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第9章 再会

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「お仙ちゃん、お泊まりの指名が入りました。牡丹の間で、お客さんがお待ちです」

 早めの夕餉を終えて、丁子油と房楊枝で歯を磨いていると、佐吉に声をかけられた。

 丁子油とは、現在ではクローブとして知られる香辛料の、原料となる植物を絞って作った揮発性の油である。

 武士が刀を手入れしたり、髪結い油として使われているほか、口臭予防や歯を白くする効果があり、色街でも広く使用されていた。

「はい、ただいま参ります」

 仙千代は急いで口をすすぐと、厠に行って尻にふのりを仕込んで濡らし、佐吉に付き添われて二階に向かった。

 もし、ひどく性急な客に、いきなり尻を使われるようなことがあっても、被害や苦痛を最小限に抑えるため、蔭間たちが事前に濡らして慣らしておくのは普通のことだった。

「会津言葉を話すお武家様です」

 階段を上り終えたとき、佐吉が耳元で囁く。

 仙千代が振り向くと、佐吉は素知らぬ顔で先を促した。

 この時代、参勤交代のために日本中の諸国諸藩から武士が江戸に集まり、江戸にある藩邸に駐在している者も多い。

 会津から来た武士が物見遊山でたまたま川上屋を訪れ、たまたま会津出身の蔭間がいると聞いて指名したとしても、べつにおかしな話ではない。

「お客さま、お仙を連れて参りました」

 障子の前にひざまずき、佐吉が述べた。

「入れ」

「失礼いたします」

 佐吉は障子を開け、仙千代に向き直る。

 仙千代は室内ににじり入り──息を飲んだ。

「それでは、ごゆっくり」

 背後で佐吉が障子を閉めて、その場を立ち去る気配がした。
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