことも出来ない』
と告げた。担当医は悲しそうてあったが、高弥としてはむしろほっとした。これで煩わしい発情期などに左右されず生きていけると思ったからだ。薬を使わなければ発情期は自分でコントロールできず、力も強いアルファを惹き付けてしまう
そんなことは自分には起こらないと思って安心して生きてきたのに。これ、が発情期だというのか。腹の奥底から沸き上がる圧倒的な熱が内側から身を焦がす。
くちびるからは自分のものとは思えないほどにあまったるい吐息がは……は……と短く漏れる。全身にふつりと浮かんだ汗の玉がつるりと躯のラインを流れるのにさえも、鳥肌をたててしまうほどに甘い刺激が走る。
高弥が動揺している隙に、 脚の間に男の脚が入り込んで、閉じられないようにされてしまう。
熱くてたまらなくて、くちびるを思わず舌で湿らせると、目の前にある男の喉仏がごくり、と動いた。
「あぁ、もしかして仕事終わりに抑制剤切れるよう調整してた?」
どろり、と昏い嗤い声が混じったような声を耳元で流される。
「は?……」
「お前の年で自分の発情期の周期把握してないとかありえねぇし。仕事終わったら、ゲットしたい優秀なアルファとデートでもするつもりだったわけ?」
「な、に……?」
此れが発情期なのだとしたら、こんなの、今までに体験したことない。周期も何も、わかるわけがない。言い掛かりだ、と反論したいのに、強く香る沢村の匂いに、頭が霞掛かったようにぼぅっと滲む。
「……んっ」
入り込んだ膝が高弥の脚の間にぐっと押し当てられて、躯に抗い難い甘い痺れが走る。発情期とか優秀なアルファとか、色々好き勝手言われてる気がするけれど、 いつもならポンポン言い返す言葉が出てくるのに、言葉が紡げない。
目の前のこの男に縋りついて身を任せてしまいたい衝動と、それだけはしてはいけないという理性がせめぎ合う。
「ぁ……っ」
咄嗟に堪えたものの、沢村の大きな掌が些か乱暴に高弥の双丘を揉みしだいたとき、耳を塞ぎたくなるような甘い声が溢れた。
「へぇ。かっわいー。普段のツンツンしてる声と全然違うじゃん」
やめろ、と拒まなければと、思うのに。
男の手が双丘をぐっと押し開いたとき、腹の奥底から、とぷり、と何か体液が流れ出たのがはっきりと高弥自身にも感じられた。
「ぅあ……っ」
体液が溢れる孔が何かを欲してるかのようにひくひくと痙攣している。
抗うために沢村の胸に置いた手が、いつの間にか、 彼のシャツをぎゅっと掴んで、まるで縋りついているようだったが、腰から下に全然力が入らなくて、そうでもしていないとぐずぐずと崩れ落ちてしまいそうだった。
「ヤらせろよ、高弥」
耳奥に流されたセリフはとんでもないものだったのに、抗い難いほど甘ったるかった。
「や、です……っ誰があんたとなんか……っ」
頭は甘ったるい誘いと初めての発情期に襲われる感覚でぐちゃぐちゃだったけれども、必死で頭を振る。
「……へぇ。いや?やっぱお前、男いたりすんの?」
沢村の声の温度がぞっとするほど冷え冷えとして、思わず顔を上げると、いつもの軽さを感じさせる表情とはほど遠く、深く昏い彩を湛えた瞳が其処に在った。
どうやら何かスイッチを押してしまったらしい、と高弥が気付いたときには遅かった。
「ぅあ……っ」
噛みつくように着替えたばかりの私服のTシャツから覗く首筋を吸われた。
がたん
ロッカーに押し当てられて、耳障りな大きな音が鳴る。
抗う手首は男の大きな掌によって一つに纏めあげられた。
先程のオペでも散々感じた恐ろしいほどの器用さで、片手は塞がっているのにもかかわらず、易々と高弥のジーンズの前は寛げられてしまう。
緩められたウエストから侵入しようとする手の意図に気付き脚を必死で閉じようとするも、 とっくに合間に差し込まれた膝のせいで閉じられない。
「ちょ……マジ、冗、談っやめ……っ」
「さすがに冗談でここまでしねぇなぁ」
沢村の指が下着のゴムを潜った。
高弥の脚の間の熱気と噎せるほどに甘い香りが、入り込んだ指先が生んだ隙間から漏れた。
「………っ」
