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第4章 肺病

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「鶴、こんなところに!」

 雪千代は中に駆け込むと、寝具の傍らに膝をつき、弟の顔を覗き込む。

「あに、うえ……」

「鶴……」

 それ以上、雪千代は言葉が出なかった。

 昼間でも日の当たらない小屋の中は真冬のように寒く、冷たい土間にむしろを敷き、その上に置かれた褥に、鶴千代は寝かされていた。

 後から小屋に入ってきた高浜を、雪千代はにらみつけた。

「よくも病人をこんなところに……」

 その目に怒りが滾る。

「これが貴様らの『神子様』への仕打ちか! これが神に仕える神職らのやり方なのか!」

「私も反対したのですが……」

 高浜は罰悪そうにうつむいた。

「薬師が、神子様は流行り病だと言い、皆々に病のもとになる悪い気を吸い込まないようにと忠告したところ、皆、病をうつされるのを恐れて、鶴神子様をこんなところに……」

「わたくしは……だいじょうぶ……」

 鶴千代は弱々しく口を挟んだ。
 高熱のせいで頬は赤く、大きな目がうるんでいる。

「もう……もとめられないから……からだは、らくなのです……だから、しんぱい……しないで……」

 男たちに陵辱される苦痛に比べれば、この小屋の寒さや病の苦しさのほうがマシだと言いたいのだろう。

「鶴」

 雪千代は両手で弟の手を握りしめた。

「私はなにをすればよい? なにをしてほしい? なんでもいいから申せ」

「鶴神子様のことは私が注意して見ています。神子様の扱いを良くするよう、薬師に皆を説得していただけるように、今後も折りを見て話していきます」

 高浜も胸を痛めていると知って、責める気は失せた。

「鶴、食べたいものはあるか?」

「いいえ……ただ、あにうえが……そばにいてくだされば……うれしい……」

「そばにいる。これからは可能なかぎりそばにいよう」

 雪千代はぐっと涙をこらえた。

 しかし、そういつまでも、そばにいることは出来なかった。

 紅葉殿から、雪千代に早く帰ってくるようにとの使者が来て、後ろ髪を引かれつつ、小屋を後にした。

 館に戻ると、午前の勤めを終えた出仕らが、雪千代の帰りを待ちわびて苛立っていた。

「神子様、どこに行っておられたのですか? 皆が待っています」

 屈強な者に腕をつかまれて、半ば引きずられるように布団部屋に連れて行かれる。

「神子様、神子様!」

 幾本もの腕が伸びてきて、狩衣を、袴を、小袖、肌着を脱がされ、下帯も剥ぎ取られる。

 男たちに胸を、股間を、臀部をまさぐられ、両手に硬くなった男根を握らされ、口腔を侵される。

 ──もう嫌だ!

 その叫びは言葉にならなかった。

「ぐえ──っ!」

 気道を塞いだ亀頭が喉奥を突き上げ、激しくえずいても吐き出すことも許されない苦しみに涙がこぼれた。
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