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第4章 揚げ屋

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 仙千代と佐吉は、いかにも高級そうな店構えの料理茶屋に入った。

 出迎えた女将に、佐吉が川上屋の名を告げると、二階の座敷に案内された。

「川上屋です。お仙を連れてまいりました」

 障子の前にひざまずいて、佐吉が述べた。

「入れ」

 中から応えがあった。

「失礼します」

 佐吉は障子を開けて、中に入るように仙千代を促した。

 仙千代は敷居の前で一礼すると、室内ににじり入った。

「お初にお目にかかります、仙と申します、よろしゅうお願い申し上げます」

 そう口上すると、深々と頭を下げた。

 座敷では先まで酒宴が開かれていたようだが、今は若い男が一人、いるだけだった。

「会津藩の大目付のせがれなんだって?」

 男は仙千代を一瞥した。

 その口調と身なりから、この若い男は武士であるとわかった。

「はい、わけあって没落しましたが、会津藩の大目付の家の子だったことに偽りはありません」

 佐吉が答えた。

「羽織と袴を脱ぎなさい」

 男は命じた。

 仙千代は、佐吉に手伝われて羽織と袴を脱いだ。

「近くに寄れ」

 男に言われるまま、振袖姿の仙千代は相手のそばに行き、再度、頭を下げた。

 その仙千代の顎をつかみ、顔を上げさせると、まるで茶器などを品定めするような目で、男はまじまじと仙千代の顔面を観察する。

 ──冷たい目。

 初めて揚げ屋に呼ばれた嬉しさや、さっきまでの心躍るような解放感は消え失せ、仙千代の顔は緊張にこわばった。

「なかなかの別嬪べっぴんじゃないか、これなら我が殿も御満足されるに違いない」

 男は薄笑いを浮かべると、懐から白い手ぬぐいのようなものを取り出した。

「これで目隠しを」

「はい」

 佐吉はそれを受け取り、仙千代に目隠しをした。

「お仙ちゃん、お客様に言われたとおりにしてください」

 困惑する仙千代の耳に、佐吉がささやいた。
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