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第9章 再会
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「仙……」
名前を呼んだものの、その先が出てこなかった。
「わかっただろう?」
仙千代は身を起こすと、悲しい微笑を浮かべた。
「私は蔭間だ。半刻いくらの慰み者なんだよ。ここに来て、たくさんの男と寝た、もう数えきれないほどの。こんな汚れた私のことなど忘れて、お孝を幸せにしておくれ……」
仙千代は蔵人に背中を向けるが、
「そなたは汚れてなどおらぬ!」
蔵人は、うしろから仙千代を抱きしめた。
「仙、そなたが江戸に奉公に行くと申し出たからこそ、お孝は行かずに済んだのだ。妹を助けるために自らすすんで身代わりになった、さような心根を持つそなたが、汚れてなどいるわけがない」
「……」
「そなたを汚せる者などおらぬ。だれになにをされようとも、仙は仙だ。だれにも汚すことはできぬ」
仙千代を抱く蔵人の腕に力がこもる。
ややあって、蔵人が泣いていることに、仙千代は気づいた。
仙千代は、蔵人の腕に手を置いた。
「すまない……」
蔵人の声は震えていた。
「何故、そなたが謝る?」
「そなたが辛い目に遭っているのに、儂はなにも出来ぬ……」
「私が自分で選んだ道だ、だれのせいでもない。それに……蔵人、そなたはお孝を娶り、幸せにしてくれると言った。それだけで充分すぎるほどだ」
まばたきをすると、仙千代の目からも涙がこぼれ、頬に伝い流れていった。
「仙、今宵は儂と共に過ごしてくれるか? なにもしないでいい……ただ、こうして側にいてくれれば……」
「蔵人……」
仙千代は向き直ると、蔵人に抱きつき、その胸に顔をうずめた。
名前を呼んだものの、その先が出てこなかった。
「わかっただろう?」
仙千代は身を起こすと、悲しい微笑を浮かべた。
「私は蔭間だ。半刻いくらの慰み者なんだよ。ここに来て、たくさんの男と寝た、もう数えきれないほどの。こんな汚れた私のことなど忘れて、お孝を幸せにしておくれ……」
仙千代は蔵人に背中を向けるが、
「そなたは汚れてなどおらぬ!」
蔵人は、うしろから仙千代を抱きしめた。
「仙、そなたが江戸に奉公に行くと申し出たからこそ、お孝は行かずに済んだのだ。妹を助けるために自らすすんで身代わりになった、さような心根を持つそなたが、汚れてなどいるわけがない」
「……」
「そなたを汚せる者などおらぬ。だれになにをされようとも、仙は仙だ。だれにも汚すことはできぬ」
仙千代を抱く蔵人の腕に力がこもる。
ややあって、蔵人が泣いていることに、仙千代は気づいた。
仙千代は、蔵人の腕に手を置いた。
「すまない……」
蔵人の声は震えていた。
「何故、そなたが謝る?」
「そなたが辛い目に遭っているのに、儂はなにも出来ぬ……」
「私が自分で選んだ道だ、だれのせいでもない。それに……蔵人、そなたはお孝を娶り、幸せにしてくれると言った。それだけで充分すぎるほどだ」
まばたきをすると、仙千代の目からも涙がこぼれ、頬に伝い流れていった。
「仙、今宵は儂と共に過ごしてくれるか? なにもしないでいい……ただ、こうして側にいてくれれば……」
「蔵人……」
仙千代は向き直ると、蔵人に抱きつき、その胸に顔をうずめた。
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