47 / 53
第10章 毒
2
しおりを挟む
「は……」
にわかに宮司のおもてに緊張が走る。
「今夏、われわれは伊勢長島に出陣します。玉宮神社は九鬼水軍の配下に入り、織田にお味方していただけるという認識でよろしいですかな?」
「はあ、その、ええと……」
いきなり際どい話を振られて、宮司はしどろもどろになった。
若くても、さすがは信長公の側近、侮ることはできない。
「さて、神子様のお顔を拝見させていただくとしましょうか」
しどろもどろになった宮司にさらに畳み掛けるように、堀は言葉を重ねた。
「それは、その……神子様に近づくと、病がうつるやも知れず……」
「かまわん。案内したまえ」
堀と長谷川はさっと立ち上がると、宮司を見下ろした。
「お待ちくださいませ」
宮司と使者の間に、最年長の禰宜が割り入り、引き止めようとする。
しかし、
「案内してくれぬなら、勝手に探すがよろしいかな?」
堀らは一歩も引かなかった。
仕方なく、宮司は客人らを雪千代の部屋に案内した。
彼らが入室したとき、雪千代は命じられたとおり、おとなしく床に入っていたものの、以前、堀が見たときよりも顔色はよかった。
雪千代はしばらく陵辱の苦痛から解放されているおかげで、この島に来てからもっとも体調がよかった。
「お元気そうで安心しました」
堀は雪千代に笑みをかけた。
「神子様は、今日はめずらしく調子がよろしく……」
宮司が苦しまぎれに言い訳をするが、
「ほう、めずらしく調子が良いなら、今のうちに岐阜に連れて参ろう」
「しかし──」
「しかしもかかしもない」堀はぴしゃりと言った。「それがしの言葉は、上さまの言葉と思っていただきたい。従わぬは、上さまに逆らうことになりまするぞ」
神職らは黙り込んだ。
突然のことに、雪千代は褥の上に横たわったまま、目を丸くしていた。
にわかに宮司のおもてに緊張が走る。
「今夏、われわれは伊勢長島に出陣します。玉宮神社は九鬼水軍の配下に入り、織田にお味方していただけるという認識でよろしいですかな?」
「はあ、その、ええと……」
いきなり際どい話を振られて、宮司はしどろもどろになった。
若くても、さすがは信長公の側近、侮ることはできない。
「さて、神子様のお顔を拝見させていただくとしましょうか」
しどろもどろになった宮司にさらに畳み掛けるように、堀は言葉を重ねた。
「それは、その……神子様に近づくと、病がうつるやも知れず……」
「かまわん。案内したまえ」
堀と長谷川はさっと立ち上がると、宮司を見下ろした。
「お待ちくださいませ」
宮司と使者の間に、最年長の禰宜が割り入り、引き止めようとする。
しかし、
「案内してくれぬなら、勝手に探すがよろしいかな?」
堀らは一歩も引かなかった。
仕方なく、宮司は客人らを雪千代の部屋に案内した。
彼らが入室したとき、雪千代は命じられたとおり、おとなしく床に入っていたものの、以前、堀が見たときよりも顔色はよかった。
雪千代はしばらく陵辱の苦痛から解放されているおかげで、この島に来てからもっとも体調がよかった。
「お元気そうで安心しました」
堀は雪千代に笑みをかけた。
「神子様は、今日はめずらしく調子がよろしく……」
宮司が苦しまぎれに言い訳をするが、
「ほう、めずらしく調子が良いなら、今のうちに岐阜に連れて参ろう」
「しかし──」
「しかしもかかしもない」堀はぴしゃりと言った。「それがしの言葉は、上さまの言葉と思っていただきたい。従わぬは、上さまに逆らうことになりまするぞ」
神職らは黙り込んだ。
突然のことに、雪千代は褥の上に横たわったまま、目を丸くしていた。
2
お気に入りに追加
104
あなたにおすすめの小説



サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。




ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる