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第1章 秘儀
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日が暮れると、その儀式は始まった。
少年の体に神を降ろし、その少年は神子として信仰の対象となる。
門外不出の秘儀は明文化されることなく、この社に仕える神職らの目と耳をもって継承されてきた。
あちこちに松明がともり、奥宮──本殿や拝殿からなる社の中枢となる施設──は夏の夕方のように明るかった。
「高天原に神留坐す──」
最高位の宮司から見習いの出仕まで、百人余の男たちが拝殿に集まり、全員で天津祝詞を斉唱する。
権禰宜と呼ばれる浅葱色の袴を着けた神職らに手を引かれ、奥宮に雪千代と鶴千代が姿をあらわした。
ふたりとも純白の狩衣に身を包み、髪は稚児髷──頭頂部に束ねた髪を二つの輪の形にする髪型──に結い、顔は白粉と紅で化粧をしている。
ゆらめく松明のあかりの下、権禰宜らに連れられてくる白装束の兄弟は、天女のように儚いものに見えた。
「筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原に──」
拝殿では、宮司を筆頭に、その補佐を務める権宮司、その下の位にある禰宜、神職としては最下位の権禰宜、そして見習いの出仕が勢揃いして、おごそかに祝詞を唱えながら、今宵の主役の登場を待っている。
権禰宜らに導かれて昇殿した雪千代と鶴千代は、しずしずと拝殿の奥へと進み出た。
そこには二つの祭壇が用意され、兄弟はひとりずつ、それぞれの祭壇の前に立った。
腹を据えたように正面を見据える雪千代と、不安げに目を泳がせる鶴千代。
「──惟神霊幸倍坐世、惟神霊幸倍坐世」
祝詞の合唱が止んだ。
拝殿は、張り詰めた静寂に包まれた。
少年の体に神を降ろし、その少年は神子として信仰の対象となる。
門外不出の秘儀は明文化されることなく、この社に仕える神職らの目と耳をもって継承されてきた。
あちこちに松明がともり、奥宮──本殿や拝殿からなる社の中枢となる施設──は夏の夕方のように明るかった。
「高天原に神留坐す──」
最高位の宮司から見習いの出仕まで、百人余の男たちが拝殿に集まり、全員で天津祝詞を斉唱する。
権禰宜と呼ばれる浅葱色の袴を着けた神職らに手を引かれ、奥宮に雪千代と鶴千代が姿をあらわした。
ふたりとも純白の狩衣に身を包み、髪は稚児髷──頭頂部に束ねた髪を二つの輪の形にする髪型──に結い、顔は白粉と紅で化粧をしている。
ゆらめく松明のあかりの下、権禰宜らに連れられてくる白装束の兄弟は、天女のように儚いものに見えた。
「筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原に──」
拝殿では、宮司を筆頭に、その補佐を務める権宮司、その下の位にある禰宜、神職としては最下位の権禰宜、そして見習いの出仕が勢揃いして、おごそかに祝詞を唱えながら、今宵の主役の登場を待っている。
権禰宜らに導かれて昇殿した雪千代と鶴千代は、しずしずと拝殿の奥へと進み出た。
そこには二つの祭壇が用意され、兄弟はひとりずつ、それぞれの祭壇の前に立った。
腹を据えたように正面を見据える雪千代と、不安げに目を泳がせる鶴千代。
「──惟神霊幸倍坐世、惟神霊幸倍坐世」
祝詞の合唱が止んだ。
拝殿は、張り詰めた静寂に包まれた。
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