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番外編SS
レオンの出産レポート4
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太陽がゆっくりと傾いていき、青空が橙色と紫が混じった色に変わるまで廊下の椅子に座って待った。
レンが不安がっているだろうから、一旦帰るべきかもしれないとは思ったが、一向に処置が終わらないため、その場を動くことができなくなっていた。分娩室を出る前の青褪めた顔や、最後に触れた冷たい手の感触が頭にこびり付いて仕方ない。
そして窓の外が薄暗くなり始めた頃、ようやく分娩室の扉が開き、ストレッチャーに乗せられたシンが出てきた。
腕に輸血の管が付けられた状態のシンを見て、レオンはがたりと大きな音を立てて立ち上がった。
「レンくんを出産したときも出血が多かったから、念の為出産前にシンくんの血液を輸血用に取ってありました。輸血をしているけれども、あまり心配しないでくださいね」
真っ青な顔で運ばれていくシンを見て同じように青ざめたレオンにストレッチャーを押す看護師が声を掛けた。
そして廊下に並ぶ扉の1つを開け、レオンも共に入った。
小さな部屋には小さな病院らしくベッドが一つだけ。
窓際に置かれたのベッドの上に、ストレッチャーからシンを移そうとすると、彼は静かに目を開けた。
「自分で移れますよ」
シンはそう言うと、自らベッドに移った。
「よかった。処置の途中で意識を失っちゃったから心配だったけれど」
看護師はシンの周囲を整えながら続けた。
「出産ってどうしても原始的なところがあるから、医療が進んでも危険なことになることがとても多いのよね。特にシンさんは男性Subの中でも後天的に妊娠できるようになったとっても珍しいケースだから、前回みたいにすぐ大きな病院に移す準備はしていたけれど、今のところ大丈夫そうでよかった……」
何かあったらすぐにナースコールしてね、と言って看護師は部屋を出ていった。
「もー、そんな怖い顔しないでくださいよ。ただでさえ怖い顔なんだから……って笑うとこなんですけど?」
二人きりになった室内でシンが苦く笑いながら言った。
「……レンのときはもっと危なかったのか……?」
低い声でレオンは問う。
「レンは元気に産まれましたよ。先生も助産師さんも驚くくらい」
シンは明るい声で返す。
「お前のことを聞いてる」
「あー……まぁ……出血多くなっちゃって。今回は俺の出血多くなること予想して色々準備してたし2度目だったから大丈夫だったけれど、あのときは先生達も男性Subの出産は初めてだってことで、念の為……っ」
そこまで言ったところで、レオンはシンの首元に顔を埋めた。
「……お前が俺のいないところで死ななくてよかった……っ」
絞り出すようなレオンの声。
「死なないですよ……先生達もしっかり準備してくれてたし」
「お前は何も言わない……」
珍しく拗ねるような声が出てしまった。
「あなただって死にそうだったとか苦しかったとかあんまり言わないじゃないですか」
「俺のとは違う……」
「違わないですよ」
「違うだろうが……お前が子供を産むことは危険なことだとはわかっていたつもりだが、目の前で見るまであまりにも現実をわかっていなかった」
そこまで言うと、レオンは深く息を吐いたのに、シンはふ、と笑った。
「笑うようなこと言ってねぇ」
「そうですけど……今日来てくれるとは思わなかったし……娘は元気に産まれたし……俺は今すごく嬉しいんです……」
シンの指がゆっくりとレオンの髪を撫でた。
「あ……満月でしたね。今日」
まだカーテンが開いたままだったので、病室の窓からは東に姿を見せ始めた大きな月が海を照らしているのが見えていた。
「大潮だな……」
「ぶっ……色気のない応え……」
そう言って楽しそうに笑ったあと、少しだけシンは顔を歪めた。
「おい……」
「産んだばかりなんだから、大笑いしたら少しは痛みますよ。そんなに心配しないでください」
そう言われても心配なのは仕方ない。
「もう俺の状態は大丈夫だろうし、日が暮れたからレンを迎えに行ってあげてください」
シンはいつまでも傍らを動かないレオンを笑う。
少しでも離れている間に何かあったらどうするのだ。
「病院にいるんだから大丈夫ですよ」
そう言ったとき、レオンの携帯電話が小さく震えた。
「ほら。町長さんの奥様からじゃないですか?」
液晶を見てレオンは小さく息を吐いた。レンが心配しているといった内容のメッセージを見てレオンは名残惜しそうに立ち上がった。
それから少し屈んでまだ色の戻らない、いつもより冷たい唇にキスを落とす。
まだ少し冷たい。
「明日朝、またすぐに来る」
いつもより早く唇を離したレオンがそう言う、とシンはまたぷっと吹き出した。
「漁に行ってくださいよ」
「明日は行かない。ここに来る」
頑なに言うレオンの頬をシンはそっと撫でる。
「いいですけど……知ってます?」
少し艶めかしい声色に変えて囁くようなシンの声。
「帰ってからの生活の方がずっーと大変で、それこそ本当に死にそうですからね」
シンの言葉にレオンの目が珍しく丸くなる。
「これより……?」
「そう。これより」
いたずらっぽい顔で言っているが、嘘ではないのだろう。
「わかった。覚悟しておく」
幾多の修羅場を乗り越えてきた男の覚悟を決めた表情に、シンはまた楽しそうに笑った。
終わり☆
人間らしい生活について詳しくないレオンはこうやって色々と学び成長していき、ラストの番外編「HOME」に続いていきます。
レオンはこの町に来て沢山成長していくわけですが、そのあたりを少し垣間見せられたら……と思いこの話を書きました。
お読みいただきありがとうございました!
昨日よりこちら『孤狼のSubは王に愛され跪く』電子版も配信になりました!
二人の物語を本当に私も命をかける思いで書いたので、是非お読みいただけたら嬉しいです。
お手紙やハッシュタグで感想下さった方にSS読んでいただける企画をしております🥰
近況ボードやTwitterに詳細記載してありますので、是非ご参加して一緒に盛り上げていただけますとこの上なく嬉しいです。
(近況ボードはまだ準備中💦)
レンが不安がっているだろうから、一旦帰るべきかもしれないとは思ったが、一向に処置が終わらないため、その場を動くことができなくなっていた。分娩室を出る前の青褪めた顔や、最後に触れた冷たい手の感触が頭にこびり付いて仕方ない。
そして窓の外が薄暗くなり始めた頃、ようやく分娩室の扉が開き、ストレッチャーに乗せられたシンが出てきた。
腕に輸血の管が付けられた状態のシンを見て、レオンはがたりと大きな音を立てて立ち上がった。
「レンくんを出産したときも出血が多かったから、念の為出産前にシンくんの血液を輸血用に取ってありました。輸血をしているけれども、あまり心配しないでくださいね」
真っ青な顔で運ばれていくシンを見て同じように青ざめたレオンにストレッチャーを押す看護師が声を掛けた。
そして廊下に並ぶ扉の1つを開け、レオンも共に入った。
小さな部屋には小さな病院らしくベッドが一つだけ。
窓際に置かれたのベッドの上に、ストレッチャーからシンを移そうとすると、彼は静かに目を開けた。
「自分で移れますよ」
シンはそう言うと、自らベッドに移った。
「よかった。処置の途中で意識を失っちゃったから心配だったけれど」
看護師はシンの周囲を整えながら続けた。
「出産ってどうしても原始的なところがあるから、医療が進んでも危険なことになることがとても多いのよね。特にシンさんは男性Subの中でも後天的に妊娠できるようになったとっても珍しいケースだから、前回みたいにすぐ大きな病院に移す準備はしていたけれど、今のところ大丈夫そうでよかった……」
何かあったらすぐにナースコールしてね、と言って看護師は部屋を出ていった。
「もー、そんな怖い顔しないでくださいよ。ただでさえ怖い顔なんだから……って笑うとこなんですけど?」
二人きりになった室内でシンが苦く笑いながら言った。
「……レンのときはもっと危なかったのか……?」
低い声でレオンは問う。
「レンは元気に産まれましたよ。先生も助産師さんも驚くくらい」
シンは明るい声で返す。
「お前のことを聞いてる」
「あー……まぁ……出血多くなっちゃって。今回は俺の出血多くなること予想して色々準備してたし2度目だったから大丈夫だったけれど、あのときは先生達も男性Subの出産は初めてだってことで、念の為……っ」
そこまで言ったところで、レオンはシンの首元に顔を埋めた。
「……お前が俺のいないところで死ななくてよかった……っ」
絞り出すようなレオンの声。
「死なないですよ……先生達もしっかり準備してくれてたし」
「お前は何も言わない……」
珍しく拗ねるような声が出てしまった。
「あなただって死にそうだったとか苦しかったとかあんまり言わないじゃないですか」
「俺のとは違う……」
「違わないですよ」
「違うだろうが……お前が子供を産むことは危険なことだとはわかっていたつもりだが、目の前で見るまであまりにも現実をわかっていなかった」
そこまで言うと、レオンは深く息を吐いたのに、シンはふ、と笑った。
「笑うようなこと言ってねぇ」
「そうですけど……今日来てくれるとは思わなかったし……娘は元気に産まれたし……俺は今すごく嬉しいんです……」
シンの指がゆっくりとレオンの髪を撫でた。
「あ……満月でしたね。今日」
まだカーテンが開いたままだったので、病室の窓からは東に姿を見せ始めた大きな月が海を照らしているのが見えていた。
「大潮だな……」
「ぶっ……色気のない応え……」
そう言って楽しそうに笑ったあと、少しだけシンは顔を歪めた。
「おい……」
「産んだばかりなんだから、大笑いしたら少しは痛みますよ。そんなに心配しないでください」
そう言われても心配なのは仕方ない。
「もう俺の状態は大丈夫だろうし、日が暮れたからレンを迎えに行ってあげてください」
シンはいつまでも傍らを動かないレオンを笑う。
少しでも離れている間に何かあったらどうするのだ。
「病院にいるんだから大丈夫ですよ」
そう言ったとき、レオンの携帯電話が小さく震えた。
「ほら。町長さんの奥様からじゃないですか?」
液晶を見てレオンは小さく息を吐いた。レンが心配しているといった内容のメッセージを見てレオンは名残惜しそうに立ち上がった。
それから少し屈んでまだ色の戻らない、いつもより冷たい唇にキスを落とす。
まだ少し冷たい。
「明日朝、またすぐに来る」
いつもより早く唇を離したレオンがそう言う、とシンはまたぷっと吹き出した。
「漁に行ってくださいよ」
「明日は行かない。ここに来る」
頑なに言うレオンの頬をシンはそっと撫でる。
「いいですけど……知ってます?」
少し艶めかしい声色に変えて囁くようなシンの声。
「帰ってからの生活の方がずっーと大変で、それこそ本当に死にそうですからね」
シンの言葉にレオンの目が珍しく丸くなる。
「これより……?」
「そう。これより」
いたずらっぽい顔で言っているが、嘘ではないのだろう。
「わかった。覚悟しておく」
幾多の修羅場を乗り越えてきた男の覚悟を決めた表情に、シンはまた楽しそうに笑った。
終わり☆
人間らしい生活について詳しくないレオンはこうやって色々と学び成長していき、ラストの番外編「HOME」に続いていきます。
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お読みいただきありがとうございました!
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(近況ボードはまだ準備中💦)
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