45 / 120
第8章 新入り
1
しおりを挟む
川上屋では、新入りの少年が来ても、亭主や金剛たちが親切に先輩の蔭間に紹介してくれるようなことはなかった。
いきなり部屋に連れてこられて、置いていかれる。
仙千代のときも、そうだった。
午後、夕暮れからの書き入れ時を前に、昼食を兼ねた早めの夕餉をとった仙千代が、身支度をするために部屋に行くと、その少年がいた。
「お初にお目にかかります。それがしは秋山松千代と申します。お見知りおきくださいませ」
まだ十歳くらいだろうか、幼い顔を緊張させて部屋のすみに座り、仙千代に一礼した。
さすがに腰のものは差していないが、藍色の小袖に、泥色の小袴を身につけている。
その居住まいや言葉遣いから、武家の子だとわかった。
「それがしは氷見仙千代、お仙と呼ばれている。秋山どの、そなたは今日、ここに参られたのですか?」
相手につられて武家言葉で応答したものの、仙千代はここに来てから武士らしさを消そうと努めて話し方に気を付けているため、少し奇妙な気分になった。
「はい、本日まいりました」
「いくつである?」
「十でございます」
少年の緊張や不安が伝わってくる。
──十なんて……まだ小童じゃないか。
当の仙千代も、まだ声変わりもしていなかったが、まだ十歳で親元を離れてこんなところに売られてきた彼の心中を察して、胸が痛んだ。
しかし、あんまりのんびりしていると、仙千代自身が叱られてしまうため、この少年に構っている余裕はなかった。
仙千代は鏡の前でくちびるに紅をさし、着崩れを直すと、急いで店に戻った。
それからしばらくして、その少年が金剛に連れられて店に出てきた。
髪は稚児髷──髪を頭頂で束ね、二つの輪の形にした髪型に結い、寺稚児のように女装をしている。
そうなる前の姿を見ていなければ、仙千代は、彼を美少女と信じて疑わなかっただろう。
「貧乏旗本の次男なんやて」
お凜がささやいた。
少年は、お由宇と源氏名を与えられ、しばらくは見習いとして、酒や料理のお運びをしながら、仕込みを受けるという。
「喜八が付いたなら、あの子は売れるわぁ」
お由宇には、このあいだ身請けされたお雪に付いていた金剛、喜八が付けられた。
「喜八に仕込まれるのかぁ」
お蘭は同情を示した。
「なにをされるの?」
仙千代は尋ねた。
「そういえば、お仙ちゃんは、仕込み期間なしで初日から客を取らされたんだっけ。痛くなかった?」
「うん、まあ……」
仙千代は曖昧に答えた。
その時、揚げ屋にいる客がお凜を御指名との使いが来て、彼は金剛に連れられて店を出て行った。
つづいて、お蘭と仙千代にも指名が入り、べつべつに二階に上がったため、その話は中断となった。
いきなり部屋に連れてこられて、置いていかれる。
仙千代のときも、そうだった。
午後、夕暮れからの書き入れ時を前に、昼食を兼ねた早めの夕餉をとった仙千代が、身支度をするために部屋に行くと、その少年がいた。
「お初にお目にかかります。それがしは秋山松千代と申します。お見知りおきくださいませ」
まだ十歳くらいだろうか、幼い顔を緊張させて部屋のすみに座り、仙千代に一礼した。
さすがに腰のものは差していないが、藍色の小袖に、泥色の小袴を身につけている。
その居住まいや言葉遣いから、武家の子だとわかった。
「それがしは氷見仙千代、お仙と呼ばれている。秋山どの、そなたは今日、ここに参られたのですか?」
相手につられて武家言葉で応答したものの、仙千代はここに来てから武士らしさを消そうと努めて話し方に気を付けているため、少し奇妙な気分になった。
「はい、本日まいりました」
「いくつである?」
「十でございます」
少年の緊張や不安が伝わってくる。
──十なんて……まだ小童じゃないか。
当の仙千代も、まだ声変わりもしていなかったが、まだ十歳で親元を離れてこんなところに売られてきた彼の心中を察して、胸が痛んだ。
しかし、あんまりのんびりしていると、仙千代自身が叱られてしまうため、この少年に構っている余裕はなかった。
仙千代は鏡の前でくちびるに紅をさし、着崩れを直すと、急いで店に戻った。
それからしばらくして、その少年が金剛に連れられて店に出てきた。
髪は稚児髷──髪を頭頂で束ね、二つの輪の形にした髪型に結い、寺稚児のように女装をしている。
そうなる前の姿を見ていなければ、仙千代は、彼を美少女と信じて疑わなかっただろう。
「貧乏旗本の次男なんやて」
お凜がささやいた。
少年は、お由宇と源氏名を与えられ、しばらくは見習いとして、酒や料理のお運びをしながら、仕込みを受けるという。
「喜八が付いたなら、あの子は売れるわぁ」
お由宇には、このあいだ身請けされたお雪に付いていた金剛、喜八が付けられた。
「喜八に仕込まれるのかぁ」
お蘭は同情を示した。
「なにをされるの?」
仙千代は尋ねた。
「そういえば、お仙ちゃんは、仕込み期間なしで初日から客を取らされたんだっけ。痛くなかった?」
「うん、まあ……」
仙千代は曖昧に答えた。
その時、揚げ屋にいる客がお凜を御指名との使いが来て、彼は金剛に連れられて店を出て行った。
つづいて、お蘭と仙千代にも指名が入り、べつべつに二階に上がったため、その話は中断となった。
21
お気に入りに追加
159
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。



身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。


お兄ちゃんはお医者さん!?
すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。
如月 陽菜(きさらぎ ひな)
病院が苦手。
如月 陽菜の主治医。25歳。
高橋 翔平(たかはし しょうへい)
内科医の医師。
※このお話に出てくるものは
現実とは何の関係もございません。
※治療法、病名など
ほぼ知識なしで書かせて頂きました。
お楽しみください♪♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる