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第9章 再来
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岐阜城の天主御殿にある信長公の居室で、堀秀政は主と対面していた。
「田畑はなく、二百名余の民が漁を生業としているほかは、これといった産業はないように見えました」
堀は玉宮神社のある姫島について、信長に説明していた。
「食糧をはじめとする生活に必要な物資は、本土からの輸入に依存しているようです」
「水路を断てば干上がるな」
信長はつぶやくように述べた。
「おそらく」
堀はうなずいた。
「水軍の規模は?」
「はっ、安宅船が一艘、関船が三艘、小早が十二艘ありました」
この時代の水軍は、大型で兵の居住拠点となる安宅船のほか、それよりは小型で速さを重視して作られた関船と、関船をさらに軽快にした小早船から構成されていた。
玉宮神社は、かつては朝廷、そして将軍家の庇護の下、栄華を誇った歴史がある。
室町幕府の下では、伊勢国司であり守護である北畠家の配下に組み入れられて、社領と周辺海域の権利を安堵されていた。
しかし、永禄十ニ年(一五六九年)、織田信長が北畠家に対して攻略を開始。
織田家の軍事力を前に、北畠側は和睦を模索。
その結果、信長の次男、織田信雄を北畠家の当主として養子に迎え入れるという、織田家にとって圧倒的に有利な条件で和議に至り、織田家による北畠家の事実上の乗っ取りに成功した。
しかし、玉宮神社は煮え切らない態度をとり、信長にも信雄にも使者のひとり、書状のひとつも送らなかった。
そのため、信長は堀を使者として島に送り、織田家に臣従する意思を確認した次第であった。
「本願寺や毛利とは通じていると思うか?」
信長は尋ねた。
毛利家は西国随一の大名で、本願寺顕如と手を組み、公然と織田家に敵対している。
室町幕府の第十五代将軍、足利義昭は、信長によって京を追放された後、毛利家を頼っている。
伊勢長島で猛威をふるう一向一揆勢と、それを扇動する本願寺顕如が、信長の目下の悩みの種であった。
「田畑はなく、二百名余の民が漁を生業としているほかは、これといった産業はないように見えました」
堀は玉宮神社のある姫島について、信長に説明していた。
「食糧をはじめとする生活に必要な物資は、本土からの輸入に依存しているようです」
「水路を断てば干上がるな」
信長はつぶやくように述べた。
「おそらく」
堀はうなずいた。
「水軍の規模は?」
「はっ、安宅船が一艘、関船が三艘、小早が十二艘ありました」
この時代の水軍は、大型で兵の居住拠点となる安宅船のほか、それよりは小型で速さを重視して作られた関船と、関船をさらに軽快にした小早船から構成されていた。
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しかし、永禄十ニ年(一五六九年)、織田信長が北畠家に対して攻略を開始。
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その結果、信長の次男、織田信雄を北畠家の当主として養子に迎え入れるという、織田家にとって圧倒的に有利な条件で和議に至り、織田家による北畠家の事実上の乗っ取りに成功した。
しかし、玉宮神社は煮え切らない態度をとり、信長にも信雄にも使者のひとり、書状のひとつも送らなかった。
そのため、信長は堀を使者として島に送り、織田家に臣従する意思を確認した次第であった。
「本願寺や毛利とは通じていると思うか?」
信長は尋ねた。
毛利家は西国随一の大名で、本願寺顕如と手を組み、公然と織田家に敵対している。
室町幕府の第十五代将軍、足利義昭は、信長によって京を追放された後、毛利家を頼っている。
伊勢長島で猛威をふるう一向一揆勢と、それを扇動する本願寺顕如が、信長の目下の悩みの種であった。
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