色地獄 〜会津藩士の美少年が男娼に身を落として〜 18禁 BL時代小説【完結】

第19章 飯田欣栄

４

　飯田欣栄の予感は当たった。

　まず、彼は奉行所で行われる裁きの判例について調べた。

　この時代、放火は死罪であり、罪人は市中引き回しの上、生きながらにして火あぶりにされるという、極めて苛烈な惨刑に処された。

　死罪が適応される罪を犯した下手人が女性の場合、死一等を減じて一段階軽い罰が言い渡されるのが慣例となっていたが、放火だけは例外で、たとえ十五歳の少女でも火刑は免れなかった。

　しかし、下手人が遊女となると、話は違った。

　吉原の遊女のほとんどが、赤貧のため、親や家族のために売られてきて、足抜けすれば見せしめとして折檻されたり、水責めのような拷問にかけられることは、奉行所も承知している。

　そのため、あまりに辛すぎる境遇に耐えきれず、絶望したり、自暴自棄になった遊女が、郭を焼いて自身も焼け死んでも構わないと火をつけた場合、情状酌量の余地があるとして、火あぶりを免ずるばかりか、死罪を減じて、島流しを言い渡す事例がほとんどだった。

　町奉行は、遊女らに対しては、親を助けるために苦界に売られて来た孝行娘として、大いに同情を示す反面、楼主のことは忘八ぼうはちとして軽視する傾向があった。

　忘八とは、人が持つとされる八つの徳──仁、義、礼、智、忠、信、孝、悌のすべてを失った者という意味があり、女衒や遊女屋を指す蔑称である。

　以上のことを踏まえると、町奉行は、お雪の身上と、彼が置かれている恐ろしい境遇を知れば、少しは気にかけてくれるのではないかと欣栄は期待した。

　そこに幕臣であろう高位の武士が絡んでいるとすれば、町奉行が関心を寄せぬわけがない。

　そこで、投げ文という手段に訴えた。

　奉行所に訴えるのではなく、町奉行の住む私邸の庭に、塀の外から書状を投げ込んだのである。

　その書状を拾うのは、家臣か使用人であろう。　

　拾われた書状は、果たして町奉行のもとに届けられるのか、それともゴミとして捨てられるのか。

　町奉行の手元に届いたとしても、はたして目を通してもらえるのか。

　運を天に委ねるしかなく、なんとも歯がゆい手段ではあるが、欣栄、蔵人、そして仙千代は、何もしないで座視しているよりかはマシであると自分に言い聞かせ、神仏に祈るしかなかった。