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大学のテニスサークル、ブルーフィールドの夏合宿の最終日。全ての練習を昼過ぎに終え、大騒ぎで海で遊んだ後、夕暮れから海岸でBBQで盛り上がりそして花火。なんともチャラチャラした大学生らしい過ごし方だ。
そして橙と紫が入り交じった黄昏が星が瞬く深い藍色の空にゆるやかにとけ込んだ頃。
加減を知らない酒の飲み方で大騒ぎしている連中の中で、理央はちびちび缶ビールに口を付けながら仲間がその辺りに捨てた空き缶を見つけてはゴミ袋に投げ入れる。
「理央ってさぁ、ホント超意外」
昼間の灼けつくような暑さはないが、肌にじっとりと纏わり付くような、そんな熱気が残る夏の夜。
「遊んでそうに見えるよなー理央は。実際背はそんな高くないけど女の子の人気高いし。理央くんカワイーって」
パサパサとした音が聞こえてきそうなほど傷んだ髪を振って何がおかしいのかギャハハと同学年の男は笑った。「だって理央可愛いもんねー」
同じく毛先が傷んだ長い髪を揺らした女が、長い爪を理央の艶やかな髪に絡めた。
「ブルフィーの王子様とか言われちゃってさぁ。王子様とか言われてるけど、まぁちょっとカワイイ顔してるだけであんまり背が高くないところとか、先輩達みたくめちゃくちゃに整った顔じゃないところが手が届きそうって感じなんだろうな」
と、また別の男がニキビの痕が残る顔で言った。
「三年の先輩達は別格だよねー!理央が王子様なら皇帝って感じ」
テニスも上手で背も高く整った顔立ちをしているブルーフィールドの先輩達は確かに気安く話し掛けられる存在ではない。そのため理央は手が届きそうだと女の子達も笑った。
そして理央の美容師の兄がまめに手入れしてくれる綺麗なカラーに染められた髪の毛を酔っ払った友人が気安く掻き回した。ついこの前まで高校生で、しかも校則が厳しい学校にいたため、カラーリングやピアスなどできなかった。そのため大学生になった途端兄は箍が外れたように理央のことを弄り倒したのだ。
「なぁなぁ。この前理央に声かけてきた独文科の子さ、友達紹介してくれたりしねぇ?」
理央のことを先輩達と比べると手が届きそうな気安い存在だのなんだの言いたい放題したくせに、ちゃっかりこっそり女子達に聞こえないように耳元でお願いしてくる友人。
「あーーごめん。あの子とは特に連絡先交換してないから難しいと思う」
食べ終わったスナック菓子の袋が風に飛ばされないうちにとゴミ袋に放り込みながら理央が答える。酒臭い息が気持ち悪い。
「まじかよ、あんな美人……理央の好みってどうなってるわけ? つーか、気がありそうだったしとりあえずヤっとこうとか思わないわけ?」
酔っ払った友人達が理央の肩に腕を回しながら絡んでくる。
「ちょっと! なんて話してんのよ」
女の子達は言いながらも下品にケラケラ笑っている。
あぁ、そんなことよりも、せめて使い終わった割り箸は自分でゴミ袋に捨てて欲しい。
思わず理央が顔を顰めそうになったそのとき。
「楽しそうに話してるとこごめんね。理央、ちょっといいかな?」
聞こえた清涼感のあるその声に顰めてしまいそうになった眉間の皺が思わず伸びた。
「あ、千聖さん! お疲れ様ですっ」
だらしなく酒を飲んでいた友人達が急に背筋をぴんと伸ばし、女子達も乱れた髪を慌てて直し始める。
だらけて乱れた酒の雰囲気が途端にきりっと引き締まる。先ほど話題に上った皇帝のような雰囲気を持つ三年生のうちの一人である千聖は彼の回りだけ清涼な空気が流れているような、そんなひと。
「あと山田も鈴木も理央が怒らないからってしつこく絡まないであげて」
眼鏡の奥の瞳はうんと優しいけれど少しだけぴりりと厳しくて彼の前では誰もが背筋を正したくなるようなひと。
「はい」
二人が声を揃えて返事すると
「うん、みんないい子だね」
と千聖は眼鏡の奥の瞳を少し緩めた。
千聖に呼ばれた理央はまだ集め終わってなかった辺りのゴミを袋に手早く詰めたあと
「お待たせしました、千聖さん」
急いで彼の隣に立った。
「明日の帰りの車の割振りを理央に相談しようと思って」
サークルの合宿は何人かが車で来ていて、自宅の方向が近いもの同士割り振られる。乗り切れなかったり都合の合わない者だけが電車で帰ることになるが大概上手くやれば全員割り振れる。
一年の取り纏め役を押し付けられたときは何でも押し付けられる自分が嫌になったものだが、お陰でサークルの全体の庶務を担当している千聖と話す機会も多くなった。
優しくて知的な千聖の隣に連れ立って歩くと爽やかなグリーンノートの香り。
ざわざわと騒がしい場所を抜けるように歩く。サークルの皆の姿も大分小さくなったところまで。
相談って何処でするのだろうかと理央が思い始めた頃。
「実は相談っていうのは建前で」
千聖は落ち着いた声をほんの少しだけいたずらっぽく弾ませて理央と視線を合わせた。
そして橙と紫が入り交じった黄昏が星が瞬く深い藍色の空にゆるやかにとけ込んだ頃。
加減を知らない酒の飲み方で大騒ぎしている連中の中で、理央はちびちび缶ビールに口を付けながら仲間がその辺りに捨てた空き缶を見つけてはゴミ袋に投げ入れる。
「理央ってさぁ、ホント超意外」
昼間の灼けつくような暑さはないが、肌にじっとりと纏わり付くような、そんな熱気が残る夏の夜。
「遊んでそうに見えるよなー理央は。実際背はそんな高くないけど女の子の人気高いし。理央くんカワイーって」
パサパサとした音が聞こえてきそうなほど傷んだ髪を振って何がおかしいのかギャハハと同学年の男は笑った。「だって理央可愛いもんねー」
同じく毛先が傷んだ長い髪を揺らした女が、長い爪を理央の艶やかな髪に絡めた。
「ブルフィーの王子様とか言われちゃってさぁ。王子様とか言われてるけど、まぁちょっとカワイイ顔してるだけであんまり背が高くないところとか、先輩達みたくめちゃくちゃに整った顔じゃないところが手が届きそうって感じなんだろうな」
と、また別の男がニキビの痕が残る顔で言った。
「三年の先輩達は別格だよねー!理央が王子様なら皇帝って感じ」
テニスも上手で背も高く整った顔立ちをしているブルーフィールドの先輩達は確かに気安く話し掛けられる存在ではない。そのため理央は手が届きそうだと女の子達も笑った。
そして理央の美容師の兄がまめに手入れしてくれる綺麗なカラーに染められた髪の毛を酔っ払った友人が気安く掻き回した。ついこの前まで高校生で、しかも校則が厳しい学校にいたため、カラーリングやピアスなどできなかった。そのため大学生になった途端兄は箍が外れたように理央のことを弄り倒したのだ。
「なぁなぁ。この前理央に声かけてきた独文科の子さ、友達紹介してくれたりしねぇ?」
理央のことを先輩達と比べると手が届きそうな気安い存在だのなんだの言いたい放題したくせに、ちゃっかりこっそり女子達に聞こえないように耳元でお願いしてくる友人。
「あーーごめん。あの子とは特に連絡先交換してないから難しいと思う」
食べ終わったスナック菓子の袋が風に飛ばされないうちにとゴミ袋に放り込みながら理央が答える。酒臭い息が気持ち悪い。
「まじかよ、あんな美人……理央の好みってどうなってるわけ? つーか、気がありそうだったしとりあえずヤっとこうとか思わないわけ?」
酔っ払った友人達が理央の肩に腕を回しながら絡んでくる。
「ちょっと! なんて話してんのよ」
女の子達は言いながらも下品にケラケラ笑っている。
あぁ、そんなことよりも、せめて使い終わった割り箸は自分でゴミ袋に捨てて欲しい。
思わず理央が顔を顰めそうになったそのとき。
「楽しそうに話してるとこごめんね。理央、ちょっといいかな?」
聞こえた清涼感のあるその声に顰めてしまいそうになった眉間の皺が思わず伸びた。
「あ、千聖さん! お疲れ様ですっ」
だらしなく酒を飲んでいた友人達が急に背筋をぴんと伸ばし、女子達も乱れた髪を慌てて直し始める。
だらけて乱れた酒の雰囲気が途端にきりっと引き締まる。先ほど話題に上った皇帝のような雰囲気を持つ三年生のうちの一人である千聖は彼の回りだけ清涼な空気が流れているような、そんなひと。
「あと山田も鈴木も理央が怒らないからってしつこく絡まないであげて」
眼鏡の奥の瞳はうんと優しいけれど少しだけぴりりと厳しくて彼の前では誰もが背筋を正したくなるようなひと。
「はい」
二人が声を揃えて返事すると
「うん、みんないい子だね」
と千聖は眼鏡の奥の瞳を少し緩めた。
千聖に呼ばれた理央はまだ集め終わってなかった辺りのゴミを袋に手早く詰めたあと
「お待たせしました、千聖さん」
急いで彼の隣に立った。
「明日の帰りの車の割振りを理央に相談しようと思って」
サークルの合宿は何人かが車で来ていて、自宅の方向が近いもの同士割り振られる。乗り切れなかったり都合の合わない者だけが電車で帰ることになるが大概上手くやれば全員割り振れる。
一年の取り纏め役を押し付けられたときは何でも押し付けられる自分が嫌になったものだが、お陰でサークルの全体の庶務を担当している千聖と話す機会も多くなった。
優しくて知的な千聖の隣に連れ立って歩くと爽やかなグリーンノートの香り。
ざわざわと騒がしい場所を抜けるように歩く。サークルの皆の姿も大分小さくなったところまで。
相談って何処でするのだろうかと理央が思い始めた頃。
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