双子の王子に双子で婚約したけど「じゃない方」だから闇魔法を極める

福澤ゆき

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番外その1-ジーク編『コープスティーパーティー』

4.

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「やっぱり、ジークが淹れてくれるお茶美味いな」

シュリはふーっと何度も念入りに覚ましながらハーブティーをゆっくりと飲んで懐かしそうに微笑んだ。

「そう? 別に茶葉に差はないけど……」
「淹れ方かな? 俺もミショー先生のところでよくお茶を淹れるんだけど、こんなに上手には淹れられないんだ。今度、コツを教えてくれ」
「いくらでも教えるよ。あ、お代わりいる?」
「いる」

ご機嫌にゆっくりと尻尾の先を振って言われて、ジークフリートは笑った。まるで執事のように恭しい手つきでシュリの空になったカップにストレーナーを置き、ポットを持ち上げようとして、ズキっと痛むのを感じた。
先ほどシュリに噛まれたところだ。噛まれた時は大して痛くはなかったが、徐々にズキズキと痛むようになってきた。猫に噛まれるのは意外と危険だと言う。牙が鋭く長く、深い傷になるからだ。後で治癒魔法をかけておこうと思いながら、ポットを持ち直す。それはほんの一瞬顔を顰めただけだったが、察しのいい彼はすぐに気付いたらしく、慌てて立ち上がり、ジークフリートの手から湯の入ったポットを取りあげた。

「さ、さっき噛んだとこ、痛むのか?」
「大丈夫。そんな痛くないし」
「嘘だ。絶対痛かっただろ」

そこまでではない。心配しなくていいと笑って言うと、シュリは不意に尻尾を大きく振った。怒っているときのサインだ。

「ジーク。そうやって嘘つくな。俺はあの時のことも、すごく怒ってるんだぞ」
「ああ……それは」

当然のこと、と続けようとしてシュリはそっちじゃないと首を横に振った。

「ゾネルデの日だ。俺や……民を守るために、命を捨てようとした」
「………」

──ジーク、死ぬな。死んだら今度こそお前を許さない

夢現に、シュリが泣きながら、何度も「死ぬな」と声をかけてくれていたことは、微かに覚えている。シュリは尚も尻尾を振って続けようとしたが、それよりも先にジークフリートがぽつりと呟いた。

「……シュリ。あの時……目覚めた時、どうして俺に〝ごめん〟って言ったの?」

以前からずっと気になっていたことだった。その問いに、シュリはハッとして瞳を揺らし、俯いた。やがてどれほど時間が経っただろうか。やっぱり答えなくてもいいよと言おうとしたとき、ようやく彼は口を開いた。

「……あんなに一緒にいたのに、俺は何も気づかなかったから。抱えてたものの重さも、苦しみも……。ジークはずっと、王様になりたくて……出来の悪い俺の存在が負担になったんだって、本気でそう思ってた。でもあの時……」

シュリはそこで再び、口を噤んだ。

「ジークはいつも自分を二の次にする。ちゃんと、痛いときは痛いって……苦しいときは苦しいって、言ってくれよ。自分のことを大事にしない限り、俺は本気で一生、お前を許さないから」

ジークフリートはしばらく目を見開いて固まっていた。まるで彼の優しい手に、子供のように頭を撫でられたような、そんな温かい気持ちになった。生まれてこの方、ほとんど涙など流したことはなかったが、不覚にも瞼が熱くなり、笑って誤魔化しながら腕を持ち上げた。

「……結構痛い」

本当は腕よりも、胸の方が痛かった。辛いわけではなく、じわじわとした心地の良い痛みだった。
シュリは素直に「痛い」と言ったジークフリートに、少し呆気にとられた後、「だから言っただろ」と呆れたように言って腕をまくりあげた。
二つの赤い痕からは血が垂れていて、思った以上の傷だったことにシュリはショックを受けていた。

「ごめん……俺、狂暴で」
「シュリは悪くないよ。〝出る〟なんて嘘ついたどっかの誰かに苦情を入れとく」

シュリはそれでも申し訳なさそうに、一生懸命治癒魔法をかけてくれた。痛みと腫れは引いたが、傷痕は少し残っている。それを見て、彼は両耳を音がするほどぺたんと下げた。

「俺治癒魔法へたくそだ。明日の朝すぐ、ギルに診てもらってくれ。多分、あいつなら跡形もなく消せる」
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