上 下
45 / 53
第9章 再来

しおりを挟む
 翌朝、万見と湯浅は島を後にした。
 宮司を筆頭に、神職と出仕が総出で彼らを見送った。

 その日の午後、宮司と権宮司、最年長の禰宜の三名が、雁首そろえて雪千代の部屋にやってきた。

 彼らは、神子を上座にして、うやうやしく頭を垂れた。

「神子様」

 宮司は口を開いた。

「われらは神子様を敬い、大事にしてまいりました」

「……?」

「悪しき継母によって売られた神子様を、われらが人買いのもとから救い出し、心を尽くして大切にお育てしてまいりました。われらの真心を、神子様はお忘れになっておられやしまいかと」

「忘れておりません」

「まことにございますか?」

「はい」

「われらが如何に神子様を敬い、大事にいたしてきたか、神子様がお忘れになっておられぬと知り、安心いたしました」

 宮司が再度わざとらしく頭を下げ、ほかの二人もそれにならった。

 それまでの手酷い仕打ちをなかったことにするかのように、平身低頭して退室する神職らを、雪千代は唖然とした表情で見送った。

 それ以降、神職や出仕は、雪千代に手を出さなくなった。

 出仕の中には、皮肉をいったり、わざとらしく卑猥な目で見る者もいたが、高位の神職らは、それまでの仕打ちが嘘のように、うやうやしく接してきた。

 表面上は穏やかに過ぎていたが、雪千代の知らないところで、宮司をはじめとする神職らは話し合いに話し合いを重ねていた。

 信長の要求に対して、雪千代は病だといって突っぱねればよい、という意見が多勢を占めてはいるが、万一、信長が強く出てきたらどうするかという問題には、いまだ結論は出ていない。

 とりあえず、どちらに転んでもいいように、雪千代は大事に扱って機嫌をとっておこうということになった。

 いままで散々なぶり倒し、折檻までした相手に、今さらなにをしたところで良い心証など持たれようもないのだが、そのへんは力ある者の驕りがある。

 宮司らは、弟を失った雪千代にどれほど深く恨まれているか、その内面を慮ることはなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

禁断の祈祷室

土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。 アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。 それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。 救済のために神は神官を抱くのか。 それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。 神×神官の許された神秘的な夜の話。 ※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。

かとらり。
BL
 セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。  オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。  それは……重度の被虐趣味だ。  虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。  だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?  そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。  ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…

ガテンの処理事情

BL
高校中退で鳶の道に進まざるを得なかった近藤翔は先輩に揉まれながらものしあがり部下を5人抱える親方になった。 ある日までは部下からも信頼される家族から頼られる男だと信じていた。

処理中です...