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第9章 再来
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翌朝、万見と湯浅は島を後にした。
宮司を筆頭に、神職と出仕が総出で彼らを見送った。
その日の午後、宮司と権宮司、最年長の禰宜の三名が、雁首そろえて雪千代の部屋にやってきた。
彼らは、神子を上座にして、うやうやしく頭を垂れた。
「神子様」
宮司は口を開いた。
「われらは神子様を敬い、大事にしてまいりました」
「……?」
「悪しき継母によって売られた神子様を、われらが人買いのもとから救い出し、心を尽くして大切にお育てしてまいりました。われらの真心を、神子様はお忘れになっておられやしまいかと」
「忘れておりません」
「まことにございますか?」
「はい」
「われらが如何に神子様を敬い、大事にいたしてきたか、神子様がお忘れになっておられぬと知り、安心いたしました」
宮司が再度わざとらしく頭を下げ、ほかの二人もそれにならった。
それまでの手酷い仕打ちをなかったことにするかのように、平身低頭して退室する神職らを、雪千代は唖然とした表情で見送った。
それ以降、神職や出仕は、雪千代に手を出さなくなった。
出仕の中には、皮肉をいったり、わざとらしく卑猥な目で見る者もいたが、高位の神職らは、それまでの仕打ちが嘘のように、うやうやしく接してきた。
表面上は穏やかに過ぎていたが、雪千代の知らないところで、宮司をはじめとする神職らは話し合いに話し合いを重ねていた。
信長の要求に対して、雪千代は病だといって突っぱねればよい、という意見が多勢を占めてはいるが、万一、信長が強く出てきたらどうするかという問題には、いまだ結論は出ていない。
とりあえず、どちらに転んでもいいように、雪千代は大事に扱って機嫌をとっておこうということになった。
いままで散々なぶり倒し、折檻までした相手に、今さらなにをしたところで良い心証など持たれようもないのだが、そのへんは力ある者の驕りがある。
宮司らは、弟を失った雪千代にどれほど深く恨まれているか、その内面を慮ることはなかった。
宮司を筆頭に、神職と出仕が総出で彼らを見送った。
その日の午後、宮司と権宮司、最年長の禰宜の三名が、雁首そろえて雪千代の部屋にやってきた。
彼らは、神子を上座にして、うやうやしく頭を垂れた。
「神子様」
宮司は口を開いた。
「われらは神子様を敬い、大事にしてまいりました」
「……?」
「悪しき継母によって売られた神子様を、われらが人買いのもとから救い出し、心を尽くして大切にお育てしてまいりました。われらの真心を、神子様はお忘れになっておられやしまいかと」
「忘れておりません」
「まことにございますか?」
「はい」
「われらが如何に神子様を敬い、大事にいたしてきたか、神子様がお忘れになっておられぬと知り、安心いたしました」
宮司が再度わざとらしく頭を下げ、ほかの二人もそれにならった。
それまでの手酷い仕打ちをなかったことにするかのように、平身低頭して退室する神職らを、雪千代は唖然とした表情で見送った。
それ以降、神職や出仕は、雪千代に手を出さなくなった。
出仕の中には、皮肉をいったり、わざとらしく卑猥な目で見る者もいたが、高位の神職らは、それまでの仕打ちが嘘のように、うやうやしく接してきた。
表面上は穏やかに過ぎていたが、雪千代の知らないところで、宮司をはじめとする神職らは話し合いに話し合いを重ねていた。
信長の要求に対して、雪千代は病だといって突っぱねればよい、という意見が多勢を占めてはいるが、万一、信長が強く出てきたらどうするかという問題には、いまだ結論は出ていない。
とりあえず、どちらに転んでもいいように、雪千代は大事に扱って機嫌をとっておこうということになった。
いままで散々なぶり倒し、折檻までした相手に、今さらなにをしたところで良い心証など持たれようもないのだが、そのへんは力ある者の驕りがある。
宮司らは、弟を失った雪千代にどれほど深く恨まれているか、その内面を慮ることはなかった。
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