23 / 23
番外編SS
イエロー パンジー ストリート
しおりを挟む
海の見える小高い丘へ続く小路は、イエローパンジーで縁取られている。
いつもはにぎやかに登って行くが、今日は一人きり。
年に一度だけ訪れる、如月が命を落とした日。
その日だけはシンは静かに感謝の想いを伝えるために、一人だけで如月のもとへ行くのだ。
如月と出会うまでシンの世界は色がなかった。
如月と暮らすようになってから、シンの世界は色を持ち、輝き始めた。
拾った子供の人生を大きく変えるには、大きなに苦労があっただろう。
今のつつましい生活に大きな幸せを感じれば感じるほど、如月への感謝の想いはいっそう強くなる。
「ありがとう……恭介さん。俺、何も返せなくてごめんね」
イエローパンジーの小路を歩いていると、なんだか如月と歩いているような気持ちになる。
穏やかにどこまでも晴れた秋の日差しの中、柔らかな風にパンジーの花びらが揺れて、シンの言葉に優しく応えてくれているみたいだった。
パンジーの小路を登りきると、視界に青い海が広がり、彼の墓が見えてくる。
「え……?」
墓の前に人影を見つけてシンは思わず声を漏らした。
「レオン……店に姿が見えないと思ったらここにいたんですか?」
小路の方を向いていたレオンは、どうやらシンのことを待っていたらしい。シンの姿を見つけて彼は片眉を上げた。
例年は静かに見守っているだけのこの日に、彼がここに来たのは初めてのことだった。
「お前に渡したいものがある」
「渡したいもの?」
「あぁ。だが今日は如月と話しに来たんだろう。それが終わってからでいい」
首を傾げたシンにレオンは答える。
シンは小さく頷き、視線を墓標に移した。
そして手にしていた花を手向けたのち、心の中で改めて感謝の言葉を告げる。
「いいですよ。終わりました」
しばらく墓標を見つめていたシンが言うと、レオンはジーンズのポケットの中から小さな箱を取り出し、差し出した。
「これを……?」
「開けてみてくれ」
短く言ったレオンの声が、珍しくも緊張しているようだった。言われるままに箱の蓋を開けた。
「……指輪?」
そこにはプラチナ色に輝く二つのリングがあった。
「こういうことに、然程意味があるとは思えなかったんだが……」
レオンの顔を見て、シンは一つのことに気が付いた。
少し前のことだが、町長夫妻の娘の結婚式に子どもたちも連れて四人で参列したのだ。結婚式には招待されても滅多に参列しないレオンだが、町長夫妻に世話になっている自覚はあったのか珍しく参列した。娘の結婚式を終えた町長はとても嬉しそうだった。レオンはそんな町長を見ていたときのような表情を浮かべていた。
「お前には誓ったつもりだが、如月にもきちんと伝えておかないといけないと思った」
その言葉に、シンの目頭が熱くなった。
「……じゃあ恭介さんの前で、これを俺に着けてください」
シンは涙をごまかすように、静かに左手を差し出した。
レオンは箱の中から一つリングを取り出すと、少し震える指先でシンの薬指に着けた。
冷たく感じるはずの金属が、なぜがとても温かく感じた。
それから小箱をレオンに渡し、今度はシンがもう一つのリングをレオンの薬指に着けた。
「……何だか照れくさいですね」
はにかむような笑いをレオンに向ける。
そのシンの頬を愛おしそうにリングの着いた手でレオンは撫でた。
「死ぬまでお前と共にいる」
レオンの緊張したような表情に、胸が震える。
「俺も……っ俺も……レオンとずっと……いたいです」
そうか、と大きな手がシンの頭を撫で、それからそっと唇が近づいてきた。
「ま……待ってくださいっ……ち……誓いのキスもここでするつもり……?」
「駄目なのか? 結婚式とはそういうものだろう?」
レオンが動きを止めて、シンに問う。
「だ……だめじゃないですけど……っ恭介さんに殴られても知りませんよ……っ?」
シンの言葉にレオンは吹き出すように笑ったあと。
「そうだな。一度くらい如月に殴られておけばよかった……」
そう言ったレオンの唇が、柔らかくシンの唇に重なった。
風が優しく吹いて、イエローパンジーが優しく揺れた。
【イエローパンジー花言葉】
つつましい幸せ 田舎の風景 記憶
編集部へお便りを下さった方へのお返事ペーパーに載せていたSSです。
お便り、読者の皆さまを身近に感じられて本当に嬉しかったです。
ありがとうございました!
