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第8章 魔王の使者
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翌朝、堀と矢部は社を後にした。
彼らを見送るために、宮司以下、全員の神職が奥宮の外に出てきた。
「世話になった。預かった文は、わが主にお渡しいたす」
「文にも書きもじましたが、われらは決して織田さまに敵対するつもりはありませぬ。何卒、上さまによろしゅうお伝えくださいませ」
「相わかった。その旨、それがしからも必ず上さまに言い添えよう」
「お心遣い、痛み入りまする」
宮司は深々と頭を下げた。
陰で田舎大名、成り上がりと罵ったところで、権力には逆らえない。
信長が神仏を恐れず、寺社勢力にも容赦ないのは、比叡山焼き討ちを見れば明らかである。
たとえ宮司として玉宮神社の頂点に君臨しても、時の権力者の、その使いの若造に頭を下げて、こびへつらわねばならないのが現実だった。
堀は威厳をもって一同を見まわした。
宮司の背後にいた雪千代に目をとめると、にこりと笑った。
雪千代はどぎまぎするが、堀は「では、失礼」と一礼すると、背を向けて歩きはじめた。
堀と矢部、そして供回りの小者らが、鳥居の下を通り過ぎて、山に飲みこまれていく。
彼らの姿が見えなくなると、神職らの間に張り詰めていた緊張がほぐれ、誰からともなく安堵の吐息がもれた。
「やれやれ、厄介払いできたわい」
宮司はほっと息を吐いた。
「あの若侍、神子様をいやらしい目で見ておりましたぞ」
権宮司は、ねっとりした目線を雪千代に向けた。
「神子様は文字どおり体を張って、あの侍を接待してくださったからのう」
宮司はにんまりと目を細める。
「どれ、今宵はしっぽりと皆々で神子様をお慰めして、労って差し上げねばならぬのう」
粘り気のある口調で言うと、まわりにいた神職らはニヤニヤと目を見合わせた。
彼らを見送るために、宮司以下、全員の神職が奥宮の外に出てきた。
「世話になった。預かった文は、わが主にお渡しいたす」
「文にも書きもじましたが、われらは決して織田さまに敵対するつもりはありませぬ。何卒、上さまによろしゅうお伝えくださいませ」
「相わかった。その旨、それがしからも必ず上さまに言い添えよう」
「お心遣い、痛み入りまする」
宮司は深々と頭を下げた。
陰で田舎大名、成り上がりと罵ったところで、権力には逆らえない。
信長が神仏を恐れず、寺社勢力にも容赦ないのは、比叡山焼き討ちを見れば明らかである。
たとえ宮司として玉宮神社の頂点に君臨しても、時の権力者の、その使いの若造に頭を下げて、こびへつらわねばならないのが現実だった。
堀は威厳をもって一同を見まわした。
宮司の背後にいた雪千代に目をとめると、にこりと笑った。
雪千代はどぎまぎするが、堀は「では、失礼」と一礼すると、背を向けて歩きはじめた。
堀と矢部、そして供回りの小者らが、鳥居の下を通り過ぎて、山に飲みこまれていく。
彼らの姿が見えなくなると、神職らの間に張り詰めていた緊張がほぐれ、誰からともなく安堵の吐息がもれた。
「やれやれ、厄介払いできたわい」
宮司はほっと息を吐いた。
「あの若侍、神子様をいやらしい目で見ておりましたぞ」
権宮司は、ねっとりした目線を雪千代に向けた。
「神子様は文字どおり体を張って、あの侍を接待してくださったからのう」
宮司はにんまりと目を細める。
「どれ、今宵はしっぽりと皆々で神子様をお慰めして、労って差し上げねばならぬのう」
粘り気のある口調で言うと、まわりにいた神職らはニヤニヤと目を見合わせた。
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