17 / 53
第3章 淫欲の島
5
しおりを挟む
松葉殿の頂点は権宮司で、紅葉殿より若干、人的規模は小さいものの、鶴千代も兄と同じような暴行陵辱に曝されていた。
まだ数え年で十一歳の鶴千代には酷すぎる日々に、またたく間に体は衰弱し、病がちになった。
医師の手当てや薬で一時的に回復しても、しばらくすると、また床に臥せってしまう。
雪千代が訪ねると、笑顔を見せるときもあるが、その目は虚ろで、以前のような鷹揚とした無邪気さは失われていた。
梅雨が明けると、いきなり太陽が近くに来たように日差しが強くなった。
雪千代はスイカが手に入ったので、鶴千代に食べさせてやろうと松葉殿を訪ねた。
兄弟は、故郷の家にいた頃のように、濡れ縁に並んで座り、スイカをかじった。
鶴千代は、しばらくは楽しげに笑っていたが、半分ほど食べたところで、スイカを手にしたままうつむいた。
「どうした、食べないのか?」
雪千代の問いかけに、
「柳原の村は、変わりないかのう?」
弟は、ひとりごとのようにつぶやいた。
「柳原の村か……」
雪千代は遠い空を見た。
海の向こうの本土では、織田信長が、第十五代将軍である足利義昭を京から追放し、室町幕府は事実上の滅亡を迎えた。
信長は、己が唯一の「天下人」となったことを誇示するために、朝廷に働きかけて、元号を元亀から天正に改めさせたという報せは、この島にも届いている。
「帰りたいな……」
鶴千代はつぶやいた。
まだ数え年で十一歳の鶴千代には酷すぎる日々に、またたく間に体は衰弱し、病がちになった。
医師の手当てや薬で一時的に回復しても、しばらくすると、また床に臥せってしまう。
雪千代が訪ねると、笑顔を見せるときもあるが、その目は虚ろで、以前のような鷹揚とした無邪気さは失われていた。
梅雨が明けると、いきなり太陽が近くに来たように日差しが強くなった。
雪千代はスイカが手に入ったので、鶴千代に食べさせてやろうと松葉殿を訪ねた。
兄弟は、故郷の家にいた頃のように、濡れ縁に並んで座り、スイカをかじった。
鶴千代は、しばらくは楽しげに笑っていたが、半分ほど食べたところで、スイカを手にしたままうつむいた。
「どうした、食べないのか?」
雪千代の問いかけに、
「柳原の村は、変わりないかのう?」
弟は、ひとりごとのようにつぶやいた。
「柳原の村か……」
雪千代は遠い空を見た。
海の向こうの本土では、織田信長が、第十五代将軍である足利義昭を京から追放し、室町幕府は事実上の滅亡を迎えた。
信長は、己が唯一の「天下人」となったことを誇示するために、朝廷に働きかけて、元号を元亀から天正に改めさせたという報せは、この島にも届いている。
「帰りたいな……」
鶴千代はつぶやいた。
3
お気に入りに追加
104
あなたにおすすめの小説



サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。




ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる