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第5章 苦界
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「お仙ちゃん、どない辛くても、足抜けだけはあかん。逃げられた者なんか居ぃひんし、あないな酷い目に遭うくらいなら……」
お雪は言葉を詰まらせた。
川上屋に限らず芳町の蔭間茶屋では、足抜けした蔭間は、見せしめのために折檻にかけるのが通例となっている。
どのような種類の折檻に、どの程度かけるかは、その蔭間の商品価値や普段の素行によって、茶屋の亭主が決めることになっていた。
痛めつけた末に死んでも構わないと判断された場合、丸裸で天井の梁に吊るされて竹木で叩かれるなど、死ぬほど苛烈な折檻が加えられた。
それに耐えられず命を落とした蔭間は、裸で「投げ込み寺」の大穴に投げ込まれた。
投げ込まれた者は、牛や馬と同じとして、戒名も与えられなければ墓もなく、誰にも供養されることはないという。
過酷な日々に耐えきれず足抜けして、見せしめに折檻され、壮絶な苦痛の中で死んだ蔭間は、人として葬ると「祟る」と考えられていた。
そのため、わざと素っ裸のまま遺体を捨て置き、その死後も「人」として扱わずに家畜並みに貶めることで、畜生道に落とすというのだ。
「そんな、酷い……」
仙千代は絶句した。
ここは酷いところだとは知っていたが、そこまで酷いとは思っていなかった。
「ここは苦界や、地獄穴や……」
お雪はひとりごとのように呟いた。
仙千代の目から見てもため息が出るほど美しく、一番の売れっ子であるお雪の口から漏れる言葉は、じんと重みがあった。
お雪は言葉を詰まらせた。
川上屋に限らず芳町の蔭間茶屋では、足抜けした蔭間は、見せしめのために折檻にかけるのが通例となっている。
どのような種類の折檻に、どの程度かけるかは、その蔭間の商品価値や普段の素行によって、茶屋の亭主が決めることになっていた。
痛めつけた末に死んでも構わないと判断された場合、丸裸で天井の梁に吊るされて竹木で叩かれるなど、死ぬほど苛烈な折檻が加えられた。
それに耐えられず命を落とした蔭間は、裸で「投げ込み寺」の大穴に投げ込まれた。
投げ込まれた者は、牛や馬と同じとして、戒名も与えられなければ墓もなく、誰にも供養されることはないという。
過酷な日々に耐えきれず足抜けして、見せしめに折檻され、壮絶な苦痛の中で死んだ蔭間は、人として葬ると「祟る」と考えられていた。
そのため、わざと素っ裸のまま遺体を捨て置き、その死後も「人」として扱わずに家畜並みに貶めることで、畜生道に落とすというのだ。
「そんな、酷い……」
仙千代は絶句した。
ここは酷いところだとは知っていたが、そこまで酷いとは思っていなかった。
「ここは苦界や、地獄穴や……」
お雪はひとりごとのように呟いた。
仙千代の目から見てもため息が出るほど美しく、一番の売れっ子であるお雪の口から漏れる言葉は、じんと重みがあった。
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