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第19章 飯田欣栄
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結論から言うと、書状は町奉行に読んでもらえた。
庭で書状を拾った下女が上女中に渡し、上女中が女中頭に渡し、女中頭が小姓に渡し、書状を読んだ小姓が、これは看過できないと判断して、彼の主人に進上した。
しかし、大きな問題があった。
本来ならば、町奉行の手足となって働くはずの与力同心が、大黒屋に鼻薬を嗅がされ手懐けられている。
そこで町奉行は、与力同心を一堂に集めると、これは大黒屋を裁くためではなく、「お代官様」と呼ばれる、おそらくは高位の武士の罪を暴くための捜査である旨を宣言した。
その上で、大黒屋の接待を受けているか否かは不問に付す、ただし、捜査に協力しなかったり、妨害するようなら、老中に相談し、相応の沙汰を下すと告げた。
これは、町奉行にとって奥の手の中の最奥の手であり、ひとつ間違えれば返す刀で自身の立場を危うくする賭けであった。
しかし、与力同心も、自分の身が一番かわいい。
家禄や役職、幕臣としての身分を失うのは、何としても避けたかった。
彼らは大黒屋から受けた接待や収賄は不問に付すとの条件を飲んで、ある者はあっさりと、ある者は苦渋の末に大黒屋を見捨てた。
「お代官様」の正体は、座間左近尉という幕府の旗本だった。
座間の娘は御中臈として大奥に上がり、大奥総取締役の御年寄にかわいがられていることから、その口利きで大黒屋に便宜を図り、大奥御用商人としての認可を与えた。
大黒屋は、大奥の御女中をお得意様として大稼ぎして、その御礼として継続的に座間に賄賂を贈っていることがわかった。
お雪を助け出すことを重視した町奉行は機転をきかせて、「お代官様」について洗いざらい話すことと、お雪の身柄を解放することを条件に、大黒屋を罪には問わず放免とした。
座間左近は、大黒屋が取り調べを受けたものの不問に付されたと知ると、そこに何らかの取り引きがあり、己の身に捕物の手が伸びると察したようだ。
そして、縄を打たれるのは恥として、自邸の仏間で自刃した。
尚、この一件には後日談がある。
座間への贈賄については不問となった大黒屋ではあるが、大奥の出入り商としての認可は取り消され、商いは大きく傾いた。
やがて、店は潰れ、一家離散、大黒屋久兵衛は行方知れずとなった。
風の噂によると、借金取りに追われ路頭に迷った大黒屋は、川に身を投げたと言われている。
川上屋には奉行所による手入れが入り、見せしめとして亭主は縄を打たれて小伝馬町牢屋敷に収監、蔭間たちは自由の身になった。
町奉行による吟味の末、川上屋権兵衛は前科者である印としての入れ墨と、牢屋敷門前の刑場にて見物人がごった返す前で百敲にされた上、江戸十里四方所払いを言い渡された。
庭で書状を拾った下女が上女中に渡し、上女中が女中頭に渡し、女中頭が小姓に渡し、書状を読んだ小姓が、これは看過できないと判断して、彼の主人に進上した。
しかし、大きな問題があった。
本来ならば、町奉行の手足となって働くはずの与力同心が、大黒屋に鼻薬を嗅がされ手懐けられている。
そこで町奉行は、与力同心を一堂に集めると、これは大黒屋を裁くためではなく、「お代官様」と呼ばれる、おそらくは高位の武士の罪を暴くための捜査である旨を宣言した。
その上で、大黒屋の接待を受けているか否かは不問に付す、ただし、捜査に協力しなかったり、妨害するようなら、老中に相談し、相応の沙汰を下すと告げた。
これは、町奉行にとって奥の手の中の最奥の手であり、ひとつ間違えれば返す刀で自身の立場を危うくする賭けであった。
しかし、与力同心も、自分の身が一番かわいい。
家禄や役職、幕臣としての身分を失うのは、何としても避けたかった。
彼らは大黒屋から受けた接待や収賄は不問に付すとの条件を飲んで、ある者はあっさりと、ある者は苦渋の末に大黒屋を見捨てた。
「お代官様」の正体は、座間左近尉という幕府の旗本だった。
座間の娘は御中臈として大奥に上がり、大奥総取締役の御年寄にかわいがられていることから、その口利きで大黒屋に便宜を図り、大奥御用商人としての認可を与えた。
大黒屋は、大奥の御女中をお得意様として大稼ぎして、その御礼として継続的に座間に賄賂を贈っていることがわかった。
お雪を助け出すことを重視した町奉行は機転をきかせて、「お代官様」について洗いざらい話すことと、お雪の身柄を解放することを条件に、大黒屋を罪には問わず放免とした。
座間左近は、大黒屋が取り調べを受けたものの不問に付されたと知ると、そこに何らかの取り引きがあり、己の身に捕物の手が伸びると察したようだ。
そして、縄を打たれるのは恥として、自邸の仏間で自刃した。
尚、この一件には後日談がある。
座間への贈賄については不問となった大黒屋ではあるが、大奥の出入り商としての認可は取り消され、商いは大きく傾いた。
やがて、店は潰れ、一家離散、大黒屋久兵衛は行方知れずとなった。
風の噂によると、借金取りに追われ路頭に迷った大黒屋は、川に身を投げたと言われている。
川上屋には奉行所による手入れが入り、見せしめとして亭主は縄を打たれて小伝馬町牢屋敷に収監、蔭間たちは自由の身になった。
町奉行による吟味の末、川上屋権兵衛は前科者である印としての入れ墨と、牢屋敷門前の刑場にて見物人がごった返す前で百敲にされた上、江戸十里四方所払いを言い渡された。
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