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第8章 魔王の使者
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堀らが宿泊しているのは、紅葉殿の中でもっとも美しいといわれる木瓜の庭を見渡すことのできる離れの棟で、渡り廊下で本館と繋がっていた。
風呂場での出来事の後で、雪千代は堀に嫌われたのではないか、避けられるのではないかと気を揉んだが、夕餉の膳をもって座敷に行くと、にこやかに迎えてくれた。
鯛、帆立、雲丹、蟹、烏賊などなど、海の珍味が三客の膳にあふれんばかりに並べられ、堀と矢部は上機嫌に舌鼓を打ったが、酒はすすめても飲まなかった。
宴が終わると、雪千代は一旦、自室に下がった。
寝衣に着替え、髪を整えると、まずは堀にあてがわれた寝所を訪ねた。
堀はひとりで碁を打っていたが、雪千代が来ると、「丁度よい」と言って対局に誘った。
「そなた、名はなんと申す?」
基盤を睨みつけて、堀は尋ねた。
「雪と申します」
「神子と聞いたが……この島で育ったのではなく、もともとは武家の出であろう?」
「……」
「言葉でわかる。身のこなしも。そなたは武家の子だ」
雪千代は返事に窮して目を伏せた。が、堀の着手を見て、思わず目を剥く。
「あ……」
「もらった」
堀はニヤリとして、指先で黒い石を取りあげた。
「参りました」
雪千代は負けを認めた。
「わざと負けたのではあるまいな?」
「まさか、いくら客人であろうと、さようなことはいたしませぬ」
二人はだいぶ打ち解けて、堀の部屋にはなごやかな時が流れた。
「今宵はここに泊まりなされ。矢部はもう休んでおるゆえ、気にしないでよい」
堀は褥の上にごろりと寝転んだ。
「はっ、失礼いたします」
雪千代は褥の手前で三つ指ついて頭を垂れると、堀の隣に横たわる。
腕を伸ばして、堀の寝衣の腰紐の結び目に触れようとすると、
「いや、よい」
堀は雪千代の手を上からつかみ、やさしく制した。
「儂と床を共にしないと、偉い人に怒られるのだろう?」
雪千代はハッとして堀を見つめた。
「図星か」堀も雪千代を見つめた。「儂は岐阜に帰れば妻と子がおる。そなたにはなにもしない。慣れぬ船旅で疲れたゆえ、儂はもう寝る。そなたも眠たくなったら寝るがよい」
堀は雪千代に背を向けると、衾を肩まで引き上げる。
しばらくすると、すやすやと規則正しい寝息が聞こえてきた。
雪千代は堀と同じ褥の中で、相手の体温を感じながら、そうっと頭を持ち上げて、若い武士の寝顔を見つめた。
風呂場での出来事の後で、雪千代は堀に嫌われたのではないか、避けられるのではないかと気を揉んだが、夕餉の膳をもって座敷に行くと、にこやかに迎えてくれた。
鯛、帆立、雲丹、蟹、烏賊などなど、海の珍味が三客の膳にあふれんばかりに並べられ、堀と矢部は上機嫌に舌鼓を打ったが、酒はすすめても飲まなかった。
宴が終わると、雪千代は一旦、自室に下がった。
寝衣に着替え、髪を整えると、まずは堀にあてがわれた寝所を訪ねた。
堀はひとりで碁を打っていたが、雪千代が来ると、「丁度よい」と言って対局に誘った。
「そなた、名はなんと申す?」
基盤を睨みつけて、堀は尋ねた。
「雪と申します」
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「……」
「言葉でわかる。身のこなしも。そなたは武家の子だ」
雪千代は返事に窮して目を伏せた。が、堀の着手を見て、思わず目を剥く。
「あ……」
「もらった」
堀はニヤリとして、指先で黒い石を取りあげた。
「参りました」
雪千代は負けを認めた。
「わざと負けたのではあるまいな?」
「まさか、いくら客人であろうと、さようなことはいたしませぬ」
二人はだいぶ打ち解けて、堀の部屋にはなごやかな時が流れた。
「今宵はここに泊まりなされ。矢部はもう休んでおるゆえ、気にしないでよい」
堀は褥の上にごろりと寝転んだ。
「はっ、失礼いたします」
雪千代は褥の手前で三つ指ついて頭を垂れると、堀の隣に横たわる。
腕を伸ばして、堀の寝衣の腰紐の結び目に触れようとすると、
「いや、よい」
堀は雪千代の手を上からつかみ、やさしく制した。
「儂と床を共にしないと、偉い人に怒られるのだろう?」
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「図星か」堀も雪千代を見つめた。「儂は岐阜に帰れば妻と子がおる。そなたにはなにもしない。慣れぬ船旅で疲れたゆえ、儂はもう寝る。そなたも眠たくなったら寝るがよい」
堀は雪千代に背を向けると、衾を肩まで引き上げる。
しばらくすると、すやすやと規則正しい寝息が聞こえてきた。
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