その蜜を煮詰めたように甘い香りを感じ取った沢村が、獣のように喉を鳴らした。
餌を前にした獣のような沢村に思わず高弥がたじろいだその瞬間。
ぐじゅ……
必死で脚を閉じようとしたが、叶わず、沢村の手が高弥の下着の中に侵入するのを許してまう。
どろどろの液体を掻き回したような水音。
沢村の手は高弥のオメガらしくやや小ぶりだが、完全に熱くなりとろとろと体液を溢す陰茎に絡み付く。
勃っていることを、からかうように沢村は陰茎に指を絡める。
「……ぅっ」
寸でのところで、 声を漏らすのを耐えたというのに。指先は、陰茎のさらに奥に進む。
にゅる……
熱い蜜を溢す蜜孔の縁をあの長い指先が、擽るようになぞる。
「はは。高弥。お前すっげぇ、 ぐちょぐちょじゃん」
やべぇ、真面目なお前が濡らしてんの、結構クるな。
そして、つぷ、と人差し指の先が孔のナカに射し込まれた。
「………ぁっ……」
自分でさえも触れたことのない場所に、少しずつ指が潜っていく。
──ナカに、もっと欲しい……
今まで抱いたことのない欲望が高弥の脳裏を埋め尽くす。
その欲望を振り切るように頭を振るのに、指は容赦なくずぶずぶと奥へ潜って行く。
「や……っだ……めっ」
「ココは嫌って言ってねぇけど?」
そう言って指をぐちゅぐちゅと出し入れするように動かされた。
「うぁ………っ」
かくり、と膝から力が抜けたとき。
「あー、俺がもうだめ。我慢、 できねぇ」
男はそう言うと、高弥の躯を担ぎ上げた。
躯は火照って熱を持って苦しいし、パンツやら下着が絡み付いて脚をバタつかせることも出来ず、易々と運ばれてしまった。
そう言ってロッカールームに現れたのは、いつもの沢村だった。
いつもの、軽くて適当でいい加減で。外見だけが取り柄の男。ついさっき、命を一つ救ってきたとは思えない軽いノリで部屋に入ってくる。
彼の姿を認めて何故だかギクリ、と高弥の背中は波打った。首筋のうしろ、項の辺りがむずむずするような変な感覚が走る。初めての感覚。
見たことのない、沢村の姿を見たからであろうか。
沢村は手術用のスクラブをばさり、と脱いでロッカールームにあるランドリーボックスに無造作に突っ込んだ。
「……お疲れ様です」
チラ、と沢村を見ながら高弥は小さな声を掛けた。
あらゆる人に言われたとおりで悔しいが、視線が自然と沢村に引き寄せられてしまう。
スクラブを脱いで着替える大きな手が、先程のオペで見せた美しくて何とも頼りになる動きをしていたことが高弥の脳裏に甦った。
そのときだった。
ふわり
今まで男の傍にいても感じたことのない甘い香りが漂った。
消毒液や薬品の残り香が強く香る病棟のロッカールームの空気ががらりと一変した。
だが空気を変えた男はそんなことは気にも留めない様子だ。
「そういえば、高弥さぁ、今日お前もう上がりだよな?」
「あ……はい。もう今日は終わりですけど」
突然問い掛けられたが、内心の動揺を隠して返事をする。
「今日さ、女と会う予定だったんだけど、そいつ友達連れて来るから3Pしようとか言ってきてさー。でも二人来たら最低でも2回はヤんなきゃいけねぇじゃん?でも明日も予定あっから、今日は出来れば出すの1回にしときたいんだよなー。明日会う女はまだヤったことねぇ子だからさ、今日無駄打ちはしたくないんだよな。だから一緒に来て一人相手してくんねぇ?中身は知らねぇけど見た目はイイからさ」
「……なっ」
高弥にとっては暗号の羅列のような誘いを受けて、思わず狼狽えた。こんな男を見直した己が馬鹿だったと大声で叫びたい気分だ。
言葉の意味を理解した高弥はみるみる間に顔に血が上った。
「高弥?」
返事をしない高弥に焦れて沢村が振り返る。
「何だよ、真っ赤じゃん。高弥。あ、もしかして経験ない?童貞?」
と笑って沢村が近づいてきた。
素晴らしい手術に尊敬の念を感じたこの気持ちをどうしてくれるのだ、と言い掛かりに近い憤りすら覚えたそのとき。
どくん。
沢村の香りが更に強く香った、 と思ったと同時に高弥の全身が全部心臓にでもなったかのように激しく脈打ち始めたのだ。
(な……っなに……?)
