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第12章 大黒屋久兵衛
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長谷川蔵人が三浦屋で用心棒を始めて、一月が過ぎようとしていた。
その間、何回か仙千代を見かけた。
揚げ屋の使用人が、蔭間に声をかけることは禁じられている。
そのため、金剛に連れられて玄関から中に入っていく仙千代の姿を、蔵人は離れた物陰から見守るだけだった。
仙千代は蔵人に気づいていなかったが、そうやって仙千代の姿を見られて、元気でいることがわかれば、それで満足だった。
三浦屋に仙千代を呼び出しているのは、一見客を除けば、大黒屋久兵衛という、日本橋にある呉服問屋の大旦那だった。
大黒屋久兵衛は、名の通った豪商でありながら、よからぬ評判が立っていた。
噂によると、彼は芳町のほとんどの蔭間茶屋に出入り禁止をくらっており、彼に蔭間を貸し出すのは、川上屋しかないようである。
蔵人は、大黒屋久兵衛に興味を持った。
ある日、三浦屋から帰る久兵衛の乗った駕籠の後をこっそりつけて行くと、着いた先は、日本橋の商店を兼ねた自宅ではなく、人形町にある別邸らしき屋敷だった。
──妾でも囲っているのだろうか。
蔵人は、大黒屋久兵衛には、妻子にも隠している秘事があるに違いないと直感した。
それから毎日、蔵人は三浦屋で働く時間以外は、人形町の屋敷を見張ることにした。
すぐに、奇妙なことに気づいた。
奉行所の与力同心の連中が、ほぼ毎日のように、大黒屋の屋敷に出入りしているのだ。
顔ぶれはいつも異なっているものの、多い日は十人以上の同心が、徒党を組んで屋敷を訪れることもあった。
また、ある時は、それなりに身分のある武士が乗っているのであろう駕籠が、供回りの家臣や小者らを連れて門の中に入って行くのを見た。
この屋敷には、なにか大きな秘密があるに違いない。
蔵人は新月の夜を待って、闇にまぎれて屋敷の塀をよじのぼると、屋根裏に忍び込んだ。
その間、何回か仙千代を見かけた。
揚げ屋の使用人が、蔭間に声をかけることは禁じられている。
そのため、金剛に連れられて玄関から中に入っていく仙千代の姿を、蔵人は離れた物陰から見守るだけだった。
仙千代は蔵人に気づいていなかったが、そうやって仙千代の姿を見られて、元気でいることがわかれば、それで満足だった。
三浦屋に仙千代を呼び出しているのは、一見客を除けば、大黒屋久兵衛という、日本橋にある呉服問屋の大旦那だった。
大黒屋久兵衛は、名の通った豪商でありながら、よからぬ評判が立っていた。
噂によると、彼は芳町のほとんどの蔭間茶屋に出入り禁止をくらっており、彼に蔭間を貸し出すのは、川上屋しかないようである。
蔵人は、大黒屋久兵衛に興味を持った。
ある日、三浦屋から帰る久兵衛の乗った駕籠の後をこっそりつけて行くと、着いた先は、日本橋の商店を兼ねた自宅ではなく、人形町にある別邸らしき屋敷だった。
──妾でも囲っているのだろうか。
蔵人は、大黒屋久兵衛には、妻子にも隠している秘事があるに違いないと直感した。
それから毎日、蔵人は三浦屋で働く時間以外は、人形町の屋敷を見張ることにした。
すぐに、奇妙なことに気づいた。
奉行所の与力同心の連中が、ほぼ毎日のように、大黒屋の屋敷に出入りしているのだ。
顔ぶれはいつも異なっているものの、多い日は十人以上の同心が、徒党を組んで屋敷を訪れることもあった。
また、ある時は、それなりに身分のある武士が乗っているのであろう駕籠が、供回りの家臣や小者らを連れて門の中に入って行くのを見た。
この屋敷には、なにか大きな秘密があるに違いない。
蔵人は新月の夜を待って、闇にまぎれて屋敷の塀をよじのぼると、屋根裏に忍び込んだ。
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