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第9章 再会

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 わずか五石の捨て扶持では使用人を雇うこともできず、それまでは下男下女らがやっていた仕事──水汲みや薪拾いは、仙千代の役目であった。

 薪拾いに行った仙千代は、人気ひとけのない場所で五人の上級生に囲まれた。

 力ずくで押し倒され、押さえこまれ、もはやこれまでと思ったとき、たまたま通りかかって助けてくれたのが、長谷川蔵人だった。

「なにやってんだ?」

 蔵人は、上級生らを見まわした。

「その子は儂がいただく。お前たちは退散せよ」

 当時、すでに十九歳で、上級生らの先輩であり、武芸に秀でた蔵人に逆らう者はいなかった。

 しかし、蔵人は仙千代の初物を奪うわけでも、ちょっかいを出すわけでもなかった。

 ただ、家まで送り届けただけだった。

 それだけではなく、蔵人は、仙千代は自分のものであると周囲に吹聴することで、他の者が仙千代に手出しできぬように守ってくれた。

 それでも、蔵人が仙千代に手を出すことはなかった。

 誇り高い蔵人は、仙千代が自分を守ってくれる対価として肉体を差し出されても、嬉しくはなかったのだ。

 蔵人は、ただ仙千代と一緒にいられるだけで良いと思っていた。

 一方の仙千代にとって、蔵人は、苦しい生活の中での唯一の明るい彩りであった。

 氷見家の暮らしは貧しく、仙千代がそれまで想像だにしたことのなかったような辛抱の連続の中で、蔵人と会えることだけが、唯一の救いとなっていたのだ。
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