そして、
「ごめん、ごめん。でも童貞なら尚更今日連れてってやるよ。お前めちゃくちゃ若く見えるけどもう24だろ?童貞なんて大事に取っとかないで捨てた方がいいって」
そう言って、高弥の裡で起こっていることに気付かない沢村のあの長い指が、高弥の髪の毛をくしゃり、とかき混ぜた。
ぶわり。
全身の肌が粟立って、躯を汗が伝い始めた。躯の奥……腹の辺りが燃えるように熱い熱を感じた。
「……っは……ぁ」
高弥の口から漏れる吐息は火傷しそうに熱かった。
「高弥?」
高弥の様子に異変を感じ取った沢村に顔を覗き込まれる。
「おい、具合悪いのか?」
ふらつく高弥の細い肩を沢村の大きな手が掴むと、高弥の躯がびくり、と大きく痙攣した。
高弥の様子に、沢村の目が眇められた。
沢村はじっくりと高弥の様子を観察した。まるで、彼の患者にでもなったようだった。脈拍を確かめるように、高弥の首筋に沢村の大きな手が添えられると、ぞくぞくとした感覚が走り腰が無意識に震えた。
瞳の様子や顔色、全身状態を診察でもするかのように、丹念に見られて。そして男は口を開いた。
「へぇ。高弥、お前オメガだったのか──」
俺としたことが、全然気付かなかった、と沢村は可笑しそうにくくっと笑った。
その声に思わず顔を上げた。
「な……何で……っ気付い……っ」
今までバースを記入した書類を見た者以外には、高弥がオメガであることに気づいた者などいなかった。
「何でわかったって?そりゃあ、お前こんだけ甘くてエロい匂い駄々漏れさせてたらバレんだろ。つーか、今まで全然気付かなかった。全く匂わないし、 お前頭の回転いいし、顔も可愛いっつーより、綺麗だから小っこいアルファなのかと思ってたくらいだよ」
いつもは甘いと言っていいようなマスクがひどく獰猛な彩を湛え、慣れた手つきで高弥の躯をその胸元に引き寄せた。
「なっ……ちょっと!やめて下さいっ……沢村先生っ」
驚いた高弥が震える手で沢村の胸を押し遣ろうとすると更に強い力で抱き寄せられた。
「何で抑制剤飲んでないわけ?コレ発情期、だろ?」
沢村の高い鼻梁が高弥の匂いを確かめるように耳の裏辺りに押し付けられた。
「は……はつ、じょうき……?」
通常のオメガには10代半ばにはやって来るが、今まで高弥が発情期の症状で苦しんだことはなかった。中学生のときに脳腫瘍の治療をしたせいだった。腕のいい医師のお陰で通常の生活に戻れたが、高弥には年頃になっても発情期が訪れることはなかった。
担当医は悲しそうに『オメガのホルモンが殆ど出ていないので妊娠するのは難しいと思う。 精巣内の精子の数も少なくなってしまったため男性として子を成すことも出来ない』
と告げた。担当医は悲しそうてあったが、高弥としてはむしろほっとした。これで煩わしい発情期などに左右されず生きていけると思ったからだ。薬を使わなければ発情期は自分でコントロールできず、力も強いアルファを惹き付けてしまう
そんなことは自分には起こらないと思って安心して生きてきたのに。これ、が発情期だというのか。腹の奥底から沸き上がる圧倒的な熱が内側から身を焦がす。
くちびるからは自分のものとは思えないほどにあまったるい吐息がは……は……と短く漏れる。全身にふつりと浮かんだ汗の玉がつるりと躯のラインを流れるのにさえも、鳥肌をたててしまうほどに甘い刺激が走る。
高弥が動揺している隙に、 脚の間に男の脚が入り込んで、閉じられないようにされてしまう。
熱くてたまらなくて、くちびるを思わず舌で湿らせると、目の前にある男の喉仏がごくり、と動いた。
「あぁ、もしかして仕事終わりに抑制剤切れるよう調整してた?」
どろり、と昏い嗤い声が混じったような声を耳元で流される。
「は?……」
「お前の年で自分の発情期の周期把握してないとかありえねぇし。仕事終わったら、ゲットしたい優秀なアルファとデートでもするつもりだったわけ?」
「な、に……?」
此れが発情期なのだとしたら、こんなの、今までに体験したことない。周期も何も、わかるわけがない。言い掛かりだ、と反論したいのに、強く香る沢村の匂いに、頭が霞掛かったようにぼぅっと滲む。
「……んっ」
