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第5章 苦界

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 粉雪の舞い散る朝、連れ戻されたお雪は、中庭で肌着一枚に剝かれ、その上から全身を麻縄できつく縛られ、冷水を浴びせられたという。

「麻縄は、水に濡れると縮まるんだ」

 美しく品のあるお雪が、真冬の朝、白い肌着の上に縄をかけられ、外で冷水をかけられて濡れそぼり震えている姿を想像すると、仙千代の胸は痛んだ。

 寒い中、冷水を浴びること自体が辛いのに、細い肉体に喰い込む麻縄にきりきりと締めつけられるのは、どれほど痛くて苦しかったことだろう。

「肌着を着せているのは、出来うるかぎり肌に縄目の痕を残さないようにするためでもあるんだけど、苦痛を深めるためでもあるんだ」

 お蘭は説明した。

 冷気の中では、裸でいるより、濡れた肌着を身に着けているほうが、寒さがより身にしみる。

 水の滴る肌着を着せたまま冷たい風に晒し、幾度となく冷水を浴びせることで、お雪の身体ばかりではなく、心も凍りつかせるのが目的だった。

「でも、それは、ほんの始まりに過ぎなかったんだ……」

 二度と逃げないから許してと泣いて許しを乞うお雪を、ほかの蔭間たちの環視の中、丸裸にして縛り上げ、逆さ吊りにすると、そのまま水を張った桶風呂に沈めたというのだ。

 逆さに吊るされる苦痛に加え、水に沈められて呼吸を制限される苦痛──仙千代には想像もつかないような苦しみだったに違いない。

「何度もくりかえすうちに、お雪さん、おしっこをもらして気を失って……そうすると、地面におろして、水を吐かせて休ませるんだけど、しばらくすると、また吊るし上げて水に沈めて……それをずっと何度もやるんだ。何日間も、毎日」

 川上屋の顔でもあり一番の稼ぎ頭の蔭間に対して行われたという、にわかには信じがたい仕打ちに、仙千代は言葉を失った。

「旦那さまの指示で、何日にも渡って折檻は続けられた。その間も、お雪さんは一日も休まず客を取ってた」

 声をひそめ、お蘭は続けた。

「水責めが終わると、足の指先の爪の間に針を刺して、ほじくるんだ。お許しくださいと泣き叫ぶお雪さんを、金剛数人で押さえつけて……すごい悲鳴だったよ」

 仙千代は怖気をふるった。

「私は川上屋に来たばかりだったけど、そうやって毎日、お雪さんを折檻する様子を見させられた。ちょうど十日間」

「十日間?」

「足の指は十本だから」

「……」

「あれを見て、私は絶対、足抜けはしないと心に決めたよ」

 商品に傷をつけずに痛めつける方法は、いくらでもあった。

 売れっ子の蔭間でも、足抜けすれば、容赦はなかったのだ。

 ──足抜けだけはあかん。

 お雪の言葉の重みが、あらためて、仙千代の胸にずっしりと迫った。
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