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第2章 神子
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「神子様、おはようございます」
立浪は声をかけると、障子を開けた。
雪千代はハッと飛び起きる。
立浪を見る目は、泣き腫らしたように重たげだ。
「もうお昼でございます」
昨夜の儀式は、日の出まで続いた。
終了後、立浪は、ぐったりした雪千代を抱きかかえて、この部屋に連れて帰り、褥に寝かせて介抱した。
「鶴は?」
「鶴神子さまは松葉殿におられます」
「しょうようでん?」
「ここは紅葉殿といい、宮司の四淵さまがお住まいの館です。松葉殿は、権宮司の力臣さまがお住まいになられています」
神職の階級は高い順に、宮司、権宮司、禰宜、そして最下位の権禰宜からなっている。
この社には、宮司と権宮司は一人ずつ、禰宜は八名、権禰宜は四十名以上いた。
「紫色の袴を着けているのは宮司と権宮司、浅葱色に白紋の袴は禰宜、浅葱色に無紋の袴は権禰宜です」
立浪は簡単な見分け方を教えた。
「私は神職としての位を持たぬ出仕です。本日より正式に神子様のお世話を務めさせていただきます」
「……よろしゅうお願いします」
雪千代は礼儀正しく挨拶をした。
「さあ、神子様、湯浴みをなされませ」
立浪に手伝われて、雪千代は湯殿で体を洗い、柘榴の皮を粉にしたもので肌を磨いた。
「こうすると肌のきめがこまかくなり、肌触りがよくなるといわれております」
雪千代の背中を、柘榴の皮を詰めた小袋で撫でながら、立浪は説明した。
体を清めると、赤い袴に白い狩衣を着けて、髪を稚児髷に結い、目尻とくちびるに紅をさした。
「神子様、お支度が終わりました」
雪千代は色が白く、目鼻立ちが整っているせいで、こんなふうに髪を結って化粧をすると、美少女と見まごうばかりだった。
これからは神子として、女人禁制の島の神職らの欲望のはけ口として、かような身なりをして生きていかねばならない。
「宮司様にご挨拶を」
立浪に促され、雪千代は宮司の居室に向かった。
立浪は声をかけると、障子を開けた。
雪千代はハッと飛び起きる。
立浪を見る目は、泣き腫らしたように重たげだ。
「もうお昼でございます」
昨夜の儀式は、日の出まで続いた。
終了後、立浪は、ぐったりした雪千代を抱きかかえて、この部屋に連れて帰り、褥に寝かせて介抱した。
「鶴は?」
「鶴神子さまは松葉殿におられます」
「しょうようでん?」
「ここは紅葉殿といい、宮司の四淵さまがお住まいの館です。松葉殿は、権宮司の力臣さまがお住まいになられています」
神職の階級は高い順に、宮司、権宮司、禰宜、そして最下位の権禰宜からなっている。
この社には、宮司と権宮司は一人ずつ、禰宜は八名、権禰宜は四十名以上いた。
「紫色の袴を着けているのは宮司と権宮司、浅葱色に白紋の袴は禰宜、浅葱色に無紋の袴は権禰宜です」
立浪は簡単な見分け方を教えた。
「私は神職としての位を持たぬ出仕です。本日より正式に神子様のお世話を務めさせていただきます」
「……よろしゅうお願いします」
雪千代は礼儀正しく挨拶をした。
「さあ、神子様、湯浴みをなされませ」
立浪に手伝われて、雪千代は湯殿で体を洗い、柘榴の皮を粉にしたもので肌を磨いた。
「こうすると肌のきめがこまかくなり、肌触りがよくなるといわれております」
雪千代の背中を、柘榴の皮を詰めた小袋で撫でながら、立浪は説明した。
体を清めると、赤い袴に白い狩衣を着けて、髪を稚児髷に結い、目尻とくちびるに紅をさした。
「神子様、お支度が終わりました」
雪千代は色が白く、目鼻立ちが整っているせいで、こんなふうに髪を結って化粧をすると、美少女と見まごうばかりだった。
これからは神子として、女人禁制の島の神職らの欲望のはけ口として、かような身なりをして生きていかねばならない。
「宮司様にご挨拶を」
立浪に促され、雪千代は宮司の居室に向かった。
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