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第9章 再会
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それから、仙千代は蔵人に酒を注ぎ、懐かしい故郷での思い出を語り合った。
「仙、そなたは食べないのか?」
「夕餉は先に済ませてある」
「まことか?」
蔵人は、疑いのまなざしを向けた。
仙千代の輪郭は、蔵人の記憶にあるよりも細くなっていた。
なにより、あの痛々しく充血して腫れあがった胸を見るかぎり、この店で仙千代が大事にされているとは思えなかった。
「毎日、白い飯を腹いっぱい食べさせてもらってる。これは本当だ」
では、それ以外は嘘なのか──蔵人は内心ひとりごちたが、口には出さなかった。
蔵人は、仙千代に初めて出会ったときも、あまり愉快な状況ではなかったことを思い出していた。
大目付の子であった仙千代は、現代的に表現すると、屋敷に家庭教師を呼んで勉強をしていた。
しかし、父が陰謀に巻き込まれ、その責任をひとり押し付けられる形で切腹すると、仙千代たちの生活は激変した。
三千石の高級武家から、お情けで五石の捨て扶持をもらう、士分の中の最底辺に転落したのだ。
仙千代は、藩校に通うことになった。
江戸時代の初期までは、武家の子供たちの教育は寺院や僧侶が担っていたが、江戸中期になると、藩士の子弟が均質的な教育を受けられるようにと、日本中の諸藩がこぞって藩校を設立。
家庭教師を雇うことの出来ない中流以下の藩士──士分の大半を占める家の子供は、藩校で教育を受けるようになった。
武家社会の上層から底辺に転げ落ちてきた仙千代は、藩校で、陰湿ないじめを受けた。
また、長幼の序や義理を重視する風土からか、会津では衆道が盛んで、美形の少年は、そっちの面でも狙われた。
だれに言い寄られても、付け文をされてもなびかない仙千代を、上級生たちは、お高く止まっている、自分の立場をわきまえず他の者を見下している、生意気だ、などと言いがかりをつけて、私的制裁──数人がかりで手篭めにしようとしたのである。
「仙、そなたは食べないのか?」
「夕餉は先に済ませてある」
「まことか?」
蔵人は、疑いのまなざしを向けた。
仙千代の輪郭は、蔵人の記憶にあるよりも細くなっていた。
なにより、あの痛々しく充血して腫れあがった胸を見るかぎり、この店で仙千代が大事にされているとは思えなかった。
「毎日、白い飯を腹いっぱい食べさせてもらってる。これは本当だ」
では、それ以外は嘘なのか──蔵人は内心ひとりごちたが、口には出さなかった。
蔵人は、仙千代に初めて出会ったときも、あまり愉快な状況ではなかったことを思い出していた。
大目付の子であった仙千代は、現代的に表現すると、屋敷に家庭教師を呼んで勉強をしていた。
しかし、父が陰謀に巻き込まれ、その責任をひとり押し付けられる形で切腹すると、仙千代たちの生活は激変した。
三千石の高級武家から、お情けで五石の捨て扶持をもらう、士分の中の最底辺に転落したのだ。
仙千代は、藩校に通うことになった。
江戸時代の初期までは、武家の子供たちの教育は寺院や僧侶が担っていたが、江戸中期になると、藩士の子弟が均質的な教育を受けられるようにと、日本中の諸藩がこぞって藩校を設立。
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また、長幼の序や義理を重視する風土からか、会津では衆道が盛んで、美形の少年は、そっちの面でも狙われた。
だれに言い寄られても、付け文をされてもなびかない仙千代を、上級生たちは、お高く止まっている、自分の立場をわきまえず他の者を見下している、生意気だ、などと言いがかりをつけて、私的制裁──数人がかりで手篭めにしようとしたのである。
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