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番外その1-ジーク編『コープスティーパーティー』

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「いや、このままでいいよ」
「??」
「この痕可愛いし、記念に残しておきたいから」
シュリは閉口した後に真っ赤になり、「変態」と呟いてジークフリートの腕をバシッと尻尾で叩いた。


腕の痛みも取れたところでシュリのティーカップに湯を注ごうかと思っていると、不意にドアが開き、シュリが飛び上がった。驚くのも無理もない。こんな時間に活動しているのは自分達と幽霊ぐらいだろう。だが、現れたのは若いメイドだった。手には湯の入ったポットを手にしている。
「王族の方が給仕などなさらないでくださいよ。ジーク坊ちゃま」
彼女の明るい挨拶に、シュリはホッとした顔をした。子供の頃から自分達の子守りをしてくれていたメイド、アメリアだ。明るい彼女を母は嫌っていたが、ジークフリートは彼女がそれほど嫌いではなかった。アメリアは慣れた手つきでシュリのティーカップに湯を注いだ。
「こんな時間に働かせて、悪いな」
シュリが気遣うと、彼女はそのピコピコと動く耳に目を奪われた後、思わずと言ったように身を乗り出した。
「もしかしてシュリ様ですか!? あの、品行方正で何事も器用なジーク坊ちゃまが連日連夜頭を悩ませてラブレターを書いては捨て書いては捨てしてゴミ箱を溢れかえらせてた婚約者のシュリさm」
ジークフリートは慌てて、彼女のおしゃべりな口に沈黙の魔法をかけた。
「んーっ、んーっ」
「じ、ジーク! 何するんだ!」
シュリに怒られたので、一旦魔法を解除すると、アメリアは「ふーっ」と胸を撫でおろした。シュリは興味津々というように耳を動かしながらアメリアに向き直る。
「ジークの小さい頃を知っているのか?」
「ええ。ジーク坊ちゃまとギル坊ちゃまが生まれた時からずっとお世話させてもらってますからね。うんとお小さい頃はジーク坊ちゃまの方が活発でわんぱくで、メイド泣かせだったんですよ。ギル坊ちゃまは大人しかったですねえ」
「い、意外だ……」
「アメリア」
低い声でにこやかに牽制するが、彼女のおしゃべりを止めるのは難しそうだ。そしてシュリも、嬉しそうにその話を聞き入っている。
「もっと聞かせてくれ。二人の話」
「坊ちゃまに処刑されてしまいますから……」
「ジーク」
黒く濡れたような瞳でじっと見つめられると、ジークフリートは「うっ」と呻き、仕方なくアメリアに「許可する」と言った。
「やったー! もう話したいことが山程あるんですよ~」
「アメリア。ここ、座ってくれ」
シュリはアメリアの話にワクワクとしながら、椅子を引いたが、彼女は慌てて首を横に振った。
「さすがに、使用人が王族と同じ席に着くのはタブーですよ」
「いいんじゃないかな。こんな真夜中だ。咎める人間は起きてないよ」
そう言ってやると、アメリアは少し緊張気味に腰かけたが、しばらくして慣れてくると、立て板に水のような口ぶりで、幼少期のジークフリート達のことをシュリに語り始めた。
ほとんどが物心つく前の記憶で、それは本当に自分の話だろうかと言いたくなるようなわんぱくなエピソードばかりだった。あまりシュリには聞かれたくなかったが、彼が笑いながら楽しそうに聞いているので、まあいいかと黙っていることにした。どれほど喋り続けていただろうか。冬なので日の出が遅いが、夏ならそろそろ外が白み始めてくる頃だ。雑用メイドなどはそろそろ起き始める時間だろう。
「そうだ」
「どうしたの? シュリ」
「もうすぐ朝だし、解禁してもいいだろ。お菓子。ミショー先生のとこで焼いたクッキーがあるんだ。アメリアもぜひ食べてくれ」
「まあ! ありがとうございます」
「シュリが焼いたやつ?」
思わず食い気味に聞くと、シュリは少し戸惑いながら頷いた。それはぜひ食べたい。
「部屋にあるから取りに行ってくる」
「でも、一人で大丈夫?」
「ば、馬鹿にするな。すぐ近くだし、大丈夫だ」
シュリはそう言ったが、ドアを開けた途端眼前に広がった暗闇に、尻尾を膨らませながら外に出た。二人きりになった部屋で、ジークフリートは紅茶を片手に静かに言った。
「アメリア。いつだ?」
「?」
「……君はいつ、亡くなったんだ」
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