いつもはにぎやかに登って行くが、今日は一人きり。
年に一度だけ訪れる、如月が命を落とした日。
その日だけはシンは静かに感謝の想いを伝えるために、一人だけで如月のもとへ行くのだ。
如月と出会うまでシンの世界は色がなかった。
如月と暮らすようになってから、シンの世界は色を持ち、輝き始めた。
拾った子供の人生を大きく変えるには、大きなに苦労があっただろう。
今のつつましい生活に大きな幸せを感じれば感じるほど、如月への感謝の想いはいっそう強くなる。
「ありがとう……恭介さん。俺、何も返せなくてごめんね」
イエローパンジーの小路を歩いていると、なんだか如月と歩いているような気持ちになる。
穏やかにどこまでも晴れた秋の日差しの中、柔らかな風にパンジーの花びらが揺れて、シンの言葉に優しく応えてくれているみたいだった。
パンジーの小路を登りきると、視界に青い海が広がり、彼の墓が見えてくる。
「え……?」
墓の前に人影を見つけてシンは思わず声を漏らした。
「レオン……店に姿が見えないと思ったらここにいたんですか?」
小路の方を向いていたレオンは、どうやらシンのことを待っていたらしい。シンの姿を見つけて彼は片眉を上げた。
例年は静かに見守っているだけのこの日に、彼がここに来たのは初めてのことだった。
「お前に渡したいものがある」
「渡したいもの?」
「あぁ。だが今日は如月と話しに来たんだろう。それが終わってからでいい」
首を傾げたシンにレオンは答える。
シンは小さく頷き、視線を墓標に移した。
そして手にしていた花を手向けたのち、心の中で改めて感謝の言葉を告げる。
「いいですよ。終わりました」
しばらく墓標を見つめていたシンが言うと、レオンはジーンズのポケットの中から小さな箱を取り出し、差し出した。
「これを……?」
「開けてみてくれ」
短く言ったレオンの声が、珍しくも緊張しているようだった。言われるままに箱の蓋を開けた。
「……指輪?」
そこにはプラチナ色に輝く二つのリングがあった。
「こういうことに、然程意味があるとは思えなかったんだが……」
レオンの顔を見て、シンは一つのことに気が付いた。
少し前のことだが、町長夫妻の娘の結婚式に子どもたちも連れて四人で参列したのだ。結婚式には招待されても滅多に参列しないレオンだが、町長夫妻に世話になっている自覚はあったのか珍しく参列した。娘の結婚式を終えた町長はとても嬉しそうだった。レオンはそんな町長を見ていたときのような表情を浮かべていた。
「お前には誓ったつもりだが、如月にもきちんと伝えておかないといけないと思った」
その言葉に、シンの目頭が熱くなった。
「……じゃあ恭介さんの前で、これを俺に着けてください」
シンは涙をごまかすように、静かに左手を差し出した。
レオンは箱の中から一つリングを取り出すと、少し震える指先でシンの薬指に着けた。
冷たく感じるはずの金属が、なぜがとても温かく感じた。
それから小箱をレオンに渡し、今度はシンがもう一つのリングをレオンの薬指に着けた。
「……何だか照れくさいですね」
はにかむような笑いをレオンに向ける。
そのシンの頬を愛おしそうにリングの着いた手でレオンは撫でた。
「死ぬまでお前と共にいる」
レオンの緊張したような表情に、胸が震える。
「俺も……っ俺も……レオンとずっと……いたいです」
そうか、と大きな手がシンの頭を撫で、それからそっと唇が近づいてきた。
「ま……待ってくださいっ……ち……誓いのキスもここでするつもり……?」
「駄目なのか? 結婚式とはそういうものだろう?」
レオンが動きを止めて、シンに問う。
「だ……だめじゃないですけど……っ恭介さんに殴られても知りませんよ……っ?」
シンの言葉にレオンは吹き出すように笑ったあと。
「そうだな。一度くらい如月に殴られておけばよかった……」
そう言ったレオンの唇が、柔らかくシンの唇に重なった。
風が優しく吹いて、イエローパンジーが優しく揺れた。
【イエローパンジー花言葉】
つつましい幸せ 田舎の風景 記憶
編集部へお便りを下さった方へのお返事ペーパーに載せていたSSです。
お便り、読者の皆さまを身近に感じられて本当に嬉しかったです。
ありがとうございました!
71
お気に入りに追加
1,874
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(51件)
あなたにおすすめの小説
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!



身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

イケメンの後輩にめちゃめちゃお願いされて、一回だけやってしまったら、大変なことになってしまった話
ゆなな
BL
タイトルどおり熱烈に年下に口説かれるお話。Twitterに載せていたものに加筆しました。Twitter→@yuna_org
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
DomSubは得意分野ではないビビりで、片手に入るくらいしか読んだことないのですが…ゆななさんの本欲しさに購入しました✨
感想がだいぶ遅くなってしまいましたが、改めて失礼します🙏
テーマが裏社会ということで…事件ありスリルありの中でのプレイに興奮しました‼︎︎ゆななさんの描く世界観、やっぱり好きだなぁと思ったのと、表現力が素晴らしいので情景なども分かりやすく想像できました!