入り込んだ膝が高弥の脚の間にぐっと押し当てられて、躯に抗い難い甘い痺れが走る。発情期とか優秀なアルファとか、色々好き勝手言われてる気がするけれど、 いつもならポンポン言い返す言葉が出てくるのに、言葉が紡げない。
目の前のこの男に縋りついて身を任せてしまいたい衝動と、それだけはしてはいけないという理性がせめぎ合う。
「ぁ……っ」
咄嗟に堪えたものの、沢村の大きな掌が些か乱暴に高弥の双丘を揉みしだいたとき、耳を塞ぎたくなるような甘い声が溢れた。
「へぇ。かっわいー。普段のツンツンしてる声と全然違うじゃん」
やめろ、と拒まなければと、思うのに。
男の手が双丘をぐっと押し開いたとき、腹の奥底から、とぷり、と何か体液が流れ出たのがはっきりと高弥自身にも感じられた。
「ぅあ……っ」
体液が溢れる孔が何かを欲してるかのようにひくひくと痙攣している。
抗うために沢村の胸に置いた手が、いつの間にか、 彼のシャツをぎゅっと掴んで、まるで縋りついているようだったが、腰から下に全然力が入らなくて、そうでもしていないとぐずぐずと崩れ落ちてしまいそうだった。
「ヤらせろよ、高弥」
耳奥に流されたセリフはとんでもないものだったのに、抗い難いほど甘ったるかった。
「や、です……っ誰があんたとなんか……っ」
頭は甘ったるい誘いと初めての発情期に襲われる感覚でぐちゃぐちゃだったけれども、必死で頭を振る。
「……へぇ。いや?やっぱお前、男いたりすんの?」
沢村の声の温度がぞっとするほど冷え冷えとして、思わず顔を上げると、いつもの軽さを感じさせる表情とはほど遠く、深く昏い彩を湛えた瞳が其処に在った。
どうやら何かスイッチを押してしまったらしい、と高弥が気付いたときには遅かった。
「ぅあ……っ」
噛みつくように着替えたばかりの私服のTシャツから覗く首筋を吸われた。
がたん
ロッカーに押し当てられて、耳障りな大きな音が鳴る。
抗う手首は男の大きな掌によって一つに纏めあげられた。
先程のオペでも散々感じた恐ろしいほどの器用さで、片手は塞がっているのにもかかわらず、易々と高弥のジーンズの前は寛げられてしまう。
緩められたウエストから侵入しようとする手の意図に気付き脚を必死で閉じようとするも、 とっくに合間に差し込まれた膝のせいで閉じられない。
「ちょ……マジ、冗、談っやめ……っ」
「さすがに冗談でここまでしねぇなぁ」
沢村の指が下着のゴムを潜った。
高弥の脚の間の熱気と噎せるほどに甘い香りが、入り込んだ指先が生んだ隙間から漏れた。
「………っ」
その蜜を煮詰めたように甘い香りを感じ取った沢村が、獣のように喉を鳴らした。
餌を前にした獣のような沢村に思わず高弥がたじろいだその瞬間。
ぐじゅ……
必死で脚を閉じようとしたが、叶わず、沢村の手が高弥の下着の中に侵入するのを許してまう。
どろどろの液体を掻き回したような水音。
沢村の手は高弥のオメガらしくやや小ぶりだが、完全に熱くなりとろとろと体液を溢す陰茎に絡み付く。
勃っていることを、からかうように沢村は陰茎に指を絡める。
「……ぅっ」
寸でのところで、 声を漏らすのを耐えたというのに。指先は、陰茎のさらに奥に進む。
にゅる……
熱い蜜を溢す蜜孔の縁をあの長い指先が、擽るようになぞる。
「はは。高弥。お前すっげぇ、 ぐちょぐちょじゃん」
やべぇ、真面目なお前が濡らしてんの、結構クるな。
そして、つぷ、と人差し指の先が孔のナカに射し込まれた。
「………ぁっ……」
自分でさえも触れたことのない場所に、少しずつ指が潜っていく。
──ナカに、もっと欲しい……
今まで抱いたことのない欲望が高弥の脳裏を埋め尽くす。
その欲望を振り切るように頭を振るのに、指は容赦なくずぶずぶと奥へ潜って行く。
「や……っだ……めっ」
「ココは嫌って言ってねぇけど?」
そう言って指をぐちゅぐちゅと出し入れするように動かされた。
「うぁ………っ」
かくり、と膝から力が抜けたとき。
「あー、俺がもうだめ。我慢、 できねぇ」
男はそう言うと、高弥の躯を担ぎ上げた。
躯は火照って熱を持って苦しいし、パンツやら下着が絡み付いて脚をバタつかせることも出来ず、易々と運ばれてしまった。
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