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第4章 肺病
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夏が終わり、短い秋が通り過ぎていくのは、あっという間だった。
「うう、冷えるな」
雪千代はひとりごち、みずからの手にほおっとぬくい息を吐いた。
いつものように奥宮の庭を横切り、松葉殿に向かった。
この島に来てから、鶴千代は病がちであったが、ここ数日、急に調子を崩し、熱を出して臥せっていると聞いている。
心配で、雪千代の足は自然と速くなった。
雪千代を出迎えた松葉殿の出仕は、いつもと様子が違った。
「鶴神子様はご容態が悪く、ご面会はかないませぬ」
「容態が悪い?」
「はい、本日はお引き取りくださいませ」
「待て!」
出仕の背中を雪千代は呼び止める。
「鶴に会うまで私は帰らぬぞ」
「し、しかし……」
「帰らぬと言ったら帰らぬ」
騒ぎを聞きつけて、数人の出仕が集まってきた。
その中に、鶴千代の世話をしている高浜の顔があった。
「高浜、どういうことだ?」
「……こちらに」
高浜に促され、雪千代は玄関の外に出た。
「鶴の病は重いのか?」
「ここ数日、朝晩冷え込むようになってから、ご不調が続いておられましたが……」
雪千代は高浜とならんで、ぐるりと建物の裏手にまわる小路を歩いた。
「薬師の見立てによると、労咳とのことです」
「労咳……」
それは肺結核のことで、抗生物質のない時代、不治の病としておそれられていた。
高浜について行くうちに、雪千代はいつの間にか、松葉殿の北側にある厨房の裏側に来ていることに気づいた。
こんなところに来るのは初めてだった。
「こちらに」
案内されたのは、小さな薪小屋だった。
不審に思い、雪千代は足を止めて、高浜の顔を見つめる。
高浜は小屋の引き戸を開けて、もう一度、「どうぞ」と促した。
雪千代は警戒しながら、おそるおそる中を覗き込んだ。
「鶴!」
小屋の中に保管されている薪を掻き分けて作られた空間。
そこに鶴千代は横たわっていた。
「うう、冷えるな」
雪千代はひとりごち、みずからの手にほおっとぬくい息を吐いた。
いつものように奥宮の庭を横切り、松葉殿に向かった。
この島に来てから、鶴千代は病がちであったが、ここ数日、急に調子を崩し、熱を出して臥せっていると聞いている。
心配で、雪千代の足は自然と速くなった。
雪千代を出迎えた松葉殿の出仕は、いつもと様子が違った。
「鶴神子様はご容態が悪く、ご面会はかないませぬ」
「容態が悪い?」
「はい、本日はお引き取りくださいませ」
「待て!」
出仕の背中を雪千代は呼び止める。
「鶴に会うまで私は帰らぬぞ」
「し、しかし……」
「帰らぬと言ったら帰らぬ」
騒ぎを聞きつけて、数人の出仕が集まってきた。
その中に、鶴千代の世話をしている高浜の顔があった。
「高浜、どういうことだ?」
「……こちらに」
高浜に促され、雪千代は玄関の外に出た。
「鶴の病は重いのか?」
「ここ数日、朝晩冷え込むようになってから、ご不調が続いておられましたが……」
雪千代は高浜とならんで、ぐるりと建物の裏手にまわる小路を歩いた。
「薬師の見立てによると、労咳とのことです」
「労咳……」
それは肺結核のことで、抗生物質のない時代、不治の病としておそれられていた。
高浜について行くうちに、雪千代はいつの間にか、松葉殿の北側にある厨房の裏側に来ていることに気づいた。
こんなところに来るのは初めてだった。
「こちらに」
案内されたのは、小さな薪小屋だった。
不審に思い、雪千代は足を止めて、高浜の顔を見つめる。
高浜は小屋の引き戸を開けて、もう一度、「どうぞ」と促した。
雪千代は警戒しながら、おそるおそる中を覗き込んだ。
「鶴!」
小屋の中に保管されている薪を掻き分けて作られた空間。
そこに鶴千代は横たわっていた。
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