個人的に強くて美しい受けや、無理矢理から始まる関係が好物なんです。
そして、だんだんと愛に…というのもらたまらなく性癖にささりました(笑)
ゆななさんが作り出すDomSubの世界は楽しかったです。これからは怖がらずもっといろんなジャンル読んでいこうと思えました✨
素敵な物語ありがとうございます😊
riikoさん、こんばんは🌛
DomSubは好き嫌い分かれますよね💦そんな中チャレンジして本を手に取って読んでくださり、ありがとうございます!あまりに最初がひどいので、ハッピーエンドが想像できなくてラストにたどり着くまでにとてもとても苦労した作品でした😅情景想像できたと言ってもらえて嬉しいです✨悪い組織のアジトwの説明が難しくて何度も直したり直してもらったり、だったので😂
あとこんな始まりだったので、中々受けが攻めを好きにならず、これもこんな男、どうやったら好きになってくれるんだーと頭を抱えました😂
なのでだんだん好きになっていくように見えていたなら本当によかったです😭
昨日感想いただいてとても嬉しくて寝る前に噛み締めながら返信していたら、このページ開いたまま寝落ちしてしまいました😅でも起きてスマホみたらこのコメントがすぐ出てきたので朝から幸せな気分です✨
こちらこそ読んで下さりありがとうございました!
退会済ユーザのコメントです
こちらのコメント気付かずで、返信がこんなに遅くなり申し訳ありません😭アカウントをもう削除してしまったようですが、いつかコメント主さんの目に付くことがありますように✨と願いを込めて💦
発売一周年とシンの誕生日をお祝いしてくださったなんて💦お気持ちを寄せてくださり、とても嬉しいです✨ありがとうございます🙏
精神的にだけでなく、本当に戦って強い美人受けが好きなのでシンは私の好きを詰め込んだキャラクターなんです✨そこを褒めていただけて、それもとても嬉しいです✨
まだまだ作家としては未熟な私に過分なお言葉もありがとうございます!
至らないところは多いですが、また作品を読んでいただけたら嬉しいです✨
コメント届きますように🙏
お久しぶりです。更新ありがとうございます。
さすがレオン、きちんと如月さんの前ですじを通しましたね。
2人って、いわゆるデキ婚じゃないですか、経緯が修羅場でしたが。シンちゃんは逃亡だったし、レオンも危なかったし。
なのでプロポーズらしきもの(別れ際の言葉とか、部屋の準備とか、車、戸籍とかの準備とか……レオンなりの)はありましたが、結婚式はなかったのでいつか見てみたいな、と思っていたのですが、
今回はからずも実現してとても嬉しかったです😊
最初は悪い意味でザ・Domだったのですが、今では性格もかなり丸くなって、ちゃんと溺愛Dom、不器用な優しいパパなレオン、結婚式をするならやっぱり如月さんに参加してほしいシンちゃんの気持ちをわかってくれていたんだな、と感動✨でも結婚式はお子生まれる前にするものなので子供はお留守番?(または町長さん宅)で二人きりで、という謎のこだわりも、らしくて(笑)
きちんと言葉で誓ってくれたのもどこか不安なシンちゃんを慮ってくれていて、本当にいい夫婦になったなぁと感無量です💕
最近は紙で読み返していて、久しぶりの更新で即読みに来ました。
また2人に会えて嬉しかったですが、如月さんは『見せつけてくれてんじゃねぇか』とかニヒルに笑ってタバコふかしてそうですね😊
心あたたまる将来への誓い、もらい泣きしてしまいました。
シオンちゃんの性も教えていただきありがとうございました( *´艸`)💕なるほど、シンちゃんは旦那と子供達から溺愛されるのね、とニマニマしてしまいました🤭
四葩さん、すぐに丁寧に読んでいただけて本当に嬉しいです😭紙の本も読み返していただけて、そちらも嬉しい✨
四葩さんの仰るとおりやっぱり結婚式したいし、お父さんにご挨拶もちゃんとやらせたい!と思って書きました。
そして、お留守番の子供たちのことまで考えてもらえて✨
町長夫妻宅でおやつでもご馳走になってるんじゃないかなぁと思います😊
如月も本当にそう言って、タバコふかしてそう😂
想像したことを教えてもらえると、私も更に想像が膨らみます。
翌日以降町のみんなは二人の指に新しく光る指輪を見てニヤニヤするんだろうなぁとか、私も久しぶりに二人の住んでいる世界を想像しちゃいました😊
シオンは超美人な女王様になりますが、書籍ラストに載せた番外編のとき、シンが攫われて行ったのがやっぱりちょっとトラウマでレンと共に店を訪れる客全てに目を光らせるようになりまーす!