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第8章 セクサロイド
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カウンセリング室は静かで、診察室や検査室では聞こえなかった空調のかすかな音が聞こえた。
「おなじように試験管の中で生まれた命なのに、人間が不妊治療をした成果物として生まれてくる子は人間で、僕たちはセクサロイドですか」
僕は皮肉に笑った。
人々が僕たちをそう呼んでいるのは知っていたが、僕が「セクサロイド」という言葉を口にするのは、これが初めてだった。
この世で一番嫌いな言葉だった。
「きみはセクサロイドなんかじゃない」
「でも、そう言われてる」
僕の感情は混乱して、まばたきをすると涙がこぼれた。
「セクサロイドとは、もともとは前世紀のSF作品の中で使われた言葉で、ヒトとの性行為が可能なロボットのことだ。きみたちがロボットと同じではないことは、人間が一番よくわかっている」
彼はティッシュペーパーの箱を僕の前に差し出した。
「人類は『人間そっくりなロボット』を夢見て技術を進歩させてきた。だが、現時点では、コミュニケーションの不自然さは拭えない。人間の心の機微や複雑な感情を理解して、人の気持ちによりそったり、その時々の状況に応じて臨機応変な対応をする──そういう人間らしい心のロジックを、AIが獲得するには未だ至っていない」
僕は洟をかむと、くしゃくしゃになったティッシュをゴミ箱に投げ入れた。
「しかし、人口が減り続け、ヒトの価値が高騰し、労働力不足が深刻化する状況で、人々は悠長にAI技術の進歩を待っていられなかった。そして……苦肉の策として作り出したのが、奉仕者だった」
「僕たちさえ我慢すれば、すべてが丸くおさまるってことですね」
「先も言ったように、すでに社会に浸透している制度を、いきなりゼロにはできない。だから、制度の適正運用を求めているところだ」
「適正運用?」
「節度を守ってご利用くださいってことだよ。介護や保育のような職種──ロボットが不得手とする分野での奉仕者の利用を、今すぐ止めることはできないだろう」
彼は改めて、僕の上に目線を置いた。
「しかし、ユーザーの『お楽しみ』のために性行為を強要したり鞭打って痛めつけたりするのは、明らかに間違っている。そんなことのために奉仕者が消費されるのは、あってはならないことなんだ」
「おなじように試験管の中で生まれた命なのに、人間が不妊治療をした成果物として生まれてくる子は人間で、僕たちはセクサロイドですか」
僕は皮肉に笑った。
人々が僕たちをそう呼んでいるのは知っていたが、僕が「セクサロイド」という言葉を口にするのは、これが初めてだった。
この世で一番嫌いな言葉だった。
「きみはセクサロイドなんかじゃない」
「でも、そう言われてる」
僕の感情は混乱して、まばたきをすると涙がこぼれた。
「セクサロイドとは、もともとは前世紀のSF作品の中で使われた言葉で、ヒトとの性行為が可能なロボットのことだ。きみたちがロボットと同じではないことは、人間が一番よくわかっている」
彼はティッシュペーパーの箱を僕の前に差し出した。
「人類は『人間そっくりなロボット』を夢見て技術を進歩させてきた。だが、現時点では、コミュニケーションの不自然さは拭えない。人間の心の機微や複雑な感情を理解して、人の気持ちによりそったり、その時々の状況に応じて臨機応変な対応をする──そういう人間らしい心のロジックを、AIが獲得するには未だ至っていない」
僕は洟をかむと、くしゃくしゃになったティッシュをゴミ箱に投げ入れた。
「しかし、人口が減り続け、ヒトの価値が高騰し、労働力不足が深刻化する状況で、人々は悠長にAI技術の進歩を待っていられなかった。そして……苦肉の策として作り出したのが、奉仕者だった」
「僕たちさえ我慢すれば、すべてが丸くおさまるってことですね」
「先も言ったように、すでに社会に浸透している制度を、いきなりゼロにはできない。だから、制度の適正運用を求めているところだ」
「適正運用?」
「節度を守ってご利用くださいってことだよ。介護や保育のような職種──ロボットが不得手とする分野での奉仕者の利用を、今すぐ止めることはできないだろう」
彼は改めて、僕の上に目線を置いた。
「しかし、ユーザーの『お楽しみ』のために性行為を強要したり鞭打って痛めつけたりするのは、明らかに間違っている。そんなことのために奉仕者が消費されるのは、あってはならないことなんだ」
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