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第10章 三浦屋
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蔵人は、三浦屋で勤めはじめた。
いわゆる「揚げ屋」と呼ばれる料理茶屋で、もっぱら裕福な客が蔭間を呼んで遊ぶ目的で利用されている店だった。
色街にある酒の場であることから、蔵人のほかにも、腕の立つ用心棒が何人も雇われていた。
彼らの仕事は、酒に酔って乱暴狼藉を働く客を追い出したり、無銭飲食をした輩をこらしめたりすることだった。
江戸には南町奉行所があり、町民の間で起きた係争を裁いているが、芳町のような色街は奉行所の管轄外だ。
幕府は、風紀を乱すとして、少年売春そのものを禁止している。
芳町の蔭間茶屋にも定期的に町方与力の手入れがあり、手入れのあった直後はおとなしくしているものの、しばらくしてほとぼりが冷めると、また大っぴらに商いを始めるのを繰り返していた。
「しかし、ここ数年、おもしろいことになっててな」
楠木兵右衛門は言った。
今は三浦屋の用心棒をしているが、元は美作藩に仕えていたという浪人だ。
「と、いうと?」
蔵人は訊いた。
「蔭間茶屋に手入れが入っても、蔭間はひとりもいやしない、ただの茶屋でございます、という寸法だ。肝心の蔭間がいなければ、幕府だって手も足も出せないからな」
「それはつまり、情報を流してるやつがいるってことか?」
「おそらくな。まあ、蔭間茶屋が潰れたら、俺たちも商売上がったりだ。うまくやってくれてるぶんには言うことないさ」
「たしかにな」
事件が起きたのは、そんな会話をした日の夜のことだった。
いわゆる「揚げ屋」と呼ばれる料理茶屋で、もっぱら裕福な客が蔭間を呼んで遊ぶ目的で利用されている店だった。
色街にある酒の場であることから、蔵人のほかにも、腕の立つ用心棒が何人も雇われていた。
彼らの仕事は、酒に酔って乱暴狼藉を働く客を追い出したり、無銭飲食をした輩をこらしめたりすることだった。
江戸には南町奉行所があり、町民の間で起きた係争を裁いているが、芳町のような色街は奉行所の管轄外だ。
幕府は、風紀を乱すとして、少年売春そのものを禁止している。
芳町の蔭間茶屋にも定期的に町方与力の手入れがあり、手入れのあった直後はおとなしくしているものの、しばらくしてほとぼりが冷めると、また大っぴらに商いを始めるのを繰り返していた。
「しかし、ここ数年、おもしろいことになっててな」
楠木兵右衛門は言った。
今は三浦屋の用心棒をしているが、元は美作藩に仕えていたという浪人だ。
「と、いうと?」
蔵人は訊いた。
「蔭間茶屋に手入れが入っても、蔭間はひとりもいやしない、ただの茶屋でございます、という寸法だ。肝心の蔭間がいなければ、幕府だって手も足も出せないからな」
「それはつまり、情報を流してるやつがいるってことか?」
「おそらくな。まあ、蔭間茶屋が潰れたら、俺たちも商売上がったりだ。うまくやってくれてるぶんには言うことないさ」
「たしかにな」
事件が起きたのは、そんな会話をした日の夜のことだった。
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