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第11章 虐待

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「お仙ちゃん、揚げ屋からお呼び出しですよ」

 仙千代が店に出た早々、佐吉に声をかけられた。

「また、あいつ?」

 思わずあとずさり、柱をつかむ仙千代に、

「いや、べつのお客さんです」

 佐吉はなにくわぬ顔で返事をして、出かけるように促した。

 仙千代は編笠を持ち、店を後にした。

 蔭間を揚げ屋に呼び出すと、揚げ代のほかにも「ご祝儀」といって、蔭間本人には無論、お付きの金剛、揚げ屋の女将や仲居らにも心付けを払い、さらにお座敷代や料理代、酒代などがかかる。

 富裕層だけに許される、贅を尽くした遊びだった。

 蔭間にとっては、揚げ屋に呼ばれれば、その日は他の客を取らないで済む。

 なので、揚げ屋に通う金持ち客に常連になってもらおうと、あらゆる手管や床技を駆使して、客に気に入られようとするのが常である。

 しかし、仙千代の場合、いままで揚げ屋に呼ばれたのは一度だけで、それも目隠しをして拷問まがいのことをする嫌な客だったので、気分は重かった。

 川上屋の亭主は、仙千代の買値が高くついたことと、武家の子だから体が丈夫だろうという前提で、ほかの蔭間が嫌がるような行為をする客に、割高な料金で仙千代を斡旋し、たっぷり稼いでもらおうと企んでいた。

 そのことは、無論、佐吉も先刻承知である。

 仙千代本人だけ、なにも知らされず、どんな客なのだろうか、痛いことをされないだろうかと不安を抱えて、揚げ屋への道を進む。

 蔭間たちが嫌がる客の中には、芳町の他の蔭間茶屋には出入り禁止になっている者もいて、金さえ出せば客を選ばない川上屋は、芳町の同業者の間では、ひそかに「汲み取り屋」などと囁かれていた。
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