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第18章 脱出

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「ほら、行くぞ」

 見張り役の男たちは、仙千代の体を支えて立ち上がらせると、部屋を後にした。

 廊下に明かりはなく、真っ暗だった。

 行燈は置かれているものの、大黒屋は油代がもったいないと言って、客人が帰ったらすぐに明かりを消すようにと、女中や下男らに口うるさく言いつけているためだ。

 大黒屋が営む呉服屋は、江戸でその名を知らぬ者はいない大店おおだなである。

 当然ながら銭金をたんまり貯込んでおり、大金を積んで見目の良い若衆を身請けするなど、お楽しみには貪欲な反面、小銭を惜しむ吝嗇家としての一面もあった。

 行燈油をケチケチ節約するのは、その最たる例である。

 見張り役の一人が持っている燭台に火をいれて、皆の足もとを照らした。

 仙千代は、もつれる足で廊下を進み、厠に向かった。

 寝衣は羽織っているものの寝乱れて皺くちゃになり、日中、髪結いの手によって当代風に結い上げた髪はすっかり乱れて、落ちた髪の毛が汗で頬や首に貼り付いている。

 何事もなかったようにスタスタと出て行った大黒屋とは対照的に、仙千代は見るからに疲労困憊して、酷いありざまだった。

 足腰に力が入らないため、厠では便所を跨いだ姿勢を自力で維持することが出来ずに、男たちに支えてもらって用を足した。

「腹に力を入れて、子種をひりだせ」

 燭台を手にした男は、仙千代の尻がよく見えるように明かりをかざした。

 放屁するような破裂音の後、盛り上がった蕾がびちびちと湿った音を立てて、後門から精液が出てくる。

 男たちは目引き袖引き失笑した。

「惨めなもんだなぁ」

 一人が呟くと、

「こんな無様な姿を知ると、銭を払って蔭間遊びをする気が失せるぜ」

 他の男が答えて、もう一人の男もうなずいた。

 彼らは仙千代の尻を拭いてやると、その腕をつかんで立たせ、厠から引っ張り出した。

 見張り役たちの仙千代に対する扱いは、日が経つにつれて手荒になっていた。

 彼らの雇い主である大黒屋がそうなのだから、使用人の間でも仙千代の価値は目減りして、今や遠慮することなく嘲りを向けてよい存在になっている。

 かつては川上屋で一番の売れっ子で、江戸で一番の美貌と謳われていたお雪が、大黒屋の屋敷に来てから瞬く間に転がり落ちた道を、仙千代も少しずつ歩もうとしていた。

「まあ、こいつは顔は良いから、タダならやりたい男はいるんじゃないか?」

「タダならな」

 男たちは今度は低い笑い声を漏らした。

 蔵人だけは、笑わなかった。

「おぬしは嫌いなのか?」

 最年長の男が蔵人に訊いた。

「何がだ?」

 蔵人は仏頂面にも見える無表情を、訊ねてきた男に向けた。

「蔭間遊びよ」

「蔭間は嫌いではないが、お前たちは嫌いだ」

 そう答えるや否や、いきなり太刀を抜くと一刀で最年長の男を叩き斬り、返す刀でもう一人を斬った。

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