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第6章 逃亡
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立浪と雪千代は顔を見合わせた。
「行こう!」
雪千代は立浪に船に乗るよう促す。
「急いで、早く!」
立浪、鶴千代、そして雪千代を乗せた船は、係留縄を外して離岸した。
崖を見ると、追っ手らのうちの一人が、縄を伝っておりてこようとしていた。
「早く陸から離れないと」
立浪は全力で櫂を操り、船を漕ぐ。
雪千代は緊張の面持ちで追っ手を見つめ、衾にくるんだ鶴千代を抱きしめた。
「あに、うえ……」
細い声がした。
「つかまる、まえに……わたくしを……うみに、すてて……」
「わかってる、あそこには二度と戻らない。安心しろ」
雪千代が答えると、鶴千代は幼子のように兄の胸に顔を寄せた。
追手がなんとか縄を伝いおりて下の岩場に着いたときには、船は陸から約十歩──現在の単位に換算すると、十八メートルは離れていた。
季節が真冬だったのが幸いしたのか、追っ手は海には飛び込まずに船を見送った。
しかし、ほかの追っ手らは港に駆け込みと、船で追いかけてきた。
立浪らを乗せた小さな船に、立派な二艘の小早船が近付いてくる。
小船といっても水軍船、向こうは漕ぎ手が六名もいて、速さが段違いだった。
立浪は必死に船を漕ぐが、ついに小早二艘に挟まれ、進路も退路も断たれた。
「神子様、こちらにいらしてください」
船上から、権禰宜が告げた。
「今なら、逃げようとしたことは不問にいたします。どうかおとなしく、こちらの船にお越しくださいませ」
雪千代は船上で座したまま、腕の中の弟の顔を見つめる。
鶴千代は微笑を浮かべ、うなずいた。
雪千代は鶴千代を抱える腕に力を込めると、腰を浮かせ、弟を抱きしめたまま冷たい海に身を投げた。
「行こう!」
雪千代は立浪に船に乗るよう促す。
「急いで、早く!」
立浪、鶴千代、そして雪千代を乗せた船は、係留縄を外して離岸した。
崖を見ると、追っ手らのうちの一人が、縄を伝っておりてこようとしていた。
「早く陸から離れないと」
立浪は全力で櫂を操り、船を漕ぐ。
雪千代は緊張の面持ちで追っ手を見つめ、衾にくるんだ鶴千代を抱きしめた。
「あに、うえ……」
細い声がした。
「つかまる、まえに……わたくしを……うみに、すてて……」
「わかってる、あそこには二度と戻らない。安心しろ」
雪千代が答えると、鶴千代は幼子のように兄の胸に顔を寄せた。
追手がなんとか縄を伝いおりて下の岩場に着いたときには、船は陸から約十歩──現在の単位に換算すると、十八メートルは離れていた。
季節が真冬だったのが幸いしたのか、追っ手は海には飛び込まずに船を見送った。
しかし、ほかの追っ手らは港に駆け込みと、船で追いかけてきた。
立浪らを乗せた小さな船に、立派な二艘の小早船が近付いてくる。
小船といっても水軍船、向こうは漕ぎ手が六名もいて、速さが段違いだった。
立浪は必死に船を漕ぐが、ついに小早二艘に挟まれ、進路も退路も断たれた。
「神子様、こちらにいらしてください」
船上から、権禰宜が告げた。
「今なら、逃げようとしたことは不問にいたします。どうかおとなしく、こちらの船にお越しくださいませ」
雪千代は船上で座したまま、腕の中の弟の顔を見つめる。
鶴千代は微笑を浮かべ、うなずいた。
雪千代は鶴千代を抱える腕に力を込めると、腰を浮かせ、弟を抱きしめたまま冷たい海に身を投げた。
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