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第4章 揚げ屋
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金剛は蔭間の従者であるが、売られてきた素人の少年を、一人前の蔭間に仕立て上げるのも、彼らの仕事だった。
まだ子供といえる齢の少年に、蔭間の心得を説き、指や道具を使って少しずつ菊座を拡げ、言葉遣いや立ち居振る舞いを躾けるのは、生易しいことではない。
仙千代が川上屋に来たときは、すでに生童ではなく、武家の子としてきちんと躾けられていた為、亭主の判断によって、あえて仕込み期間は設けず、初日から客を取らせた。
しかし、それは例外であり、貧しい農村などから売られてきた少年の場合、蔭間として店に出る前に、金剛によって仕込まれて躾けられるのが通例だった。
「すみません」
佐吉は客に頭を下げると、仙千代に向き直った。
「お仙ちゃん、片意地張らずに名前を言っちまいな。今ならまだ、痛い思いをしないで済む。なあ、頼むから言うことを聞いておくれ」
仙千代は一瞬だけためらうが、すぐに首を振った。
「佐吉、お前がやれ」
客は仙千代の前髪をつかむと乱暴に引き起こし、若侍は佐吉に竹ばさみを渡した。
佐吉はごくりと唾を飲むが、彼は金剛として経験を重ね、蔭間の過酷な現実を知っていた。
蔭間として生きるなら、意気地や矜持は、最初から持たないほうがよい。
矜持など持っているほうが、余計に辛いのだ。
彼は心を鬼にすると、仙千代の片方の乳首に、竹ばさみを嚙ませた。
「うぅッ!」
仙千代は反射的に胸をかばってうずくまろうとするが、前髪をわしづかみしている客に上に引っ張られ、顔を上げさせられる。
薄く開いたくちびるの間から見える白い両歯は、痛みのために嚙みしめられ、目隠しをする手ぬぐいは、涙を吸って濡れていた。
「どうだ、言う気になったか?」
「……」
「やれ」
佐吉は、もう片方の乳首にも竹ばさみを嚙ませた。
仙千代の顔は激しい苦痛に歪み、額には玉の汗が浮かぶ。
「さて、いつまで強情を張っていられるかな?」
客は下卑た笑い声をもらすと、仙千代の首がのけぞるほど前髪をつかんだ腕を引いて、むせび泣く顔を上から覗き込んだ。
まだ子供といえる齢の少年に、蔭間の心得を説き、指や道具を使って少しずつ菊座を拡げ、言葉遣いや立ち居振る舞いを躾けるのは、生易しいことではない。
仙千代が川上屋に来たときは、すでに生童ではなく、武家の子としてきちんと躾けられていた為、亭主の判断によって、あえて仕込み期間は設けず、初日から客を取らせた。
しかし、それは例外であり、貧しい農村などから売られてきた少年の場合、蔭間として店に出る前に、金剛によって仕込まれて躾けられるのが通例だった。
「すみません」
佐吉は客に頭を下げると、仙千代に向き直った。
「お仙ちゃん、片意地張らずに名前を言っちまいな。今ならまだ、痛い思いをしないで済む。なあ、頼むから言うことを聞いておくれ」
仙千代は一瞬だけためらうが、すぐに首を振った。
「佐吉、お前がやれ」
客は仙千代の前髪をつかむと乱暴に引き起こし、若侍は佐吉に竹ばさみを渡した。
佐吉はごくりと唾を飲むが、彼は金剛として経験を重ね、蔭間の過酷な現実を知っていた。
蔭間として生きるなら、意気地や矜持は、最初から持たないほうがよい。
矜持など持っているほうが、余計に辛いのだ。
彼は心を鬼にすると、仙千代の片方の乳首に、竹ばさみを嚙ませた。
「うぅッ!」
仙千代は反射的に胸をかばってうずくまろうとするが、前髪をわしづかみしている客に上に引っ張られ、顔を上げさせられる。
薄く開いたくちびるの間から見える白い両歯は、痛みのために嚙みしめられ、目隠しをする手ぬぐいは、涙を吸って濡れていた。
「どうだ、言う気になったか?」
「……」
「やれ」
佐吉は、もう片方の乳首にも竹ばさみを嚙ませた。
仙千代の顔は激しい苦痛に歪み、額には玉の汗が浮かぶ。
「さて、いつまで強情を張っていられるかな?」
客は下卑た笑い声をもらすと、仙千代の首がのけぞるほど前髪をつかんだ腕を引いて、むせび泣く顔を上から覗き込んだ。
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