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第8章 新入り

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 蔭間として色街に売られてくる少年は、本人の出自や出身地、容姿や年齢によって、値段はまちまちである。

 東北の貧しい農村から売られてくる少年は、五両から十五両と比較的安価だが、武家出身の少年は、安くても五十両以上の値段がついた。

 吉原では、花魁おいらんと呼ばれる高級遊女になるためには、六、七歳で郭入りし、禿かむろと呼ばれる「花魁見習い」となって、修行を始める必要があった。

 貧農の娘を、読み書きから始まり、美しい文字を書くための手習い、古典や論語の知識、即興で和歌を詠む教養を身につけさせ、茶道、唄や踊り、琴、三味線などの芸を仕込み、花魁に育て上げるには、十年近くの歳月が必要だった。

 一方、十歳を過ぎてから売られてきて、禿経験のない娘は、花魁になるための教養や芸を身につけるには遅すぎ、中級以下の遊女にしかなれなかった。

 例外は武家の娘で、遊郭に売られる前に、実家で身につけた教養や芸事、礼儀作法などの素地があるため、十歳以上で郭入りしても、高級遊女に上り詰める道は残されていた。

 蔭間の場合、茶屋にやってくるのは十歳以上の少年で、仕込み期間も長くて数ヶ月だ。

 だからこそ、売られてくる以前の環境で身につけたこと──読み書きは出来るか、どれだけの教育を受けたか、どんな話し方をするかなど、「生まれ育ち」が物を言った。

 武家で育った男子なら、たとえ没落したり貧しくても、最低でも読み書きはでき、きちんと口上や挨拶ができる上、農村の子よりも栄養状態が良く、体が丈夫だと考えられていた。

 また、武家出身ということ自体が付加価値となるので、高値で売買されていた。
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